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02

 肉を切り分けたり下味付けたりして、クーラーボックスに入れて持って来た。

 大人数分だから下拵えは凄くたいへんだった。手分けしてるからオジサンが全員分受け持った訳じゃないけど、ウチの冷蔵庫はバーベキュー向け食材で一杯になってた。


 何台も用意されたバーベキューグリルに火をおこして行く。

 オジサンに見本を見せて貰って教わりながら、私もやらせて貰った。良く出来たってオジサンが褒めてくれた。


 だんだん人も増えて来て、幹事じゃない人も手伝ってくれたり、ビールを飲み始めたり、まだ焼いてないウインナーをそのままかじり始めたりしてる。え?あの人、ピーマンかじってない?


 まだ到着してない人もいるけど、時間になったので開会する事になった。

 会社ってそうなの?学校だと全員揃うまでやらないけど?

 今日は仕事じゃないからかな?


 開会の挨拶をしたのは社長だって。フツーのおじさんに見える。

 乾杯の挨拶はナントカ部長。こっちの人の方が体が大きくて偉い人みたいに見えるな。


 オジサンは幹事だから、私とはずっと一緒にはいられないって言われてる。

 だから最初に、バーベキューグリルでの焼き方を教えてくれた。オジサンがいなくても私が食べられる様にだ。

 そして予定通り、オジサンが呼ばれて離れてく。この場所を動かない様に言われた。



 さて焼こう、と思ったけれど、私の持ってるお皿に男の人が焼いたのを入れてくれた。


「どんどん食べて」

「あ、ありがとうございます」


 え~と、ナントカさん。なんだっけな?たくさんの人と挨拶したから、誰が誰だか分からない。


「でもアマノの婚約者がこんなに若い人だとは思わなかったな」


 あれ?オジサンを呼び捨てって事は、オジサンの上司?

 急に緊張してきた。失敗しない様にしなくちゃ。


「アマノからは俺の事をなんか聞いてる?」


 どなたか分からないけど。


「いいえ。仕事の事は話しませんので」


 オジサンがそう言う人で良かった。


「そうなの?会社の人間の事も?」

「はい」

「そうか。アマノってそう言うところあるよね」

「そうですね」


 公私をキッチリ分けるタイプ、ってヤツだよね。


「大変じゃない?」

「なにがですか?」

「アマノって冷たいからさ」


 え?オジサンが?冷たいって性格?違うよね?オジサン優しいし。

 それとも体温?抱き締められるといつも温かいけどな。

 最近はまた手を繋いだりもして貰えてるけど、やっぱり温かい。

 だけど恋人繋ぎはダメだって言われる。それに普通に繋いでても親指で手の甲を撫でたりすると、エッチ娘とか言われて手を放されちゃう。

 小さい頃はオジサンの手がヒンヤリしてた気がする。あれは子供の私は体温が高かったからだよね?

 今は私の方が冷たい。なぜなら大人になったから。 


「私の方が冷たいです」

「え?そう?」

「ええ。アマノは私より温かいですよ」

「あ~、アマノは女性にはそうなのかもな」


 なんかこの人、私のお皿に載せてくれるのは良いけど、よそ見しながらだからか、焼きが足りなかったり焦げてたり、ふだん料理しないんじゃない?


「私が焼きましょうか?」

「え?良いんだよ。バーベキューで焼くのは男の仕事だからな」


 そうなの?見回すと女の人で焼いてる人もいるけど?


「おい!ビールくれ!」


 急な大声にビックリした。離れたとこにいた男の人が、「はあ」と気の抜けた返事をする。

 わざわざ取りに行くみたい。

 その人と話してたみたいな人達が、こちらを見る目がちょっと怖い。私の隣の人は気付いてないけど、これ、この人が話を中断させたからじゃないの?

 教えて上げた方が良いのかな?睨まれてますよって。知らない方が幸せ?


 持って来てくれた缶ビールを二つとも開けさせてた。

 なんだ。この人と二人で乾杯したいから、この人にビールを頼んだんだ。

 あれ?私に渡そうとしてる。


「あの、私、お酒は」

「少しくらい良いじゃないか、ほら」

「いえ、飲めませんので」

「大丈夫、大丈夫」


 そう言って、無理矢理缶ビールを握らせられた。


「ビールはお酒じゃないって。ほら、あそこ。アマノも飲んでるじゃないか」


 見るとオジサンがプラコップに日本酒を注がれてる。オジサン、今日は飲むって言ってたもんね。

 あ、目が合った。小さく手を振ってみる。

 え?一気?体に悪いんじゃない?


「普段飲まないアマノも飲んでるんだから、俺達も乾杯しよう、ほら、乾杯、ほら」


 まあ、飲まなきゃ良いんだから、形だけでも乾杯しようか。


「じゃあ」

「カンパーイ」

「はい、乾杯」

「ほら、グッと」

「え?いえ、飲めませんので」

「はあ?乾杯したろう?飲まないなんてダメだろう?」

()めて下さい、先輩」


 私を包む様に後ろから手を回して、私の持ってた缶ビールをオジサンが奪った。

 思わず今日のNGワードの「オジサン」って言いそうになる。


 オジサンの事をオジサンって言っちゃうと婚約者に思われないからって、タカヒロさんって呼ぶ許可を貰ったんだけど、呼びたがった私が慣れなくて、どうしてもオジサンって言っちゃう。

 オジサンをタカヒロさんとかタカヒロって呼ぶのは憧れてたんだけど、実際に呼ぶとよそよそしいって言うか、オジサンとの距離が開いちゃう様でなんか変なんだよね。


「未成年に酒を薦めるなんて、どう言う積もりですか?」

「え?未成年?」


 顔を蹙めて私を見るから、「はい」と肯いた。


「じゃあなんでビールを受け取ったんだ?」


 え?無理矢理持たされたんだけど?


「あれを拒否しても良かったんですね?覚えておきます」

「なんだその言い方は?!俺が悪いみたいじゃないか!」

「あ、ごめんなさい」

「おいアマノ!婚約者ならちゃんと躾けとけ!」

「今のやりとりで、リノは間違ってないと俺は確信しましたよ。先輩」

「ふん!」


 先輩と呼ばれた男は、トングを網の上に投げ捨てて去って行った。

 危ないなぁ。炭から炎が上がったじゃない。

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