10 精霊さんと私
あの騒動から……。
次の日、その次の日も。
三日月は、気が気でない日々を過ごしていた。
そうして何も変わらない平和な日常が続くこと、一週間。心身ともにようやく落ち着きを取り戻し、ホッと胸をなでおろす気分になれた、今日この頃。
「んー……ふぁ〜あ」
いつものお気に入りの場所で、両手を広げ思いっきり伸びをしていた。
雲ひとつない気持ちの良い青空。美しく広がる青のスケッチブックに何か描けそうだ、なんて目を瞑りイメージしながら、ニコニコ幸せな気分で、空を眺めていた。
一瞬、屋上扉から差し込む光がやけに眩しく思えて、フッと目を細める。
(そういえば、あれから会ってないなぁ)
そんなことを考えながらいつもの階段で、ランチ時間を楽しむ。鞄からお気に入りのランチボックスを取り出し、恒例の一人メニュー紹介をする。
「今日のランチはぁ~ピザトースト♪」
じゃ~ん!! と、一人でわくわく盛り上がりながら、ボックスのふたを開ける。
「エッへへ。生ハムとバジルに、大好きなチーズをのせたお手軽ピザ〜」
この日パンに使ったチーズは、白色でふわふわ柔らかさがたまらないモッツァレラチーズ。少し感じる酸味が最高だ。
(もちろんトマトも忘れていません!)
はむっ! もぐもぐ……。
そして今日は、甘めのカフェオレを飲みながら、一言。
「はぁぅ。幸せだぁ」
あまりの美味しさに、ふにゃあっと目を瞑ってしまう。その瞬間、ふと頭を過ぎるあの日の出来事。
「あっ……」
彼と出会った、あのランチ時間を再び思い出してしまい、頬をピンク色に染める。
――『美味しそうにたべるね』
突然後ろから聞こえ驚いた、知らない声。しかしあの時、彼の落ち着いた声がなぜか心地良く、あれからずっと、彼女の頭に自然に残っている。
(なんでかな? 懐かしい気もするし)
――もしかして、実は知ってる声?
「なーんて、そんなわけないか」
美味しいピザトーストを食べながら、ずっとそんなことを考えていた。
――私が好きなトーンの声……なのかも?
食べ終わる頃に、気が付く。
(はっ! また私は彼のことを)
何考えてるんだろう? 最近、何かがおかしいと、三日月は頭を抱える。
「さてさて、気を取り直して」
今日はとても感覚の調子が良いし、精霊さんたちもいっぱい集まってきてくれている。
(というわけでッ!)
「精霊ちゃんたち~! 久しぶりに、音色作ってみようよ♪」
(うぴゃうぴゃ~♪)
(喜んでるぅ。はぁ、可愛いー)
♪♪♪
精霊たちの音色が、三日月の周りを包み、その音に乗せて、歌い始める。
あぁ~なんだか、久しぶりに気持ちが和らいでいるなぁと、感じていた。
幼い頃はよく、こうして。森のみんなの前で歌っていた。
「たのしいっ! ねぇ~」
『ネェネェー』
(精霊ちゃんたち本当に可愛いよぉ~)
――『可愛いは本当に心から思っているよ』
「んにゃなッ!」
こないだの彼の言葉を!!
なぜ今また、思い出すのだろう?!
「……もぉ~やだッ!」
やっぱり最近の私は、何かがおかしい。