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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第ニ章 文化交流会
39/84

29 文化交流会2日目~護衛~


「えっ? お客様……ですか?」

(私、いてもいいのかな?)


――ガチャッ。


 ゆっくりと、扉が開く。

 そして三日月は、お目めまんまる。無言のまま硬直し、驚きを隠せない。それもそのはず、彼女の目の前には――!!



「さてさて、月さん。またまたご紹介しますね。本日、あなたが参加なさる大会の会場まで、あなたの護衛を務めてもらう、【星守空(セルク)】君です」


「ほ、ほほ、星様」

(どうしてぇー?!)


「こんにちは、月」


「おやおや。おややや〜? 彼とはお知り合いでしたか?」


「あ、あの、はい。ラウルド様との騒動の際に、助けて下さったのが、星様で――」


「あぁ~なるほど! それで、(チラッ)ですか〜フムフム」


 何やらラフィールは、含みのある言い方をしてセルクを一瞬チラッと見てそらす。その怪しげな動きが三日月はとても気になり、彼女もチラッ――チラッと交互に二人を確認した。すると目が合ったラフィールはにっこーり、三日月はビクッ!


 ふふっと茶化した口調でセルクへと話しかけた。


「いや~なるほどそういうことだったのですねぇ」


(そういう、こと?)


「何がでしょう、先生」


 セルクは周囲が凍りそうなほどの冷たい視線で返事をするが、まったく気にする様子のないラフィールは「まぁまぁ、ひとまずお入りなさいな~」と、部屋の扉を閉める。


「いえねぇ、セルク君。いつもは依頼内容を細かく聞いて、検討なさる時もあるというのに。何故か今回は、対象者のお名前と要件を言っただけの二つ返事で護衛をOKしてくれたので、どうしてかなぁ? と不思議に思っていたのですよ。しかし……納得です。お相手が仲の良い、()()()()()()から、ですネ~??」


「んにゃっ――?!」

(仲が良いだなんて!!)

 

 なぜか三日月が恥ずかしそうにモゴモゴしているのを横目に、ラフィールの言葉を聞いたセルクは珍しく、不機嫌そうな気持ちを表に出し答える。


「何をおっしゃるかと思えば、ラフィール先生。ご依頼に関しては、彼女だからというわけではなく、お力になれるのであればどのような状況でも、可能な限りお受けしているはずです」


「おや? そうでしたかねぇ」

「えぇ、そうです。()()()()()()()からのご依頼、ですからね?」

「はいは〜い、分かりました、セルク君」


(うん、えっと。なぜだろう? 星様がちょっとだけムキになっているような気がする)


 どうやら揶揄われていることが、よほど気に入らないのか? セルクの怒った感じや見たことのない表情は、どこか幼さを感じさせる。


「ウッフフフ」

 そしてついに三日月は、微笑ましいという気持ちで、笑い始めてしまった。


「あらあら、月さん大笑いですねぇ?」


「そんなに笑っては! いえ、あの、ごめんなさい! えーと、ふふ。でもやっぱりちょっぴり。うふふ……」


(キミ)まで、そんな」

「ご、ごめんなさい星様……でも、フフッ」


 いつもクールな感じの彼が、頬を少し赤らめ恥ずかしそうにしている。その姿はとても新鮮で親近感が湧き、彼が少し可愛らしくも見えていた。


 和やかな時間を過ごしたところでラフィールが、さてさて、と仕切りなおす。


「まぁまぁまぁまッ! でも、良かったですよ本当に。安心、安心です」


 彼の髪をくしゃくしゃナデナデ「ご機嫌直してね~」と、今度は三日月の方を見たラフィール。


「月さんも、知らない方に側で護られるのは、お嫌だったでしょうし」


「はい……ありがとう、ございます」

(先生。なぜか、とてーも、嬉しそうですよネ?)


「それに、お二人がお友達という事でしたら、なぁーんにも問題ありませんねっ!」


(えぇ、えぇ、そうですね。先生はわたしの性格を良くご存じで)


 慣れない人との会話は、まだまだ苦手だ。特に今みたいな状況の中では「初めまして」という挨拶を交わす場面は、極力避けたい。


(そういえば……)

――『護衛』って、そもそもどういうことなの?


