20-1 文化交流会1日目~太陽君~ (前編)
七月六日、文化交流会一日目の朝。
――ついに!
「この日がやってきましたぁ!」
三日月は思っていた以上にたくさんのお店が並んでいるのを見て、胸を弾ませていた。
「うわぁい、えー楽しみぃ♪ どこから行こうかな~」
美味しそうなご飯屋さんに、お菓子屋さんもいっぱい! 普段食べることのない高級な和・洋食の店。それから変わったお店も多数出店されており、入口近くには宝石のような飴細工店があった。その珍しさと美しさで通る客の心を掴んでいる。その他、ほど良い間隔で配置された素敵な店々の美しい高級菓子たちが、キラキラと並んでいるのだ。
「きれーい……」
両手をぎゅっ。
溢れ出そうな歓喜の声とワクワクを閉じ込めるようにほっぺたに手をくっつけると、心の中で呟く。
(はぅ~見ているだけでも幸せだよぉ)
「う~キレイだにぃー」
「わ~キレキレイねー」
「でもなぁ、うーん。あんまり食べちゃうと……」
(いや、でもっ。こんな機会は滅多にありません!)
やっぱり我慢は出来ないと、くるりん振り向きメルルとティルに一言。
「ヨシッ! 大丈夫、大丈夫! 今日くらいはたくさん食べちゃお~」
「「たべちゃおぉー!!」」
三日月は、とてもご機嫌だった。
空を見上げれば、モコモコの真っ白な雲が浮かんでおり、それすら美味しそうな綿菓子に見えてしまう。天気は晴れ、しかしちょっと汗ばむ時間帯には木陰でひと休みすれば涼しいというくらいの、心地良い気候だ。
(うん、交流会日和! なぁーんてネ)
「ウフッ。今日は、素敵な一日になりそう」
メルルとティル、三日月の三人は順々にお店を巡り、ひと通り美味しいご馳走を食べてご満悦。そして「次はデザートだぁ」とお菓子屋さんに、ルンルン気分で向かっていた。
すると。
「よっ! お姫様方、楽しんどるな~」
「あ、太陽君!」
「「たいよーたいよん、あーそーぼー♪」」
メルルとティルは、いつものように太陽に飛びつく。
「おぉーう、今日は勘弁してくれ~い」
そう言いながらも、両腕上腕筋肉ポーズで二人を抱える彼の頬は緩み、嬉しそうにしている。双子ちゃんはというと、いつものムキムキぶら下がりごっこでキャッキャー♪ 大騒ぎで、とても楽しそうだ。
「メル・ティル~、かっわいい! お写真撮ってあげるよぉ」
「「わぁーい♪ カシャカシャーパシャパシャー」」
「おーっと! 俺を撮るとは、高いぜ~お嬢さん」
「あはは、何それぇ! いいもん、わたしは二人を撮るんだもーん」
「うにぃーたいよんも、撮るんだじょー」
「きゅいーたいよーん、逃げちゃメメー」
こちょこちょこちょこちょ~♪♪
「こら! くすぐったいから、やめーい! 分かった……分かったって! 撮る撮る、写真撮りますーだから勘弁してくれぇーい、メルルちゃん! ティルちゃーん!」
「うっふふ! 太陽君はホント、二人には敵わないねぇ」
(それにしても、相変わらず仲良いなぁ。なんだか本当の兄妹みたい)
三人の戯れを見ながら三日月は、にこにこ平和だぁ~とまた空を見上げ、夢見心地で幸せを感じていたが、しかし。太陽の、どこまでも聞こえそうな通る声で名を呼ばれハッと現実に戻る。
「おーい、月よぉ! お前も行くやろう?」
「んきゃ! ぇあ、ごめん、聞いてなかった。どこに行くの?」
三日月は、ちょっぴり頬を赤くしながら慌て気味に聞き返す。
「そりゃな、あっちに決まっとるやろ。行くぜッ!」
「「おぉぉぉー!!」」
(えーと、その、あっちってドコなの?)
心の中でツッコミつつ、振り返ると三人とももういないッ!?
