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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第一章 ひとりが好き
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必話01 消したい記憶 (夢)


 ――これは、わたしが見る夢の話。


 うっすらと残る、つらい記憶(きおく)。それは断片的に、割れたガラスの欠片の小さなひとつのような。まるで、童話の一ページだけを見ているような、お話。




 夢の始まりは、いつもここからだった。



(ダイジョウブ。マモルカラ)

――どこからか聴こえてくる、優しい声。



『え、あなたは、だぁれ?』



(ナニガアッテモ、マモルヨ)

――そう話しかけても、その姿はどこにもなくて。



『ねぇ、どこにいるの? あなたはだれなの?』



 知ってる声のようで。でも、思い出せなくて。



(ダカラ、アンシンシテ)

――優しくて、でもどこか泣き出しそうな。



『おねがい、ここにいて。そばにいて! おねがい』



(…………テネ)

――物悲しい、その声は。



『あっ! まって、ねぇ、いかないで』



(……)

――また、消えてしまう!?



『やだ、いっしょにいて! おねがい!!』



(――)




「ヒトリにしないで!!」



――バサッ!


「はぁ……はぁ、は」


(ゆ、め?)


「まただ……いつもの」


 わたしはいつも、こんな風に飛び起きているような気がする。


「んんぅ。頭が……すごく痛い」

――鈍く、重く、痛む。


 そして息苦しさを感じ、胸に手を当てた。わたしの心臓は、いつもよりもドクドクと強い音を立て、しばらくの間、キューっと締め付けられるようだ。



「はぁ。もう、起きよう」



 最近、よく見るようになった夢。

 正しくは、()()見るようになった夢、かな。



 怖くて、淋しくて、暗闇の中で怯えていると、温かい光と共に聞こえてくる、優しい、聞いたことのあるような――声。



「あの声は……」

――誰なのだろう?



 どんなに考えても、思い出そうとしても分からない。


 なぜなら、夢の内容は消えていくから。飛び起きてうっすら靄がかっていき、すぐに忘れてしまうのだ。



「まるで、どこか遠くへ、飛んで行ってしまったかのように」



 この夢を見たその朝は、涙が止まらなくなるくらい悲しい気持ちになる。


「まだお外、暗いかな」


 朝方五時をまわった頃だった。

 わたしはその落ち込む心をなんとか変えようと、重たい身体を気力で持ち上げるようにベッドから立ち上がり、窓へとゆっくり向かう。


「あ、雨?」


 カーテンをゆっくり開けると、雨が降り始めた。


 そのうち強く降り始め、雨粒がガラスをバタバタと叩く。



――なんだか、気持ちが落ち込んでくる、今日の雨音。



「もうすぐ、七月かぁ」

(わたし、このままでいいのかな)


 このまま学園で毎日学んでいるだけで、自分の力を知ることが出来るのか。覚えていない記憶を、自分のどこにあるのか解らないトラウマを思い出し、乗り越えることが出来るのか。


――この学園に入学したのは、無駄にならないか?


 その不安が一気に膨らんだかと思うと、また自信がなく溜息をついてしまう。


「わたし自身がこんなんじゃ、何も変えられないのに……ね」


 ふと、後ろに立てかけている姿見鏡で自分の顔を、その瞳と見つめ合う。


 鏡越しに触れた自分の下まぶたには、まだうっすらと涙が浮かんでいた。



――わたしの瞳には、色がないみたい。


(小さい頃から、そう感じる)



 向き直り、雨のせいでひんやりと冷たくなった窓に手を当てると、目をつぶりおでこを付ける。そこから響く雨音が、じんじんとわたしの記憶に何か語りかけてくるようで。



“ザァァァ……”



――夢の中で聴く。静かな、水音に似てる。


(その悲しき流れを止めるような、あの声)



「わたしは、とても大切な何かを忘れてきているような気がするの」




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― 新着の感想 ―
名前はお預けだった……。 6月の雨は、もうそんな時期だなぁと思いつつ、今回は綺麗な言葉で詩を読むような感じの中に、伏線が散りばめられていますね〜。 三日月ちゃんの揺れる思いが良く紡がれています! 今後…
三日月ちゃんの感じる記憶と聞こえる声。 彼女に訴えかけるかの様な声に三日月ちゃんは忘れていた何かを思い出す。 続きも楽しみですʕ ›ᴥ‹ ʔ/°・*:.。.☆
ここまで読ませていただきました。たくさんの人のいるところが苦手な三日月、辛い記憶のかけらのような夢も見るなど、心の奥で苦しい思いをしているのですね。 ふだんひとりでいる時の楽しそうな様子とは一転して…
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