リシモの町!
話と説明の時の区別が難しいですね
「うわぁー、でっけぇ塀だぁ……!」
目の前には、どっしりとそびえる巨大な石の城壁。
おそらく高さは20メートル以上。迫力満点だ。
「よし、みんな冒険者カードを出しておけよ」
「はーい」
ウィルタの合図で、みんながパスポートのようなカードを取り出して手渡していく。
なるほど、これがこの世界での“身分証”みたいなもんか。
「リオン、お前はイニアの“獣魔”ってことで通しておくからな。いいか?」
もちろん答えはイエス。
俺は木の手で○マークを作って見せた。
――獣魔か。
なんか響きカッコいいな。
だったらイニア、もっと堂々と「私の獣魔です!」って言っほしいな。
すると、門の前に立っていた兵士がこちらを見て声をかけてきた。
「冒険者の方々ですね? カードを拝見します」
「はい、こちら4人分です」
「ありがとうございます。A級パーティー“インドラ”の皆さんですね。……あの、ちなみに……その雪だるまは?」
やっぱり言われた。
俺を指さしながら、兵士は戸惑いの表情を浮かべ、引いていた。
兵士が小声で「うわ・・・子供かよ」って言ってる。
まあイニアは子供だけど、俺は大人だよ!!物じゃないよ、生きてるよ!
「雪だるまじゃなくて、リオン!」
……またそれ言うのか。
たぶん今後、誰かに話しかけられるたびに毎回ツッコまなきゃいけないパターンだこれ。
「失礼しました。では、リオン様はどういった……」
「リオンはうちの獣魔です」
「な、なるほど……名付けはお済みですか?」
兵士が小声で「マジかよ……」って言ってる。
まあ、そりゃそうだ。雪だるまが動いてるとか、普通じゃない。
「はい。この言語も理解できますし、暴れたりはしませんので」
「承知しました。……ただし、取り扱いには十分お気をつけください」
そう言って、兵士はカードを返してきた。
「ありがとうございました」
ウィルタが礼を言って、門を通る。
その先には、中世ヨーロッパのような町並みが広がっていた。
石畳の通り、木造の建物、屋台から漂う香ばしい匂い――
これぞ、異世界!
「おっ、ウィルタじゃねぇか。……で、その雪だるまは何だ?」
声をかけてきたのは、片目に眼帯をつけた渋いイケオジ。
雰囲気からベテラン感があふれ出ていた。
「雪だるまじゃなくて、リオン!」
また言った。
「ごめんなイニア……で、そのリオンってやつ、何者なんだ?」
「リオンは、俺たちが倒そうとしてたジャイアントを、一発でぶっ倒したんだぜ!」
ガンダが誇らしげに言うと、眼帯オジさんの顔がみるみる青ざめていった。
「……ジャイアントを一撃? そ、それって……A級以上ってことか?」
「まあ、そういうことになるな」
「はああ⁉ なんだと……! これはもう、ギルドマスターとして正式に対応せねばならん!」
え、この人ギルドマスター!?
眼帯イケオジが!? ちょっと羨ましい……!
