43 文化交流会2日目~答え~
賑やかで、とっても贅沢なお茶会。
皆には秘密だが、三日月にとっては本日二度目となる、おいしい時間である。
「さぁさぁ、どうぞ~♪」
「んエッ? せんせぇ……」
なぜか?
ラフィール直直に、軽い足取りで飲み物を運んでくる。
「メルティちゃんは、オレンジとアップルのジュースですねぇ。搾りたてをご用意しましたよ~」
「「わぁ~い!!」」
(ほ、ほえぇー?!)
三日月が驚くのも無理はない。おしゃれなジュースグラスに注がれた果汁百パーセントの搾りたてジュースには果肉も入っており、見ただけでフレッシュさが伝わってくる。
「「ジュースだぷ~♪」」
(メル・ティルちゃん。「だぷ~」って……)
二人は大好きなジュースにキャッキャとテンション上がりっぱなしだ。
「はぁ~いお次は、太陽さんの分です……どうぞ、モカですよ~」
「はっ! ありがとうございます! 大変恐縮です!!」
「またまたそんなぁ、気楽にして下さいねぇ。せっかくの珈琲の美味しさが半減してしまいますよ!」
三日月と違い、太陽はラフィールと関わることがまずない。初めて話をする場がなんと滅多に参加できないお茶会……それはそれは大緊張であった。しかしそんな太陽の気持ちなど気にもしていないのか、ラフィールはいつもの調子でふわふわと話しかける。
「あっ、そうそう♪ ブラックでよろしいですか?」
「はいっ、ありがとうございます!」
「いえいえ、良かったです~フフフ」
真面目な太陽に笑う先生。それからティーワゴンからもう一つ、ラフィールは手に取った。
「さぁ~てッ、お待ちかね。はぁ~い月さんどぉぞ〜♪ モカですよぉ」
「ありがとうございます」
“カチャン”
置かれたカップとソーサーの音が優しく心に響く。
(あ、可愛い)
本日一度目お茶会とはまた違った感じで愛らしいクマのカップに、あま~い香りのするモカ珈琲。自然に三日月はほんわか笑顔になる。
すると、こっそり。
『お約束のカフェオレは、また今度です♪』
「――ッ!!」
急に耳元で綺麗な声が囁き、驚き慌てる彼女の顔は真っ赤っかである。
「うっふふふ〜」
(もぉ~先生ってば!!)
いつもと同じようにぷくっと頬を膨らまし、ぷんぷんアピールをする。それぐらい三日月は心身ともに穏やかさを取り戻していた。ラフィールはそれを見てなぜか満足げで悪戯な表情をしながら、彼女の向かいに腰掛ける。
「では少しだけ、お話をしましょう」
「ぁ……はい」
――空気が、引き締まった。
「さてさて、月さん。今回の大会において【鍵】使用の条件とした『魔法を楽しむこと』。このお約束は守れましたか?」
穏やかな口調で話し始めたその声は、三日月の中で静かに響く。そして彼女の返事を聞かずとも分かっているようなラフィールの力強く優しい瞳に、吸い込まれそうになる。
――あの瞬間、感じた魔法への思いを。
三日月は今回のオリジナル魔法発動と、攻撃(挑戦)が成功したことにとても大きな達成感を感じていた。今でも考えるだけでわくわくと胸が弾み、三日月形の弓を完成させた喜びが沸き上がる。大会を通じて、三日月は魔法に対する恐怖心を克服し、好きだと思えるようになっていたのだ。
(これから先、同じ魔法を使ったとしても)
――きっとずっと、今日のキモチは忘れない。
三日月は、セルクからもらった蒼い石のブレスレットへそっと触れると、ラフィールに満面の笑みで答えた。
「先生、わたし。お約束守れましたっ!」
「そうですか! それは良かったです……本当に」
(月さん、成長したようですね)
ラフィールは、少し感慨深い表情になる。でもまたすぐいつもの笑顔に戻る。
「では、ひとつだけ! 今回の反省点をお伝えしましょう♪」
(うぅっ! やっぱり逃れられないのね~。反省会)
――どうしよぉ。こわいよぉ!!
ラフィールは、そんな三日月の表情に気付き、クスッと笑いながらゆっくりと話し始めた。
「今回、あなたに許可した魔力レベルは『Ⅱ』です。しかし、その魔力を使い切ってしまう程に身体を消耗してしまいましたね? これがどういう事か、解っていますか?」
「ハイ。すみません……(シュン)」
三日月の様子に「解っているのなら」とラフィール。そしてまだ話は続く。
「もし、あれが本番の戦闘であれば、大変危険です。しかしながら、一番心配していた魔力のコントロールは完璧でした。月さん、ここは文句なしにクリアですよ」
(良かった!)
ホッとしていたのも束の間。ラフィールは「これからはですねぇ~」と、まだまだ話は長い。
「今後の課題としては『自分の魔力量管理』と言ったところでしょうか。毎回戦いの度に自分が持つ、あるだけの魔力を使ってしまうのでは、身を滅ぼしかねませんからねぇ。そのへんは当然、ご理解いただけてますね?」
「ハイ、おっしゃる通りで……重々理解しております(しゅーん)」
三日月はラフィールからの注意にユックリと頷き、反省。
「ユイリア様を助けるためとはいえ、やりすぎにも程があります」
「はい。今後は注意して、もっと訓練を頑張ります」
しょんぼり顔を見て笑ったラフィールは、厳しい声から柔らかい声になる。
「よろしい! まぁ~でもねぇ……」
そう言うと少し時間を置き、ラフィールは優しい言葉で締めくくった。
「あの時、ユイリア様を狙うように向かってきた黒く光る強い魔力の矢。その危機を誰よりも先に感じ取った速さ、その後の素晴らしい判断と行動。そして――」
「……は、はい?」
「あ~いえいえ♪ 今日はこのくらいにしておきましょう。注意点はありますが、月さんの魔法――満点です。たいへん良く出来ました」
(ほ、褒めてもらえたぁー!)
「ラフィール先生、ありがとうございます!!」
三日月は嬉しく顔は緩み「やったぁ~」と両手を上げる。師であるラフィールからの言葉で、やっと安心することが出来たのだった。




