#3 恋のライバル
桜との関係が少しずつ深まっていく中、春人は心の中で彼女への気持ちが強くなっているのを感じていた。しかし、その気持ちをどう伝えたらいいのか、春人にはまだはっきりとした答えが見つからない。
「これでいいのかな…。桜は俺のことをどう思っているんだろう?」
春人は、友達以上、恋人未満の微妙な距離感に悩みながらも、桜との時間を楽しんでいた。図書館でのひとときや、放課後に二人で話したりする時間が、どんどん大切なものになっていった。
しかし、その幸せな時間が、少しずつ崩れ始めていた。
昼休み
その日、春人はいつものように友達と昼食を取っていた。上山弘と一緒にお弁当を広げ、クラスメートたちと賑やかに話していると、突然教室のドアが開いた。そこには、海辺秋悟が立っていた。
秋悟は、桜と同じく中学からの友達で、彼女にとっては長い付き合いのある人物だった。春人も彼のことは顔見知りで、クラスで何度か見かけたことがあったが、特に親しいわけではなかった。しかし、その存在感は確かにあった。
「おい、桜、今日どこ行くんだ?」秋悟の声が教室に響く。
桜がその声に反応して顔を上げる。「あ、秋悟くん!今日は何か用事があるの?」
「うん、ちょっとさ。」秋悟は桜のところに歩み寄り、春人の存在に気づくと、ふと視線を向けてきた。その視線には、どこか挑戦的なものが感じられる。
春人は少し緊張しながら、秋悟を見返した。秋悟は、誰もが認めるイケメンで、しかもスポーツも得意な男子。周りの女の子たちも、彼に注目していることが多かった。春人にはどうしてもその存在が気になってしまう。
「桜、放課後一緒に勉強でもしようぜ。」秋悟は桜に話しかけながらも、春人を無意識に軽く見たように、視線を避ける。
桜は少し戸惑った様子で言った。「うーん、今日は春人くんと約束があるから、ちょっと無理かな。」
春人はその言葉を聞いて、胸が少し温かくなるのを感じた。桜が自分との約束を優先してくれるというのは、嬉しいことだった。しかし、秋悟の微妙な表情に、何か気になるものを感じずにはいられなかった。
「そっか…まあ、次にしよう。」秋悟は少しだけ眉をひそめ、そう言うと、背を向けて教室を出て行った。
その後、春人は桜と目が合うと、少しだけ顔を赤くしながら言った。「ごめん、秋悟くんが…なんか気を使わせた?」
桜は軽く首を振りながら、微笑んだ。「いいえ、全然。秋悟くんはちょっと変わってるけど、悪い人じゃないの。でも、春人くんと約束してるから、ちゃんと守るよ。」
その言葉に、春人は嬉しさを感じながらも、心のどこかで不安がよぎった。秋悟がどうしても気になる存在であることを、春人は否定できなかったからだ。
放課後
放課後、春人は桜と一緒に屋上で勉強を始めた。今日は、桜が頼んでいた数学の問題を一緒に解いている最中だった。
「春人くん、数学ってどうしてこんなに難しいんだろう…。頭がこんがらかっちゃう。」桜は少し疲れた様子で言った。
「そうだね。俺もあまり得意じゃないけど、一緒にやれば少しは楽しいよ。」春人は桜を励ますように言った。
その言葉を聞いて、桜は少しだけ顔を赤くしながら微笑んだ。「ありがとう、春人くん。」
二人はしばらく無言で勉強していたが、その静かな時間の中で、春人の気持ちは少しずつ焦り始めていた。どうしても、秋悟の存在が引っかかって仕方なかった。
その時、桜がふと顔を上げて、春人に言った。「春人くん、私、ちょっと気になることがあるんだけど…。」
「気になること?」春人は少し驚きながら聞き返した。
「うん…。秋悟くん、なんだか最近、私のことを気にしてる気がするんだ。でも、私は春人くんと一緒にいたいから、ちょっと困ってるの。」
その言葉に、春人は驚いたが、同時にほっとした気持ちが湧き上がってきた。桜も、秋悟に対して特別な気持ちを持っていないのだと知り、少し安心した。
「桜がそう思うなら、きっと大丈夫だよ。」春人は真剣な表情で答えた。
その言葉を聞いて、桜は安堵の表情を浮かべた。「ありがとう、春人くん。」
その瞬間、春人は一歩踏み出すべきだという決意を固めた。桜に対する想いを伝える時が、そろそろ来たのかもしれない…。