15 予想外!?
「ねぇ~つっきぃ、まだぁ?」
「まだまだぁ~つっきぃ~?」
「んあ、はぁ~いゴメン、ちょっと待ってぇ! もうすぐ準備終わるから」
「「わかたぁ! あがとにゃー」」
たったったったー……ピタッ。
「「アーッ!!」」
「わぁお! なにー?」
いつもの朝のやり取りを終えて、相変わらず部屋の中をぐるぐる走り遊んでいるところで突然! 双子ちゃんの声が響き渡り、再び彼女はビックリする。
「ど、どうしたの?」
「「わすれてたー!!」」
「えっ、忘れ物?」
(しかしお二人さん。今日も絶好調にハモっていますねぇ)
首を傾げ聞く三日月。するとその予想をはるかに超える答えが、返ってきた。
「あのねあのね」
「うん」
「あのねのねの」
「うん、うん」
ドキドキドキドキ……。
「あとひとりぶんおべんとーほしいにゅー!」
「もうひとーりおともだちいるんだみゅー!」
「あ、えーっと……そゆこと、ね」
心配して何事かと手を止めた三日月は理由を聞き「なぁんだー」と気が抜ける。
(メル・ティルがわたしの知らない? 『お友達』って……)
――めずらしいかも。
「分かったぁ。もう一人分、すぐに準備しまーす」
「あがとぉ~!」「あんがと~!」
そう言うと二人はてってけーとまた玄関へ走っていってしまう。
(うーん、ずっと一緒にいるけれど)
「やっぱり二人は、不思議ちゃんだぁ」
色々と気になるツッコミどころ満載なのだが、学校の時間が迫っている。三日月は手際よく双子ちゃんご注文の『お友達分のお弁当』作りに取りかかった。
それから、三分後……。
何やら扉の前で、押し問答をするような話し声が聞こえてきた。
「「はいって、はいって~♪」」
(メルルちゃん、ティルちゃん。自分のお家みたいにお客様を招いている気がするのですが)
「まぁ、いいのだけれど。って――んんっ?!」
お客様を招いてる?! と、心の中で問う。そして今度は自分で自分にツッコむ三日月。聞いていない、聞いていませんよ? 友達を連れてくるなんて!! と。しかも、外で待たせているという大変な事態を把握した三日月は、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、焦っていた。
(メル・ティルーお友達を連れてきているならすぐに教えてぇ! なにより早くお家の中に入れてあげてぇぇ!!)
ガチャ~……。
二人にグイグイと腕を引っ張られながら、外で待たされていた友達は彼女の部屋へと案内された。
(あぁー、お詫びを言わないと!)
「いらっしゃいませ、あの! す、すみませんでした。どうぞどうぞ! 中に入って、ゆっくりしてお待ちくださいませ! その、まさか、お外で待たせているなんて。すぐに準備、終わりま、す、の……で?」
人見知りゲージが最大値に達している中で、勇気を振り絞って目をつぶりながらお詫びの言葉を伝える。そしてやっとの思いでお詫びを言いゆっくりまぶたを開き、扉の前に立つお客様へと目を向けた。
と、そこには。
「んきゅ――!」
(えぇぇーどういうことぉ!?)
「朝早くから、こちらこそ申し訳ない。お邪魔します」
そのお客様と目が合った瞬間に三日月は驚き、今にも心臓は止まりそうである。
「あ、あの。え、えぇ~?!」
双子ちゃんが連れてきたお客様とは、なんと!
いつも三日月が行くお気に入りの場所――屋上扉前で会う、あの彼だったのだ。
「きっと迷惑になると言ったのだけど、メルティが聞かなくてね」
「「えぇ~だあってぇー」」
顔を見合わせるメルルとティルはほっぺたを桃色に染め、にんまり。
「つっきぃが、おなまえ知らないよぉー聞きたいなぁーって言ってたカラ~♪」」
(いや確かに! 聞かなきゃとは言ったけどぉ)
「「だーかーらッ、つれてきたにゅー♪ 」」
「ありが……って、どうして? エッ? その、なぜ、メルルとティルが……」
彼女のパニックに双子ちゃんは答えることなく、またキャッキャーと部屋の中を走り遊び始める。
この瞬間、三日月の緊張は恥ずかしさに変化し、だんだんと顔が真っ赤になっていくのが分かり、とりあえず背を向けると自分の頬を両手で包み込む。
(あ……顔が火照って、熱くて、倒れそう)
りんごのように赤い頬を隠す三日月。再度、彼の様子をチラッと窺ってみる。すると、彼もこちらを見ていて、ぱちりと目が合ってしまった。
――は、恥ずかしすぎるぅ!
「あ、あぁ~、えっと、本当にごめんなさいなのましゅ」
(うっはぁーん! 思いっきり噛んでしまいまひたぁ!)
「いや、気にしないで」
「いえ、でも……」
――あっ……。
(なんだか、新鮮な雰囲気?)
いつもは冷静でほとんど顔の表情を崩さない彼が、今日は珍しく頬をピンク色に染め、恥ずかしそうに優しく微笑んでくれていた。




