22 文化交流会1日目~誤解~
――『その綺麗なブロンド色の髪を――短く切って下さらないかしら?』
ユイリアの身勝手な要求が、頭の中でグルグルと回っている。そして完全に呆れ果ててしまっていた。どうしてそんなに、自分のことだけを考えて発言、行動が出来るのか?
三日月には理解不能だった。
そうこうしているうちに、返事を聞くことなく説明が開始される。
「では、お話してあげましょう」
(えー……まだ答えていないし、聞きたいとか一言も言ってないのに)
「カイリ様は、私の、正真正銘――“婚約者”ですのよ!」
「へぇ~そうなんですかーっ……て」
――え。
――えっ?
「「「「えぇぇぇー?!」」」」
三日月とメルルとティル、そして珍しく太陽までもが驚き四人の声が美しくハモる。
同時に三日月は、心の中で思った。
(あぁ~なるほどお似合いですよ。お二人とも性格そっくりですしねぇ)
と、力なく笑いながら。
「ふんッ。ですから、あなたの入る余地は一切ございませんのよ!」
「は、い?」
(これってまさか、ユイリア様は何かとんでもない誤解しているのでは?)
「あ、あの~ユイリア様。何か思い違いをされているのではありませんか?」
「な、何のことかしら?」
三日月の一言で、どうしてしまったのか? ユイリアは急に勢いがなくなり、とても焦った様子で答えた。そして落ち着きがなくなり、目は泳いでいる。
「あの、ユイリア様――」
すると、その言葉をかき消すように、ユイリアは強めの大きな声で反撃してきた。
「お黙りなさい! とにかく、これで私が勝負を申し込んだ理由は、もうお分かりでしょう?!」
「……」
(婚約者だというのは、分かりましたが)
その場にいた全員が無言のままであった。
お分かりでしょうと言われてしまった三日月は、全く解りませんと心の中では呟く。理由が理由になっていない、そもそも誤解しているのではないかという話も聞いてくれない。
これでは勝負の必要性について、まったくもって理解が出来ない。
しばらく続いた、沈黙。
どうしようもない空気に、この中では一番の年長者である太陽が場を収めようとした、その時。
ついにユイリアは、真の目的を話した!
「んんんーっ、ですから! カイリ様のお心を……取り戻すためですわ!」
(えぇーん!! だーかーらぁ!)
「あの、ですから違いますって!」
「いいえ、そんなはず……だって、だって」
(やっぱり誤解なさってますねぇ。どうしたら分かっていただけるのか)
「ユ、ユイリア様。落ち着いてください」
あまりの興奮状態に、これはいけないと見かねたシャルが宥め始める。
(シャル様の口調が穏やか〜、さきほどと同じ方とは思えないです)
少しだけホッとする三日月だったが、実は一つ気になることが頭に浮かんでいた。
――そう、理解できないことが一つだけ。
「わたしの髪、関係ないのでは? なぜ短くだなんて……」
どういうことなのか、そう感じているのは三日月だけなのか。しかし落ち着き始めた状況に、ここでまた聞くと大変なことになりそうだと、その思いは心にしまう。この問題は“謎”のまま。
「だって! 月さんは――」
ぅ゙っ! また始まるのかと身構える三日月。しかしここでようやく、メイリもユイリアの制圧に入ってきた。
「ユイリア様! いい加減になさってください」
「だって、メイ……」
どうやらメイリは、ユイリアにとって信頼のある強いお付きの者らしく、彼女の言うことであればすぐに聞く。そして話の途中でメイリは、小さな声でユイリアの耳元で静かに何かを伝えていた。
『近くに、カイリ様がいらしています』
その言葉は周囲には聞こえていない。
そんな中、急にあたふたし始めたユイリアを不思議そうに見つめた三日月たち。
振り返ると、少し離れたところで友人たちと談笑しているカイリの姿を発見。
その瞬間!
「い、い、いやですわぁ~!」
顔を真っ赤にして叫び、両手で顔を隠したユイリアは恥ずかしそうにその場を走り去る。
側近のシャルだけが「ユイリアさまぁ~」と心配そうに後を追いかけて行った。
残ったメイリは、というと。
「三日月様」
「ふぁ、はいっ?」
「此度の件、私としては大変、申し訳なく思っております」
そう言うとメイリは、三日月に深々と頭を下げた。
「い、いえ、なぜあなたが。そんな、頭を上げてください」
(そんなことされたら、訳も分からず息が出来なくなりそうなのですが)
するとメイリは頭を上げ、深刻な顔で「ありがとうございます」と答えた。
そして、こんな事態になってしまった原因や、ユイリア自身のことも含めた理由をお詫びも兼ねて話したいと、願い出たのだった。




