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#1 出会い

花御第一高校、通称「花高」は、周辺でも名の知れた進学校だ。新しい校舎の中で、春人はまだ少し緊張していた。入学式を終え、クラスメイトと顔を合わせた後も、どこか居心地の悪さを感じていた。


「こんなにも大勢の人がいるのに、まるで一人みたいだな。」


春人は少し俯き、心の中でぼんやりと思った。誰かと話すのも苦手ではないが、初対面の相手とはどうしても緊張してしまう。そんな彼が、心から「友達」と呼べる存在を作れるのか、少し不安だった。


クラスの中で静かに席につくと、周囲の雑談の中に「桜」という名前が何度も聞こえてきた。その名前に引き寄せられるように、春人はふと視線を向けた。


彼女は、教室の隅で他の生徒たちと楽しそうに話していた。長い黒髪が光を受けてきらきらと輝き、彼女の笑顔が周囲の空気を明るくしているように見えた。まるで、学校の太陽のような存在だった。


有田桜ありたさくら、か…。」


思わず春人はその名前を心の中で繰り返した。彼女は、誰もが知っている学校の人気者だった。学業もスポーツも得意で、性格は明るく、誰にでも優しい。その姿はまさに完璧で、どこか遠い存在のように感じた。


その時、桜がふと顔を上げ、春人の方を見た。その瞬間、春人の心臓が一瞬跳ねた。桜の目が合ったのだ。春人はすぐに目をそらしてしまうが、なぜか胸の奥が少しざわついていた。


「なんで、俺、こんなにドキドキしてるんだ?」


自分でも不思議に思いながら、春人はその日の授業を受けた。授業が終わり、教室が一斉に賑やかになる中で、春人はそのまま自分の教科書を整理していた。周囲のクラスメートたちは、どこか楽しげに話をしているが、春人はどうしてもその輪に入る勇気が出ない。


突然、隣の席の男子が声をかけてきた。


「おい、春人。ちょっと気になることがあるんだ。」


春人はその声に顔を向けた。隣の男子は、どこか頼りない印象のある、上山弘うえやま ひろしだった。彼は少し照れくさそうに続けた。


「実はさ、桜ちゃんが今日、放課後にみんなでお茶でもどうかって言ってたんだ。俺も誘われたんだけど…春人も一緒にどうだ?」


その言葉に、春人は驚いて顔を上げた。


「えっ?桜が、俺を?」


春人は一瞬信じられなかった。桜が自分を誘う? そんなことは考えたこともなかった。人気者で、誰もが彼女と友達になりたがる。その桜が、自分のような平凡な男子に声をかけるなんて、まるで夢のような話だった。


「うん。俺も最初は驚いたけど、みんなで行こうぜ。」弘はにっこりと笑いながら言った。


春人は、心臓がドキドキするのを感じながら、少し迷った。「でも…俺なんかが行っていいのかな?」


「大丈夫だよ、桜ちゃんはみんなと話すの好きだし、気にすることないって。行ってみろよ。」


春人は自分の心臓の鼓動がどんどん速くなるのを感じながら、少しずつ決心を固めた。「…わかった。行くよ。」


放課後、教室を出ると桜が明るい笑顔で待っていた。春人は少し緊張しながら近づくと、桜はにっこりと微笑んで声をかけてきた。


「やっと来たね、春人くん!今日はみんなでお茶をしようって思ってるの。緊張しないで、リラックスしてね。」


桜の優しい言葉に、春人は心の中でホッと息をついた。彼女の笑顔に包まれるような気がして、少し安心した。


その後、春人は桜や他のクラスメートたちと一緒にカフェに行き、楽しいひとときを過ごすことができた。桜はとても気さくで、誰にでも優しく接してくれる。春人は次第に、桜との距離が少しずつ縮まっていることを感じていた。


しかし、春人には一つ気がかりなことがあった。それは、桜の笑顔を見ているうちに、彼女に対する特別な感情が芽生え始めていることだった。それが、単なる友達としてのものではないことに、春人は気づき始めていた。


「桜…僕、どうしてこんなにドキドキしてるんだろう。」


その時、春人は心の中で思った。しかし、その答えを出すことはできなかった。ただ、桜のことをもっと知りたい、もっと一緒に過ごしたいという気持ちだけが膨らんでいく。

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