三日月は慌てて太陽たちの後を追い、ついて行く。
「はぁはぁ……ま、待ってぇ~」
しばらくすると、皆の背中に追いついた。
「遅いぞ~月ちゃんよぉ」
「つっきぃーおそいんだのぉー」
「つっきっきーおそおそのぁー」
「だ……だってぇー」
「「「ん~?」」」
まるで、ゆっくり歩いてきました的の余裕な表情は太陽。まだまだ走り回る元気あります! キャッキャで可愛い双子ちゃん。
「みんな、は、足が早い……はぁぁ」
(やっと、追いついたぁ)
太陽が声をかけた場所から、徒歩約十分。
そう、普通であれば約十分の距離を、なんと五分で到着。そんな訳で超人な三人の中、三日月だけはそのスピードについてゆけず、小走り状態で追いつくのでやっとこさーだったのだ。
――こそこそ……。
『ははぁ~ん? ありゃさては、運動不足だな』
「ちがっ……」
――ごにょごにょ……。
『『隊長! 食べ過ぎでありますでしゅ!!』』
「あのぉ、お三人方。聞こえてますけど?」
(と、いいますか。たぶん……いえ絶対! 三人の身体能力が異常でしょ?!)
「まぁまぁ、怒んなや。ほれ、月! 着いたぞ、見てみ~」
こそ、ごにょっと言われた言葉に「もぉー」と言いながら、少し頬を膨らまして追いかけてきた三日月だったが、太陽に言われ着いた場所を見渡した瞬間――言い表せないほどの高揚感に、身体中が包まれる。
「ふぇっ、ここが中央広場!? すごい。色んな催しがあってるんだねぇ」
三日月もクラスメイトと一緒に準備を手伝った、中央広場。他に思い出したくない出来事もあるが、それより何より昨年にはなかった、見たことのない催しの数々が今、この広大な敷地に広がっていることに目を輝かせていた。
「「まっほーお、まっほほぉー♪」」
「おう、そうなんだよー。そうなんだがな……えーと、んーこれは、なになに? 『魔法で腕試し大会』とか、なぁ……いや~参った! 本当レベル高そうやな~」
メルルとティルたちも楽しそうに広場の様子を見て回る。特に太陽は顎に手を当て一人で「うんうん」と頷き、気合の入った顔で笑い満足そうにしていた。
(あっ、そうだ! いい機会だし。聞いてみようかな?)
ふと思い付きのように、三日月はあることを太陽に聞いてみる。
「ねぇ、太陽君。全然、今と関係のないお話なのだけど。ずっと気になっていることがあって……」
「おぅ?」
聞いてもいいかな? と、にっこにこの笑顔で太陽の顔色を窺う。
「いぃぃーなんだ、そのにっこり笑顔は。怖っ! どうした、どうした?!」
「えー、怖くなんてないから」
もぉーっ! と、結局また頬を膨らませてプンプンする三日月を、太陽は揶揄いながら頭をヨシヨシ~、ポンポン、はいはいっ、と受け流す。
これは、二人のコミュニケーション。
いつものやり取りである。
「んで、なんやろな~?」
(ヨシッ! 気を取り直してっ)
「えっと、えっとね。太陽君って――何歳なのかな~と、思っ……え、あ、あの」
「…………」
(あ、あれっ? もしかして、聞いちゃダメーだった?)
その数秒後。
「あ゙ーぅぅー」と言いながら太陽は両手で顔を隠し座り込む。
「エッ? たっ、太陽君?!」
「うほーい? たいよぉん」
「だぁーいじょぶかにぃ?」
膝をついてしまった太陽に、あわあわと驚き慌てる三日月。そしてどこか具合でも悪くなったのか? と、声をかけるメルルとティル。
「いや、大丈夫だ。はぁ、そうか……聞くのか、遂に」
「うん、と?」
(ついに、って)
いつも冗談言って笑わせるあの太陽が、神妙な面持ちで頭を抱え悩んでいる。
と、しばしの沈黙。
それから数分後。
意を決した様子で、その重い口を彼は開いた。
「実は」
「う、うん」
(なっ、なに~? 怖いよぉ?!)