「わかりました。荷物を整理したら、すぐ向かいます」
「よろしく頼んだぞ」
そう言って、ギルドマスターは足早に町の方へと消えていった。
「はぁ~……やっぱ、これは呼び出されるわよねぇ」
「まあ、A級以上の雪だるまなんて前代未聞だからな」
A級以上って、やっぱこの世界でもかなり上のランクなんだな。
ファンタジー世界の定番って感じ。
「じゃあ、一旦家に戻るぞ」
そういうとウィルタたちが、大通りを歩きだした。
「ついたぁー!」
ウィルタたちはシェアハウスで共同生活をしていて、その家は町の入り口から20分ほど歩いた場所にあった。
そしてその家がまた、めっちゃデカい。
ヨーロッパ風の大邸宅で、冒険者の家とは思えないほど立派。
見た瞬間、旅の疲れが吹っ飛んだ。
「残念だが、休んでいる暇はない。荷物を置いたら、すぐギルドに向かうぞ!」
「えぇ~やだよ~、お兄ちゃん~」
「仕方ない。ギルドマスターに言われてるんだ」
疲れているのも当然だ、1時間くらいあるいたもんなだもんな。
「雪……じゃなかった、リオンは疲れねぇのか?」
俺は小さく頷く。
この体になってから、疲労とか痛みってあまり感じない。
めっちゃ便利。
「うらやましいわねぇ……」
確かに。あっちの世界でも、疲れとか感じなかったらどれだけ楽だったことか。
でもまあ、雪だるまっていう見た目デバフあるけどな。
「よし、そろそろ行くぞ」
俺たちは再び、冒険者ギルドへと歩き出した。
ギルドは町の中心にある、でっかい建物だった。
石造りの堂々たる構えに、でっかい看板の文字がどーんと書かれてる。
『冒険者ギルド リシモ支部』
俺たちが扉を開けると、中はかなりにぎわっていた。
広いホールにはたくさんの冒険者が集まり、掲示板にはクエストがズラリ。
受付嬢がずらっと並び、冒険者と話し込んでいる。
まさに、「これぞ冒険者ギルド!」って感じだ。
「……おい、見ろよあれ……」
「なんか……雪だるまが歩いてるんだけど……」
「新手のモンスターか?」
当然ながら、視線が全部こっちに集中する。
やっぱりこの異世界でも、雪だるまが動いてたらビビるよな。
「気にすんなリオン。慣れればどうってことない」
「いやいやどうってことあるだろ……」
ガンダがボソッとツッコんだ。
そのツッコミは俺が言いたかった。
「おーい、ウィルタ!」
奥から、あのギルドマスターが手を振りながらやってきた。
「こちらへ。リオン殿の件、正式にお話を伺いたい」
「殿……⁉」
呼び方に戸惑ってる間に、俺たちはギルド奥の応接室へと通された。
「さて……まずは報告書の確認からだ」
ギルドマスターは真面目な顔で書類を読み始めた。
「……ふむ。確認したが――リオン君。君、あのジャイアントを一撃で倒したというのは本当か?」
俺はこくんと頷いた。
「……一体、どうやって?」
俺だって聞きたいよ。
ウィルタが代わりに説明してくれる。
「リオンは、氷魔法のようなもので動きを封じ、そのまま巨大な氷の竜巻が天を貫いた。力というより、精密さと魔力の圧でねじ伏せた感じですね。」
「聞くだけでも恐ろしいな……なるほど」
ギルドマスターは腕を組んでうなる。
「だが、それ以上の問題がある」
「……!」
「……リオン君が、“人”ではないという点だ」
全員が静かになった。
「通常、獣魔として契約された存在はここまで知性を持たないし、意思疎通もできない。さらに言語を理解する例は、特級ランク以上のモンスターにしか見られない」
「つまり、リオンは……?」
「下手すれば、国家レベルの戦力になりうる」
うわ……それって、めっちゃ面倒なことになるやつじゃん。
「え、それじゃあ私たちで飼っちゃいけないの⁉」
「これは、異例だ。ギルド側としては、監視したいところだが……、お前らインドラには、世話になっているから自由を許してやろうじゃないか!」
か、軽いな……。
逆に心配になってしまう。
「リオン殿は“個人契約型の特例獣魔”として登録しよう。特殊例だが、これでギルド的には公認となる」
特例……! なんかちょっとかっこいいな。
「じゃあリオンは、監禁されずに済むのね!」
「当然だろう、A級以上の力は持ってるんだからな。働いてもらわないと困る」
監禁とまで言ってはないだろ、イニア。
「結局は労働力ですか?ギルドマスター」
ウィルタが呆れるように言った。
「まあな。ともあれ――リオン、ようこそ。君はもう、リシモの一員だ」
ギルドマスターがにっこりと笑って、俺に手を差し出した。
俺は木の手で、そっと握手を返した。