「えーっと、ラフィール先生。その護衛というのは……」


 するとラフィールは突然、大得意な“飛躍魔法”を使い浮いた。舞うように、ふわふわしながら楽しそうに。


「あらあら、お伝えしていませんでした? 私ったら、ごめんなさ~い」


(ウソっぽい)

 謝っているようには見えない。先生は明らかにウフフな笑みを浮かべている。


 恐らく護衛をつけるなどと言おうものなら、三日月が「大丈夫です!」と、全力で断って走り去ると分かっていて、あえて言わなかったのだろう。


(ラフィール先生、かなり過保護ですよぉ)


――でも、そこまで心配して下さるなんて、ちょっと嬉しいかも。


「うーん?」


(お二人の話していた『依頼』って? そもそも先生は、わたしと星様がお友達ってことを知らなかったはずのに、どうして……)


 それともう一つ。三日月は不思議に思うことがあった。彼女がラフィールのところへ相談に来たのは、約一時間前。その間ラフィールはずっと三日月の目の前にいて、どこかに行ったり何か他のことをしている様子はなかった。


 だとすれば何時(いつ)、どうやって?

 セルクへ『護衛依頼』の連絡をしたのだろうか、と。


(ぅ゙ー、謎だぁ)


 そんなグルグル三日月の考えなど、つゆ知らず。ラフィールの明るい声が響き、部屋中の精霊さんたちをさらに活気づける。



「さーてさて〜、お話も終わった事ですし、気を取り直してっ♪」


 飛躍魔法でふわふわっと浮いていたラフィールは陽気に話しながら、三日月とセルクの元へと近づいてきた。


「ではでは~、お二人とも。目を閉じてください」


(また、何か企んでいる?! 怪しい!)

 と、疑いの目で見つめる三日月。


「もぉ、月さんたら~、大丈夫ですよッ! 悪いようにはしませんから」


「本当ですかぁ?」


 うんうん、と頷く先生を信じて、セルクと三日月は言われる通りに動く。すると突如、目を閉じていても分かるくらいの眩しい光が弾けるのが分かった。


――――パァーッ!!


「さぁ~、目を開けていいですよぉ」


 ラフィールの優しい声を合図に、目を開けると。


「わぁぁ! スゴーイ」


 そこには、さっきまでいた部屋とはまったく違う光景が、広がっていたのだ。


 触れなくても、遠くからでも見ただけで分かるような、フカフカのソファに、アンティーク調のおしゃれで真っ白なテーブル。その上には、淡い緑色の生地に金色の糸で、猫が刺繡された、テーブルクロスが敷かれていた。


「さぁ、お疲れでしょう。午前中のティータイムはいかがですか? ちょうど十一時になりますので、イレブンジスティー♪ でっすねぇ」


 ラフィールが手のひらで案内した部屋の窓近くにある置き時計は、不思議な感覚をまとい、綺麗でうっとりする。


 よく見ると『金の砂』がキラキラと、ガラスの瓶の中を自由に舞い、それで動いているようだ。そして窓から差し込む温かな光に反応して、砂の輝きが増す。


(こんなに美しい時計、見たことがない!)


 それでいて安定した魔力も感じ取れた三日月は、きっと先生が魔法で作ったオリジナルの時計なのだろうと思った。


 じーっと時の流れに見入っていると「月さん、お茶にしますよ~こちらへいらっしゃい」とあの優しいいつもの声で呼ばれハッとする。


「あ、はい、ありがとうござ……」


(え゙っ……)

 返事の途中で、言葉が出なくなる。その訳は、彼女にとってはあまりにも慣れない席、高級感のあるお茶会が振る舞われていたからだ。


「こ、これって」

「ほらほら、どぉ~ぞ~」


 ラフィールに背中を押され、フカフカソファにちょこんと座る。


(ん? 座りましたよ? でも、このソファ、まるで!)


「浮いているみたいで、心地良すぎ……」

「そうですか? それは良かったですねぇ」

「良かったね、月」


 ラフィールは三日月の驚く顔に満足気な表情を浮かべ、にこやかに応える。そして、隣に座ったセルクも、無邪気に喜ぶ彼女を見て嬉しそうに微笑む。



 それから程なくして、先生お手製のクッキーと、ダージリンティーが運ばれてきた。


(ラフィール先生の手作りお菓子に高級お紅茶?! わたしみたいな一般生徒が、頂いて良いはずがないのにぃー)


「贅沢すぎて……なんだか申し訳ないのです」


 と、また心の声が口からもれる。



 この後、ラフィールとセルクの二人に、クスッと微笑まれたことは、言うまでもない。



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― 新着の感想 ―
セルクが珍しく捻くれ者ですね。 11時のお茶は食べ過ぎに注意ですよ〜。 (´ε`)
やっぱり皆が月ちゃんの魅力にハマっていくのでしょう! 素敵なお話ありがとうございます(๑´ω`ノノ゛✧
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