20-2 文化交流会1日目~太陽君~ (中編)
「う~ん、そろそろかな? うっふふ」
のんびりと休憩気分な三日月。
そして、待つこと五分。
「うっはぁ~今日もやられたぜ」
「ウキャーッ」「ウーキャキャッ」
「「つっかまらず~に! ツッカマエタ♪」」
してやったりのにやにや顔で、太陽の両肩にガッシリとしがみつき乗る、可愛い双子ちゃんなメルルとティル。
「あぁ~太陽君、つかまっちゃったのネ」
(いつもの和やかな風景、良いですねぇ)
微笑ましい~と見つめる三日月は、仲良しな三人がこうして楽しそうにはしゃいでわいわいしている自然なやり取りが、とても好きなのだ。
「まぁ~なんだ。追いかけっこが、良いウォーミングアップになったなッ!」
ニカッと白い歯を見せ、なぜか誇らしげに話す太陽。何事も良い方に考えられるのは、彼の素晴らしいところ(性格)だ。その後もメルルとティルを高く持ち上げてぐるぐる~を繰り返し、二人を喜ばせていた。
「あはは、太陽君すごい~」
(気合いがいつもと違う? まるでトレーニングしてるみたいだよ)
太陽は魔法攻撃よりも、身体の能力を使った格闘・武術が得意。その力は同級生の中でも一位、二位を争うほどに強いパワーの持ち主である。
そんな彼が、たくさんある大会の中から選んだ競技とは――。
「うっし! やるぜー」
「エッ! 太陽君、ここに参加するの!?」
競技受付会場に着くと、三日月は驚き、心奥はワクワク感でいっぱい。
「おぅ~よ! やっぱ俺と言えばパワー勝負だろ?」
「「「ほぇ~……」」」
太陽の気合い十分な言葉に「すごいねぇ」と三日月、メルルとティルの三人は、同じ声のトーンでハモる。
◆
身体の能力を使った格闘・武術の大会について。
この競技は、魔法科の先生が三、四人がかりで魔力たっぷりの壁を造り、それを時間制限内にどれだけアタック(攻撃)できるか? というものだ。この魔力・能力競技大会も、結果次第で成績に繋がる得点がもらえるのだから、それは皆必死で魔法壁に戦いを挑む。
この大会は、いわば技術の高さを測る大会でもあるのだ。
(文化交流会と言っても、目的はあくまでも学力向上なのです!)
◆
「よっしゃ、登録してきたぞ!」
「「「おぉぉー!!!」」」
――パチパチパチ~♪
「なんで拍手じゃい!」
まだ登録しただけだぞと三人の応援を、案外嬉しそうな表情で太陽は受け取る。
「たいよぉん!」「ふぁいと~♪」
「うわぁ、人がいっぱい。それに」
三日月は参加者を見渡すと、その強力な感じにクラっとしてしまう。
当たり前だが、体力に自信のありそうな大きい体格の者ばかりが並んでいた。その応援であろうたくさん観客(生徒)もざわざわと集まり、人の多い場所が苦手な三日月にとっては、目眩のしてくるような状況だ。
(これ……わたしが参加者だったら、人の多さと緊張で倒れちゃいそう)
そんなことを考えていると、アナウンスの声が聞こえてきた。
「次、イレクトルム=太陽、準備!」
「呼ばれたな……」
「「「いってらっしゃ~い」」」
「おぅ! 行ってくる」
やってやるぜ! とガッツポーズで大会(戦い)へ向かう太陽に、応援の言葉で手を振る三人。
他の参加者の名前も次々と呼ばれていき、緊張感はさらに増していく。見ているこちらまでも集中力が上昇する中で、技術測定担当の先生がアナウンスする声は、いつも以上に厳しく、観客の耳に響き聞こえていた。
(そっか、そうだよね)
――わたしたちが向かう未来は、厳しい世界なんだ。
この学園では特に、座学もだが訓練は当然のように『これは遊びではない』と、教育がなされる。いついかなる時も実戦を想定しての攻撃が求められ、それが自分や周囲の命を守ることになるのだ。
苦労してこの学園に入れた一般クラスの生徒は皆、学ぶ機会を得たからには! と、各々努力を惜しまずに、意識を高く、モチベーションを保てるように日々頑張っている。
「あぁ~たいよん!」「うぉ~たいにぃ♪」
「えっ? メル・ティル、ここから見えるの?」
三日月は少し背伸びをして、目を細めじーっと眺める。
「んー……ンん? あんまり見えないけれど」
「「たぁーいょにゃんにゃーん!!」」
「ふにゃうっ!?」
(びっくり、した。ふぅ……さすが。双子ちゃんには敵いませんねぇ)
ワァーーーーッ!!
