いざ!ダンジョンへ!
これ思ったんですけど転生じゃなくて転移ですね
夜が明けると、俺たちはそれぞれ必要なアイテムの準備を始めた。これから向かう「白光殿」の探索では、装備や道具をしっかり整えておかないと、あっという間に危険な状況になりかねない。
……まあ、俺の持ち物は、ほとんどないんだけどな。
――いや、まったくないってわけでもない。ちょっとした装備と、ありがたい差し入れがある。
それは、昨日の夜のことだ。
前夜
「リオン、これ使ってみて」
イニアが、小さな布袋を俺に差し出してきた。
「回復薬よ。ダンジョンに潜るとき、持っておくと便利だから」
薬草のエキスで作られた回復薬らしい。致命傷を癒すほどではないが、魔力量の回復や、軽い毒を中和する効果があるそうだ。なるほど、戦闘中に使うこともあるだろうし、持っていて損はない。
現在
というやり取りがあったおかげで、今のところ手ぶらではない。
さて、ふと思ったんだが――この「白光殿」、全700層って本当にヤバくないか?
転生系の小説でよくあるダンジョンは、多くてもせいぜい100層くらいだ。それが7倍って……。
攻略に何ヶ月、いや何年かかるんだ?
まあ、冒険ランクもA級と言っていたし、何とかなるだろ。……多分。
「じゃあ、俺は明日のために買い出しに行ってくるぜ」
考え事をしていると、ガンダが声を上げて立ち上がった。どうやら、食料の調達に出るようだ。
「わかったわ、ガンダ。万引きはするんじゃないわよ!」
イニアの声が鋭く飛ぶ。
……おいおい、マジか? ガンダ、前科でもあるのか? 顔つき的にはやってそうではあるが。
「フッ、バレたことねぇよ」
いやいや、そういう問題じゃないから‼
ていうか、そういう倫理観でいいのかこの世界⁉
「やめろよ、ガンダ。冗談でもリオンが誤解するかもしれないだろ」
ウィルタが苦笑いしながらフォローを入れる。
「そうよ!」
イニアもそういうが、イニアが始めたんだろ。
「ハッハッハ、すまねぇ」
よかった……冗談だったのか。
「じゃ、行ってくるぜ!」
「いってらっしゃい!」
そんなやりとりもありつつ、俺たちは明日の出発に備えて準備を進めた。
ウィルタは魔法道具のチェックに集中していて、机の上に並べた魔石や符を順に光にかざしては、うんうんと唸っている。
「この魔石……前より反応が鈍いな。使う前に補充しておくか」
彼は自分で魔力を流し込みながら、調整を続けていた。
イニアは、ガンダが買ってきたお菓子の袋を広げながら「これも!」と差し出してきたが、俺は食欲がないので、それにあまり手を出すつもりはなかった。というか、ダンジョンでお菓子を食べる余裕があるのか?
そんなことを考えてると、そのことを悟ったのかと思うほどに語った。
「ダンジョンの中で甘い物を食べると、ちょっとした癒やしになるのよ?」
そうなのか……?
俺は正直、そんな余裕があるのか疑っていたが、あまり深く考えるのはやめた。
ゼナは、弓と矢のバランスを確認していた。一本一本の矢羽の角度を微調整しており、職人のような真剣な表情だ。時折、薬瓶を手に取り、中身を確認したりラベルを書き換えたりもしている。
「こっちの薬、日付が古いわね……交換しとこうかしら」
イニアはゼナをみならなってほしいよ……。
そしてガンダは帰ってきたあと、食料の袋をテーブルにぶちまけ、種類ごとに分類を始めていた。
「肉、保存食、乾燥パン、あとは……甘いもんか。よし、問題ねぇ」
すげえ量だけど、持っていけるのか?
まあ、ガンダの体の大きさなら大丈夫か。
そして俺はというと、今朝から特にやることもなく、朝ごはんを食べてから(あまり食欲はないが)ぼんやり立ち尽くしていた。みんなが黙々と準備する中、自分だけ手持ち無沙汰なのは少し気まずい。
なんか、俺にもできることないかな……?
そう考えていたところで、ウィルタが顔を上げた。
「じゃあ、昼食にしようか。エネルギー補給も準備の一部だよ」
もうそんな時間か……!
時計を見れば、確かに日も高くなってきている。何やかんやしてる間に、すっかり昼時だ。
「じゃあ、昼食にしようか。エネルギー補給も準備の一部だよ」
ウィルタの提案に、みんなが自然と手を止めた。
「そうだな。準備で頭を使ってたら、糖分も足りなくなってきたぜ」
「そんな威張らなくていいのよガンダ。使うほどの頭はないでしょうに」
バチバチだなぁ。ほんとに大丈夫なのか?
「え、なんでそんなこと言うん?」
そりゃそうだ。あのガンダでさえ標準語が出ている。
「冗談わよ、フフフ♪」
「わははは!そうだよガンダ怒んないで」
みんな失礼なやつだな。このパーティは。
「辛いぜ・・・」
ウィルタは、そんな茶番に触れもせずテーブルに持ってきた保存食とパンをずらりと並べ、その隣に干し肉と乾燥野菜のスープパックを並べた。
「よし、準備できたぞ」
言い争っているうちにウィルタの準備が終わったようだ。
「ほらよ。肉もあるぞ、リオン。育ち盛りなんだからガツガツ食え!」
ガンダがそういうと、俺の皿に大量に入れてきた。
育ち盛りって……俺、そんな若く見えるか?
ていうか雪だるまに育ち盛りなんてねぇだろ。
俺は悲しみながら席に着いた。
いただきます
それぞれが思い思いに食事を取り始める。ゼナは味気ない乾パンを水でふやかしながら静かに食べていたが、ふと顔を上げて俺の方を見た。
「リオン。緊張してるのかしら?」
まあ確かにちょっとだけしているなしているな。ただの会社員が本格ダンジョン探索だし。
「大丈夫よ。私たちがいるもの」
そう言って、ゼナはわずかに微笑んだ。
イニアがそれを聞きつけたのか、口にチョコクッキーを放り込みながらこちらに身を乗り出してくる。
「そうそう! リオンが後ろに下がってる間に、私たちがドーンって戦って、ズバーンって敵を倒して、ドカーンって進んで――」
「いや、擬音だけじゃわかんねぇよ」
ガンダがツッコミを入れた。
「要するに、無茶だけはしないことだ。基本的に俺たちに任せてくれ」
するとウィルタから、優しく言ってくれた。
俺はうなずいた。
そして、二回目の朝が訪れた。
各自が装備を身に着け始めた。ウィルタが魔道具の収納ケースを腰に装着し、イニアは杖を背に、ガンダは巨大な袋を背負い、ゼナは矢筒の位置を微調整している。
俺はというと、回復薬をベルトに装着した。
「よし。全員、準備はいいな?」
ウィルタの声が、家の中に響いた。
「当然だぜ、ウィルタ」
「行くわよ、リオン。遅れたら置いてくからね!」
「……頑張りましょう、みんなで」
「じゃあ、出発だ」
これが、俺の“冒険者”としての第一歩――本物の冒険の始まりだ。
「あ、ちなみに《白光殿》は、町外にあるから結構歩くぞ」
歩くんか~い!
もう中に入る展開だったじゃん!
「じゃあ、出発だ」
パタン、と家の扉が閉じられる音がして、俺たちは白光殿へと歩き出した。
遥かなる700層の迷宮。その先に、何が待ち受けているのか――誰にも、まだ分からない。
コメントお願いします。