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「好きになることはない」宣言 1

 そして、挙式の日を迎えて。


 リューデル王国で一番歴史があるという大聖堂。ここは、王族や高位貴族が挙式をする際に使用されている場所。


 ローゼリーンはここで初めて夫となるバーグフリートと対面し、永遠の愛を誓った。……まったく、そんな感覚はないのだが。


(だって、バーグフリートさまは私と目も合わせてくださらなかったわけだし)


 挙式の際中。彼はローゼリーンを見ようとはしなかった。ずっと別のところを見ていて。


 さすがのこれには、ローゼリーンも少しの不満を抱いてしまった。


 それから、小規模ではあるものの披露宴を開いた。本来ならば、ローゼリーンは大規模なものを開く立場だ。


 しかし、それをほかでもないローゼリーンが拒否したのだ。


『そんな大々的な披露宴など、いりません。身内だけの小さなものがよろしいです』


 披露宴の内容を決めるとき。ローゼリーンはそう意見した。


 そこには、いくつかの考えがあった。だが、一番大きなものは――バーグフリートに負担をかけないためだ。


(彼は辺境のいざこざを治めたばかり。少しでも、ゆっくりとしていただきたいわ)


 後処理の所為で全く会えていないが、ローゼリーンの中ではそれなりにバーグフリートに対する情が生まれていた。


(彼はお忙しい人だものね。だったら、負担は少しでも軽くしたほうがいい)


 英雄とは、戦場などに行けば、それなりに相手に負荷を与える立場だ。


 けれど、本人だって重荷を背負うことになってしまう。ローゼリーンは、それが心配だった。


 だから、大々的な披露宴はやめて、小規模な披露宴を選んだ。


 会場には軽食もあったのだが、あいさつ回りで忙しいローゼリーンは一口も口に入れることが出来なかった。


 そのため、料理人に頼んで晩餐を用意してもらった。


 バーグフリートに必要かと聞いてみれば、彼も頷いてくれた。というわけで。ローゼリーンは彼と共に食事をすることにしたのだが。


(少しでも、お話しできると嬉しいわ)


 そう、思っていたのに。


 ――食事の席で、会話はこれっぽっちも弾まなかった。


 ◇


(彼は、晩餐を美味しいと思っていらっしゃるのかしら?)


 表情をちっとも動かさずに、食事を続ける彼を見ていると、少しの疑問を抱く。


 料理人はローゼリーンの実家の者ということもあり、もしかしたら彼には食べなれていない味なのかもしれない。


「バーグフリートさま。もしも、お口に合わないことがありましたら、遠慮なくおっしゃってください」


 にっこりと笑みを浮かべてローゼリーンがそう問いかけてみる。が、彼はしばらく間をおいて「大丈夫だ」というだけだった。


(若い男性は味の濃いものを好まれるのかしら? わからないわね)


 食事は少し味が薄い。それは、ローゼリーンの好みに合わせてだった。


 元より味の濃いものは好まない。父も兄も。同様である。


 だが、父に関しては若い頃は味の濃いものを好んでいたという。年齢を重ねるにつれ、胃腸が受け付けなくなったと笑っていた。


(お兄さまは昔からこの味だし、好みもへったくれもないのでしょうが……)


 それに、相手は騎士だ。身体を動かしている。だったら、もっとエネルギーを得られるもののほうが……。


 なんて考えていると、ぼうっとしてしまって、食事の手が止まっていた。


「ローゼリーンさま。お疲れですか?」


 その所為で、実家から連れて来たテレサに心配されてしまう。


 ローゼリーンは食事は残さずに食べる主義だ。もちろん、体調の悪い日は除く。


「い、いいえ。違うの。……ただ、少し考え事を」


 侍女は普通、食事中の主に声をかけたりはしない。けれど、今日は例外だろう。


 テレサは、ローゼリーンのことを心配してくれているのだから。


「さようでございますか。ですが、ご無理だけはなさらないでくださいませ」


 頭を下げて、テレサが持ち場に戻っていく。ローゼリーンは、ステーキをもう一度口に運ぶ。


(少しくらい、私とお話してくださっても構わないじゃない)


 バーグフリートは素っ気ない。その所為なのか、ローゼリーンの中にある彼への好感度は、上がっていなかった。


 ゼロのまま……いや、ゼロは言い過ぎだろう。情があるのだから、せめて十くらいはありそうだ。


(百を高感度マックスとすると、本当十くらいだわ。私はお話が好きなのに)


 貴族の食卓とは、厳かな空気の場所も多いと聞いたことがある。でも、ローゼリーンの実家は違う。


 身内だけの場合は、それなりに楽しく話をしていたのだ。……なのに、彼ときたらどうだろうか。


(私とちっともお話をしてくださらないわ!)


 食事は美味しいのに。……ちっとも、楽しくない。ローゼリーンは、それが不満だった。

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