「あ、始まる」
(こっちまでドキドキしてくる)
太陽は人一倍、いや、何倍もの努力家だ。
それはクラスメイト全員が認める周知の事実。どんなに厳しい状況でも、ただの一度も辛い表情を見せたことがない。
能力も大事だが、精神力・忍耐力をどれだけ鍛えているか? この競技大会ではそこも重要視される。
そして太陽には、その力が十分すぎるくらいに備わっている。もっと言えば、太陽は人よりその能力が飛び抜けて高いのだ。
(いつもは、お調子者だけれど)
――本当はすごく真面目で、心から尊敬できる人。
『制限時間三分、攻撃は最高魔法レベル以外であれば、他属性自由。剣術の使用も許可、アタックは三回までとする』
参加者へ、注意事項のアナウンスが流れた。
観客の前には安全の為、【守りの魔法線】が引かれる(通常この魔法線から内側には入れない)。
アナウンス後、魔力たっぷりの壁を造るために、魔法科の先生が三人がかりで準備に取り掛かかっている。
「頑張れー、太陽君!」
開始時間が近付くにつれ、三日月の応援する気持ちは強くなり、両手をぎゅっと握りしめる。そして無意識に大きな声で、太陽の名を呼び応援していた。
“パシュッーーー……!!”
おおぉぉぉ!!
参加者一人一人の前に、高さ十メートルはあろうかという【魔法壁】が現れた。
『全員、準備!』
歓声が起こり盛り上がり始めるのと同時に、大会開始アナウンスの声が、会場内に響き渡る。
『始めーっ!』
皆、様々な目的や目標を持ち、それぞれの理由を抱え、此処――ルナガディア王国随一の魔法科がある、スカイスクールへと学びに来ている。
攻撃を始めた生徒たちは本気の姿勢、真剣そのものだ。しかしどんなに頑張り努力をしていたとしても戦うとなれば関係ない。
「過程よりも結果」という、ルナガディア王国の方針は変わらないのである。
――実力が全ての、世界だから。
(現実はそう甘くはない……厳しいなぁ)
応援しつつも、ふとスケールの大きい世界のことなどを考えていた三日月は、何だか急に胸がきゅうーっと締め付けられるような、心が痛いような感覚に襲われた。
「どうして……」
――この世界には努力よりも、結果。生まれて、比較され続ける現実があって。
この地に生まれ、そういう考えの中で皆生きてきた。そんな世界なんて重々理解しているし、命を守っていくために仕方のないことなのだと、三日月は自分に言い聞かせる。
だが、その矛盾した心は、その“現実”に反発していた。
「いつか、この世界が……」
(階級とか、順位とか、力の大きさとか。関係ない世界があったなら)
「いいのに……ネ」
そう、呟く。
その考えは良くないことと頭では分かっていても、実戦では負ければ終わりという厳しさの痛みに耐えられず、心の中で思ってしまう。
――だからといって、わたしが変えられるわけじゃないのに。
「キャーー!」
「がんばってぇ~!!」
ビクッ!
「ふあっ?! いっけない、こんな時にわたし、何考えているんだろ」
近くにいた観客の大きな声援で、三日月は我に返る。
おぉぉーーッ!!
気付けば残り時間が迫っていた。観客の応援する声はますます熱狂し、参加者の攻撃も最高潮に達している。
それは長くて短い、戦い。
――運命の三分間が、もうすぐ終わろうとしていた。




