35 文化交流会2日目~条件~
様々な大会がある中で、ユイリアから指定されたのは『魔法アーチェリー』という、少し難易度の高い大会。“弓と矢”はもちろん、自分の魔力によって発動する各々の道具で戦う。
十人十色。様々な武器が見られるとあって、文化交流会の中でも一番と言っていいほど、観客(生徒)が多く集まる人気の大会だ。
――そして、先生方の気合の入り方も、他とは違う。
太陽が参加した大会同様、魔法科の先生方が作る魔力たっぷりの的に矢を放ち、その刺さる位置によって何点取れるかを競う。的は普通と違って星型であり、丸型の的に比べて矢を当てるのが難しい。その上、点数はバラバラに付けられている。なので、自分が確実に当てられる良い場所を見定め『狙って、打って、当てる』という、まさに【魔力コントロール】が必要な競技なのだ。
三日月自身も、魔力に対するトラウマ克服の第一歩としてはちょうど良い訓練になると、心の奥では解っていた。
(でも、今のわたしにこの挑戦は、不安がいっぱい)
結果次第で得点がもらえる、という成績に繋がる点はどの大会も同じで、夏休み明けの授業内容にも響いてくる。そのため、大会に出る生徒は皆、必死だ。
(一般生徒は後ろ盾がないので、特に頑張るのです!)
「うはぁ、登録してきたよぉ」
「「つっきぃーおっかえりぃーん!」」
受付に行っただけで強い圧と緊張を感じ戻ってきた三日月は、メルルとティルのお出迎えが可愛すぎて、ほんわか~ふわふわん。さらに双子ちゃんの「ガンバレ、ガンバレ♪」の歌が聴こえ癒される。
(メル・ティルの応援があると、力が湧いてきますねぇ)
「って、ん? でも……ちょっと」
とても、すごく、ありがたいが、しかし。
これ以上、自分の力が高まると大変だよーと、湧き上がる気持ちを深呼吸で落ち着ける。
周囲の賑やかさが本格的になり圧倒され始めた頃。青く澄み切った晴天の空から、聞き覚えのある声が近づいてきた。
「月さ~ん、どうですかぁ? 調子の方は」
(あは、また優雅に飛んでいらっしゃいますネ)
「ラフィール先生! おかげ様で、とてもいい感じ……だと思うのですが、やっぱり緊張が」
えへへと笑い身体の震えをごまかす三日月は内心「どうしよう、わたしってもしかしたら、本番に弱いタイプかもぉー」と、いまさら自己分析をしてみる。
その様子にラフィールは「なるほど~」と言い、フムフムと何やら話し始めた。
「月さん。本日のお茶会は、楽しかったですか?」
「え? あ、はい! 出来ればあの時間に、戻りたいくらいです」
(そう。あんなに幸せな時間、ずっと過ごしていたいに決まってる)
「おちゃ茶~?」「お菓子~?!」
「コラッ、話の邪魔しちゃいかんぞ!」
(おーっと! 危うくメル・ティルにお茶会の事、自分ばっかりぃーと、怒られるところだったぁ)
メルル・ティル期待のキラキラお目めを、太陽が受け止めてくれたおかげで、何とか秘密のお茶会は双子ちゃんに見つからず、ホッ。
「よ、良かった」
「ふふ、そうですね。楽しい時間を過ごせるというのは、本当に幸せな事です」
そう呟いたラフィールはゆっくりと地上へ、三日月の前にフワッと降り立つ。
「わ……き、れぃ」
(訪ねた時とは違う、素敵なお召し物で。その美しいお姿……羽が見えてきそうです。まるで……やっぱり! 先生は天使さんみたいじゃないですかぁー?!)
「先程セッティングしたお茶会は【楽しい魔法】ですね。そして癒し、攻撃、護り……その全てで魔力を使用し生まれる。すなわち、どの動きも【魔法】です」
楽しい魔法、優しさの詰まった癒し、大切な者のために戦うこと。
そして――。
「護ること」
先生の言葉は彼女の心奥に伝わる。そして何故か、ある言葉がふと頭に浮かんできた。
――【幸せの魔法】
(そうだ。自分を信じて、自分の能力を信じて)
「あっそうそう! それから【鍵】の使用を許可します、とお伝えしたのですが。その使用する際の“条件”を言うのを忘れていました~」
真面目に魔法について考えていた私は、一瞬で頭真っ白になった。
「んえ゙ーっ! 条件?!」
(はぁ~ヤダ。難しいことだったら、どうしよう)
「そ〜れ〜はッ」
(うぅぅ……コワイ)
「まぁまぁ、そんなに考えないで。簡単なことです……その条件とは『魔法を楽しむ』ですよ」
「たのしむ?」
(それって簡単そうで、もしかしたらある意味、とても難しいことなのでは?)
「先生、それは」
すかさず心配そうに口を開こうとするセルクに目配せをするラフィール。
「だ、大丈夫です。わたし、頑張ります!」
――さっき浮かんだイメージ【幸せの魔法】。そして『魔法を楽しむ』を、心に留めて。
(きっと、成功させてみせる!)
「次、セレネフォス=三日月、準備」
「――ッ」
(はぅ〜! 呼ばれたぁ、呼ばれましたよぉ!!)
ぽんっ。
「月さん、大丈夫。ちゃあーんと見ていますよ」
「は、はい!」
「素敵な笑顔でお返事、よろしいよろしい♪ しかし本当に、万が一。月さんの魔力が暴走した場合は、必ず助けますから。安心して、今あなたに出せる力の全てを――全力でいきなさい」
(勇気を出して、全力で)
ラフィールはいつものように三日月の頭を、よしよしナデナデ~と陽気にルンルンと可愛がる。
しかし、彼女は一つの違いに気付く。
(先生は「止めます」ではなくて)
――『必ず助けます』
(そう言ってくれた)
ラフィールが微笑み伝えた心。
それがまた彼女の自信へと繋がる。
「先生、本当にありがとうございます」
「いえいえ〜というよりも、まだまだこれからが本番ですよ」
「エッへへ、そうですね。ハイッ!」
何気ないその言葉には、教え子である三日月を応援する気持ちと、その力を信じる思いが込められているのだ。
――そして。
皆からの応援に勇気づけられた三日月は、心身ともに前へと、進んでゆく。




