20-3 文化交流会1日目~太陽君~ (後編)
『アタック終了まで――三、ニ、一、……そこまで!』
ワァァァー!!!!
『参加者は攻撃をやめ、速やかにラインまで下がるように。なお、制限時間を経過してからの攻撃については、如何なる事情があろうとも一切点数には反映しない』
「ひゅあーしゅごぃーかたねぇ」
「ひゅいーカッコぃーかたねぇ」
「う、うん……ビックリ、した」
(こんなに本格的な大会だったなんて)
大会の中でも格闘・武術は人気で、毎年必ず開かれている。そのため参加希望者はもちろん、楽しみにしている王国外からの観客も多い。
「「お迎えいくにょー」」
「え? あ、うん……」
メルルとティルが太陽の姿を探し、迎えに行こうと切り出した。
しかし三日月は、世界でも有名なこの文化交流会で行なわれる大会を、この日初めて間近に観たことでとても感激し、今はまだその場に立ち尽くしてしまっている。
キャー!!
(皆様の盛り上がりが……)
「すごい、圧倒されちゃう」
興奮冷めやらぬ周囲の熱気に圧され、一瞬フラッと立ちくらんだが、それでも人の多さや雰囲気の中でも応援出来た。だいぶ自分は成長したよねと、心の中で思う。
(昨年は、今年以上に控えめぇーで影を薄くしてたからなぁ)
ふと思い出す、一年前の文化交流会。
入学当初は今よりさらに人見知りが激しく、クラスメイトともまだ距離があった。そして学内の学生や関係者だけでなく、この交流会にはルナガディア王国外からもたくさんの招待客などが訪れるため、いつもとは違う環境と混雑に、ますます彼女の苦手意識は強まっていたのだ。
(まだ人が多い場所は苦手で、この雰囲気に慣れたわけじゃないけれど)
「はうはう~たいよーんがんばったにぃ!」
「うはうは~たいよーんおりこりこたん!」
「ふふ、そうだねぇ。いーっぱいお疲れさまを言わないと」
(でも、うん。今年は、太陽君のカッコいい勇姿を観ることが出来て、良かったなぁ)
――『只今の勝負、結果をお知らせします。【魔法壁】完全撃破を達成した優秀者は……次に……』
予想以上の盛り上がりを見せた、今年の"魔法の壁アタック大会”(これは三日月が勝手にそう言っているだけだが)。制限時間の三分があっという間に経ち、アタック終了のアナウンスが流れる。勝負の結果が発表されるたびに参加者よりも観客の方が熱狂していた。
そして何事もなく、安全に、無事に。
太陽参加の大会は、終わったのである。
◇
「はぁ、もうちょっとやったな~」
「「たいよぉーん、おかぁりぃ~」」
「お帰りなさい、太陽君! お疲れさまでした」
頑張った太陽を、三日月とメルル、ティルの三人はニッコリ笑顔で迎えに行き労う。
「おぅ。いやーちょっと、残念だがなぁ」
「え? でも」
大会を終えた太陽は、総合得点一位だったにも関わらず、なぜかガッカリした様子で戻ってきていた。不思議に思った三日月が訳を聞いてみると、太陽らしい答えが返ってくる。
「あの最強に強い魔法壁を撃破する。それが今年の目標だったんだがな……」
今回も無理だったと言い、とても悔しがっていた。
周りの参加者と戦っているのではなく、自分自身と戦っている。そういう意識を持っている太陽は、やはり尊敬でき改めてすごい人だなと、三日月は思う。
「たーいよぉ! おかえりんごー♪」
「たーいよッ♪ よくやったどー!」
「「かぁっこいい~かったにゃあん」」
「おっ、そうか! お前らが褒めてくれるんやったら、まぁ~良しとするか!」
二人に抱きつかれ、慰めてもらう太陽。さっきまでの落ち込んだ顔が嘘のように、にっこりと満面の笑みになった。
太陽は、可愛い妹のようなメルルとティルの甘い優しさに、とっても弱いのである。
(太陽君、笑顔になって良かった)
「「た~いよぉ~いい子いい子~ヨシヨシ♪」」
そのうち、メルルとティルのヨシヨシ大会が始まった。
「はいはいっ。ありがとよぉ。はははっ」
「わぁお~!いいなぁ、太陽君」
そして、三日月はいつものお返しと言わんばかりに、薄い目をしながら揶揄い口調で言う。
「こ~ら~、月ちゃんよぉ……俺を揶揄うなんざ、百年早いぜ?」
そう言いながら笑う太陽が、メルルとティルからのヨシヨシ~♪ を受け入れていることに、ふと気付く。いつもだと恥ずかしいと言い、すぐ避けて逃げ、メルルとティルに追いかけられる。
しかし今は、恥ずかしそうにしながらも、まんざらでもなさそうだ。
(弱っている……やっぱり落ち込んでいるのかな?)
年に一度の文化交流会。この日の為に、太陽が懸命に頑張っていたのを、三日月たちは知っている。
こんな大掛かりな魔法訓練は、通常の授業ではまず有り得ない。なので、本気で実力を試す、絶好の機会なのだ。そんな中、努力をした分だけ、目標を達成出来ないというのは、やはり誰でもショックだろう。
「よぉーし!! 次や次~!」
「「いえーい! つぎだ~♪」」
(ホント、太陽君は強い。力もだけど、心も)
――わたしも頑張らないとなぁ。
いつも見ているだけの三日月。太陽を見ていると自然とやる気が沸いてくるような、そんな気持ちになる。
「なにか、参加してみようかな……」
思わず、そう呟いてしまった。
「「「エッ?」」」
「あ」
(し、しまった! また思ったことを声に出して言ってしまったぁー)
「ひ、ひとり言だからぁ〜気にし――んきゃッ!?」
「そうかそうか! やっとやる気になったのかぁ、月ぃ~! えかったえかったー」
「いや、ちが……!」
太陽は三日月の話を最後まで聞くことなく、よっしゃよっしゃと背中をバシバシする。
「あの、ち、ちが……ふにゃあ!」
(違うのにぃー!)
どうして、あんなことを言ってしまったのか、と。そう深く……ふかぁ~く、後悔。
(あぁ、太陽君が期待の眼差しでわたしを見ながら、愛情たっぷりのバシバシをしてくるよぉ)
「……い、痛いです」
「お、すまん! なんか嬉しくってなッ」
「ぅ゙ぅぅ」
――いや、違う。
三日月はバシバシされていることが痛いのではなく、自分の言ってしまった言葉が『痛い』のだった。