「実は、だな……」
「「にゃに? にゃにぃー?」」
その様子になぜか、メルルとティルは興味津々。期待で可愛いくりっくりの瞳をキラキラさせながら答えを待っている。
「俺の歳は――二十二歳なんだよぉう!」
(あ゛ー、ついに言っちまったなぁ……)
心の中でそう叫び落ち込む太陽。
そして年齢を聞けた三日月はきょとん。
内心では、もう少し若いのカナ~? と思っていたからか「おぉ~」と少しだけ、驚いたぐらいだった。
「すまん、こんな、歳が上な、同級生で」
「う、へぇあー! なに言ってるの太陽君てば!!」
「いやな、結構、皆より歳が上っちゅうの、気にしてたんだが。話も合わんし……だから、こりゃなかなか言えんなぁって」
「気にすることなかったのに。太陽君、みんなのお兄ちゃんで頼られてて、必要とされてるじゃん。それに、わたしたちと仲良し~なのは、これからも変わらないでいてくれるでしょ?」
「そりゃ当然だ! はぁ……まぁしかし、あれだな。現実や、これが現実なんや」
皆に笑われんようにもっと体力つけんといかんな! と、突然のガッツポーズで意気込む太陽。
「ぇ゙っ。いや、太陽さん? 頼みますからそのままでも十分、それ以上体力つけなくても……いいと思うのですが」
すでに常人超えしてますよぉ? 一緒にいる若者たち(クラスメイト)の方がきっと先に息切れしますので~と、遠い目で見つめる三日月は苦笑いをしながら、ほろりと呟く。
――でも、さっきは。すごーく重い表情してるから、心配したのに。
(なんと! 答えは、普通だったぁー!)
そうこうしているうちに、メルルとティルの可愛いくりくり~おめめの輝きが先ほどよりも増してキラッキラッ! 太陽に向けて光っているように見えるのは気のせいだろうかと、今度は薄い目で双子ちゃんを見守る。
――獲物ロックオーン!
(あぁ、なるほど。これは……)
「「ネェ、たいよーん」」
「ん? どした」
そう。
可愛い双子メルルとティルは、太陽へと狙いを定めている模様。
ガシッ!!
「んなッ?! おいおい」
(うん、がんばれ!! 太陽兄ちゃん)
双子ちゃんにつかまった太陽は、もう逃げられない。
それを微笑み、応援する三日月。
「ネェ、にーにーなの?」
「なんだってぇい?」
「ネェネェ、にんにん?」
「いや、だから! 何がだ?」
はてなにハテナと『?』を重ねた三人の会話。
はて、双子ちゃんは何やら思いついたと、にんまり。
「「にぃ~ん! わかったぁー!」
「な、だから、何を――」
「「にじゅにーさい(二十二歳)は、にゃんにゃーん♪」」
「うえー?! おいおい、さすがにそれはやめてくれぇい」
メルルとティルの、独特の表現に恥ずかしがりながら慌てる太陽。そのあまり見られない彼の様子に、三日月は大笑い。
「太陽君が焦ってる~! あははっ」
「これーい! 月よぉ、お前のせいやぞー!!」
「「たーいよー、たーいよー、にゃんにゃん♪」」
「やめんかぁーい、恥ずかしくて表歩けんなるわ」
(これは太陽君、しばらく言われるだろうなぁ)
「「わぁーい♪ キャッキャー」」
「こらー!! まてーいっ」
(えっ、まさかここで恒例の追いかけっこ始めちゃうの?!)
「たーいよー、にゃんッにゃん!」
「つきぃー! 覚悟しとくんやぞー!!」
「えーッ? わたし!? いやぁ、あのー……って。あぁ~行っちゃった」
(仲良しで、追いかけっこはいいけれど)
「大会……終わっちゃうよぉ?」
そう心配しつつも、三人の姿はやっぱり楽しくて可笑しい。
こうして三日月は、しばらく笑いが止まらなかった。




