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嫁ぐことになったわけ 2

 私室で簡易のドレスに着替え、ローゼリーンが髪の毛を整え終えたとき。タイミングばっちりに、先ほどの侍女が父の帰宅を知らせに来てくれた。


 彼女にすぐに向かう意思を伝え、ローゼリーンも私室を出て行く。


 少し歩けば、父の執務室の前にたどり着く。一度だけ咳ばらいをして、扉を三回ノック。声が聞こえてきて、許可が出たら扉を開けた。


 すると、暑苦しいばかりの抱擁がローゼリーンを襲う。


「あぁ、ローゼ。キミはいつも可愛いな」

「知っております」


 父はいつもいつも、ローゼリーンに「可愛い」と伝えてくる。朝昼晩だけならばまだしも、一日五回以上言われるのが常だ。


 だからこそ、ローゼリーンは自らの容姿がとても整っていることを自覚している。むしろ、整っていなければ『宝石姫』なんてあだ名で呼ばれることもない。


「今日の装いもとても愛らしい。まるで、可憐な妖精のようだ!」

「えぇ、そうでしょう」


 ニコニコと笑って父の言葉に相槌を打つ。いつもならば父もここぞとばかりに褒め言葉を連呼してくるのだが……今日は、違った。


 彼は悲しそうに眉を下げて、ローゼリーンを見つめていた。


「可愛いローゼ。私に、もっとその愛らしいお顔を見せてくれ」


 まるで縋るような声に、ローゼリーンはぽかんとしてしまう。


 でも、断る意味もないので父を見つめる。……父は、しばらくしてその場に崩れ落ちた。


「お、お父さま!?」


 さすがにこれはローゼリーンとて予測していないことだった。


 その所為で大声が出てしまう。父は、よろよろと立ち上がる。


「どうして、どうしてなんだ。……どうして、ローゼが……」


 額を押さえつつ、父はこの世の終わりのような声音で、そうブツブツと呟いていく。


 ローゼリーンには、意味がわからない。きょとんとしていれば、父は「真剣な話をする」と表情を整え、ローゼリーンを執務室にある応接用のソファーにエスコートしてくれた。


「お父さま、大丈夫ですの? 何処かご体調でも悪いのですか?」


 普段は丈夫な父が、弱っている。


 驚きも隠せずに、ローゼリーンは恐る恐る父にそう声をかけてみた。父は、ゆるゆると首を横に振るだけだ。


「いや、私はとても元気だ。……悪いのは、心の状態だろうか」

「まぁ。ですが、本日は伯父さまに呼び出されたのでしょう?」


 国王とはいえ、父にとっては兄である。そこまで厳しい精神状態になるはずがないのだが……。


 と思い、ローゼリーンは頬に手を当てる。父が、膝の上で手を組んだ。


「あぁ、兄上……陛下に、呼び出されていた。そこで、私は一つの打診をされたんだ」

「……打診、でございます?」

「いや、違うな。これは一種の王命だ」


 ちょっとだけ、不穏な言葉かもしれない。


 リューデル王国の現国王は、権力を振りかざしたりはしない性格だ。そのため、『王命』という言葉など滅多なことでは使わない。


 合わせ、それをまさか弟に使うなんて……。


(いいえ、お父さまだからこそ、王命を与えられたのかもしれない)


 しかし、そう思いなおした。


 血のつながった弟だからこそ。自らの意思を理解して、動いてくれる。そう思い、信頼してくれているのだろう。


 ……けれど、それでも不可解なこともある。


 それこそ、どうして父がこのことをローゼリーンに伝えたのか、ということだ。


(普通ならば、跡継ぎであるお兄さまのほうに先にお話が行くはずだわ。……なのに、私のほうに来ている)


 それすなわち。その『王命』とやらば、ローゼリーンに関係のあることなのだろう。瞬時に、それを理解した。


「この間の戦のことは、覚えているだろうか?」


 ふと、父が話の流れをぶった切って、別の話を始めた。


 この間の戦。ということは、間違いなく『アレ』のことだろう。


「えぇ、本日の新聞にも大々的に載っておりましたもの。……英雄となった騎士の男性に、勲章が贈られるのでしょう?」


 記事の最後には、そんな言葉が綴られていた。そのうえで、その男性の欲しいものを一つ、褒賞として与えると。


 大方、地位とか爵位とか。そういうものを欲しがるはずだ。……もしくは、一生働かなくてもいいお金、とか。


「ローゼは本当に賢いな。……あぁ、その通り。今度、あのグリューン伯爵家の次男坊には、勲章と褒美を与えると、陛下はおっしゃっていた」


 それはそうだろう。国を守った英雄になにも与えないなど、国のトップとしてあるまじきこと。


 ローゼリーンだって、それくらい理解している。


「……陛下は男に欲しいものをなんでも与えると言った。そうすれば、あの男、なんと言ったと思う!?」


 バンっと目の前のテーブルをたたいて、父が手を震わせる。


 ローゼリーンは、小首をかしげることしか出来ない。


「あの男は、妻が欲しいと言ってきたんだ」

「……妻」

「そうだ。ほかでもないローゼリーンを、自身の妻にしたいなどと寝言を言ったんだ!」


 ……寝言などと父は言うが。相手からすれば、本当にローゼリーンが欲しいのだろう。


 だって、ローゼリーンは現状国で最も身分の高い未婚の子女。


(私と結婚すれば、王族に取り入ったも当然だものね)

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