14 朝のルーチン
六月下旬。
「よぉーし、今日も頑張るぞぉ」
清々しい朝にご機嫌の三日月は、ぎゅっと握った右手を「おぉー!」と言いながら、ちょっぴり高く挙げてみる。
シーン。
(ん~。これって……)
誰もいない部屋で一人、思わず口にした掛け声に。
「うん、恥ずかしい」
(にゃっはは、わたしは何をやっているのだろうか)
……。
まぁまぁ! 元気なことはいいことだぁーと気を取り直す。次に窓を開けて大きく伸びをすると、深呼吸で身体のリズムを起こす。
ふわぁ。
「んん〜はぁ。良い風だぁ」
見上げた空は美しく澄み切った青で、目覚めたばかりの彼女の瞳にキラキラと映リ込む。穏やかな気持ちの三日月は、陽光を全身で受け止めるイメージで両手を広げ、にっこり微笑んだ。
(はぅ~充電、充電♪)
ここ最近、雨続きでどんより気分になっていたこともあってか、久しぶりの快晴に気分はほっこり上々。少しの間、頭の中を空っぽにして、ぼーっと青空を眺めていた。
そんなのんびりと過ごした、登校前の朝。
煌めくホワイトブロンドの髪が風になびいて、部屋中に自然と光粒が舞う。それに誘われるように、精霊たちも目を覚まし彼女の周りを飛び回り始めた。
「ウフフ。おはよぉ、みんな」
森の木々もそよそよと揺れるのを眺めている彼女。そうして今住んでいる寮は、学園から徒歩十分程の場所にある。
内装も素敵だと評判で、何より季節は一切関係ない(暑くないし~寒くない!!)という過ごしやすさだ(要するに空調の管理が最高だということ)。
さらに、それだけではない。
上下隣の部屋との間隔や防音効果も施されており、プライベートもきっちり守られている(これまた安心安全♪)。一人で過ごすことが好きな三日月にとっては、これ以上ない希望通りの……いや、贅沢なぐらいの住まい。もちろんセキュリティも万全でまさに完璧な快適空間なのだ。
その他もろもろ、良いことづくしな王国管理の学生寮。この学園に通う生徒を大切に考え、どれだけ期待されているのかがよく分かる。
(ホントに、いつも思うけれど……遠い森育ちなわたしが、こんな都会な場所に! しかもこんなに立派な寮に住めるだなんて、いまだに慣れない)
――でも。
「ここでの生活は、とっても気に入ってる」
ニコニコ笑顔で独り言。
それからすぐ、気持ちの良い青空に後ろ髪を引かれつつ窓を離れた三日月は、寝室を出た。
「ふあぁあぁ~」
(それにしても今日は、ちょっぴり眠たいかも)
ふわふわ気分のままで朝の支度をひと通り終える頃、ふと時計に目をやった彼女は慌ててお弁当の準備を始めた。
「うっわぁーもうこんな時間! そろそろ来ちゃう」
急げ急げ~とテキパキ動き回っていると、予想通り――玄関の扉を叩く音がした。
コンコン、コン、コン。
(あっ、来た来た)
「はぁーい、どぞぉー」
"ガチャ……キィー"
ユックリと開いた、部屋の扉。
そう、実は。
彼女の部屋には!
「「うッひゅッゆッひゅ~うぅ」」
毎朝同じ時間きっかりに……!?
バターンッ!
「「わぁぁぁーい」」
「ふぇーッ!!」
元気いっぱい! 可愛いお迎えがやって来る。
(ま、毎朝のことなのに……)
「はぁ、ビックリしたぁ。おはよぉ」
「「おっはにょーん♪ えへへーん」」
それは他でもない、幼馴染の可愛い双子ちゃん! メルルとティルである。
「メル・ティル、いつもお迎えあり……ん?」
(あ、あれれ? いない)
「「ヒャホーイ♪」」
「んえぇッ!」
次の瞬間には突然の全速力ダッシュ!
三日月がお礼を言い終わる前から、すでにその姿がどこにあるのか分からない。こうして毎朝のようにかくれんぼ状態で、なぜか? 彼女は自分が一番知っているはずの部屋中を、探し回るのだ。
(は~い、朝のお決まりルーチン、スタートですねぇ)
「どこ行ったの? メルル~?」
「にゃっはー!」
(今日は、にゃっはー? なのね)
「えーと、ティルは~?」
「にゃっほー!」
(お次は、にゃっほー? なのね)
「ひろーねぇ!!」
(いや、ほぼ毎日来てるでしょ)
「お菓子はぁー?」
(朝食、食べてきたでしょお?!)
「わーい♪」「わ~い♪」
「うふふ、もう、まったく! 二人とも落ち着いてぇ」
(こうして毎朝賑やかでスゴイ盛り上がり! 笑いが止まらなくなるのです)
これは日課で、双子ちゃんのお弁当も準備する。それだけが理由ではないが、メルルとティルは朝、三日月のことを迎えに来るのだ。
「「イッエェーイ!!」」
「ハイ、いえーい」
(いつも楽しそうで何よりですねぇ、お二人さん)
忙しい朝の時間。
それでも彼女は双子ちゃんと過ごすひとときがとても大切で大好きで、楽しくて仕方がないのだ。