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 オジサン、あの二人の話は不愉快だって言ってたけど、ゴメンね。


「オジサン。前にチイ叔母さんの事、忘れたいって言ってたよね?」

「う~ん、言ったかもな」

「タカハシアイさんも?」

「そうだな。二人の事を忘れて、その分リノの事を覚えてたいな」

「もし私と別れたら、私の事も忘れる?」

「別れるってなんでだよ、まったく。それはないよ。俺はリノが・・・いや」

「なに?何を言おうとしたの?」

「いや、ちょっと、リノをオバサンとタカハシ夫人と自分勝手に比較する言葉を言いそうになった」

「どんな?」

「あ~、そうだな。俺はリノが好きだから、忘れるはずないって」

「自分勝手って?」

「二人とも前は俺の、彼女だったり婚約者だったりしたのに、俺って不誠実だったなって改めて思った」

「不誠実って?」

「深い付き合いをしていながら、気持ちを寄せる努力をしてなかったって言うか、リノに向ける気持ちと比べるとそう思う」

「好きじゃなかったって事?」

「・・・そうかもな」

「だから二人は忘れられるの?」

「いや。きっと忘れられないとは思うよ。でもなるべく思い出したくはないって思ってしまう」

「そうなんだ」

「ああ」


 タカハシアイさんもチイ叔母さんも忘れられないのなら、それならきっと、私の事も忘れないでいてもらえるんだろうな。



「オジサン」

「なんだ?」

「今も燃えない家を作りたいの?」

「うん?もちろんだよ」


 髪を撫でていたオジサンの手が止まった。


「燃えにくくは出来るけど、家具や内装もあるから、燃えないってのは難しいんだけどな。でも人が死なない工夫はもっと色々と出来る筈なんだ」

「そうなんだ」

「ああ」

「オジサンが建てたいのは燃えない家じゃなくて、人が死なない家なのね?」

「そうだな。家の中の転倒とかの事故も亡くしたい。怪我も火傷もしない、人を守れる家が理想だ」

「そうなんだね」

「ああ」


 理想的な家でも助からない場合はあるんだろうな。

 パパやお祖母ちゃんみたいに、事故や病気の場合もあるし。

 でも、助かる人もきっといる。


「オジサンもいつかその家に住むんだね」

「そうだな。リノと一緒にね」

「・・・そうか」

「そうだろ?」


 そうか。


「もしかして少しでも長生きしようって、私の為?」


 さっきトンカツ屋さんでそう言ってた。


「半分はそうだよ」

「半分?」

「もう半分は俺の為。俺がリノと少しでも一緒に生きたいから」

「・・・オジサン?」

「うん?」

「長生きしてね?」

「・・・その言葉でなんか、自分がすっごい年寄りみたいに感じる」

「もう!」

「あはは、ゴメンゴメン。長生きするよ」

「あははじゃないよ!」

「ホントホント、リノを一人にしたりはしないから」


 そう言うとオジサンはギュッと抱き締めてくれた。


 やっぱりオジサン、いつもと違う。

 明日、何も覚えてなかったら、お酒の所為かも?


 今度家でコッソリとお酒を飲まそうかとのアイデアが浮かんだけど、()めた。

 ファーストキス、忘れられたら困るし。

 やっぱり、結婚まで取って置いた方が良いのかな?


「オジサン」

「うん?」

「今日来れて良かった。連れて来てくれてありがとね?」

「そうか?」

「うん」

「・・・そうか」


 タカハシアイさんから話が聞けて良かった。

 チイ叔母さんからも聞く機会があったら良いな。

 ハヤシさんとももっと話がしたい。


 私ってオジサンの事、あんまり知らないんだな。



 バーベキュー大会から、私はハヤシさんとメッセージをやりとりする様になった。

 会社でのオジサンの事を色々と教えて貰えて嬉しい。

 相談にも乗ってくれるけどハヤシさん、やっぱりキスは取って置けって念を押される。


 オジサンとのツーショットがないって話をしたら、ハヤシさんが写真を送ってくれた。

 バーベキュー大会で私とオジサンの写真を撮った人がいたんだって。それを集めてくれたんだ。


 その中の1番のお気に入りを眺めてたら、オジサンから声が掛かった。


「ニヤニヤしてどうした?」

「ニヤニヤしてないよ。写真見てただけ」

「あ~それか」


 オジサンが苦笑い。


「どうしたの?」

「それ、オフィスに飾ってあるんだ」

「え?オジサンの机に?」


 ちょっと嬉しいな。


「いや。ハヤシ君達の机に」

「え?なんで?」

「ホント、なんでって思うよな?やりにくくて仕方ないよ」

「達って、ハヤシさん以外も?」

「ああ。その人達みんな、天使会ってのに入ってるらしい」


 天使会・・・不穏な響き。


「この写真、スマホの待ち受けにしようかと思うんだ」


 天使会から話をそらそうと思ってそう言うと、「え?俺も映ってるのに?」なんてとぼけた事をオジサンが言う。


「俺もって言うか、オジサンの部分をだよ。なんなら自分のは要らないって言うか、縦にするなら切らないと」

「入らないならリノの顔だけにしろよ」

「自分の顔を待ち受けにするなんて、聞いた事ないよ」

「いや、意外といるぞ?」

「でもこの写真から私がするなら、オジサン一択だよ」

「そうか?」

「オジサンのもそうして上げようか?」

「でも、そのリノ、横顔だからな」

「いや、オジサン一択で」

「なんで俺のスマホで俺の顔を待ち受けにするんだよ」

「意外といるんでしょ?オジサンのこの顔、好きだよ」


 そう言ってオジサンのスマホの待ち受けを替えてあげた。


「はい」

「止めてくれ。戻してくれ。ホントはリノの写真にしたいのに、俺だなんて」

「私の写真にしてくれるの?」


 ちょっと嬉しい。

 ううん。かなり嬉しいかも?


「でも誰かに見つかると通報されそうだろう?」

「え?なんで?」

「俺みたいのがリノみたいな可愛い少女の写真を持ってたら、盗撮かって疑われる」


 可愛いは嬉しいけど、少女と言われるのは子供扱いな気がして引っ掛かる。


「じゃあこれ」


 ホテルのベランダで撮った、大人な雰囲気の写真をセットする。


「止めてくれ。それこそいかがわしい活動をしてると思われる」


 確かに二人とも襟元が少し乱れてて、人に見せるのは恥ずかしいけど。そうだよね。人に見せらんないよね。


「じゃあやっぱりこれ」


 縦横逆だけど、オジサンとのツーショットをセットした。


「これなら二人の関係を邪推されないでしょ?」

「邪推するヤツはするよ。でもこれが無難かな」


 ムッ?


「無難って何よ?良い写真なのに」

「ああ。良い写真だし、俺も気に入ってる」


 そう言って写真を見ながらオジサンはマジメな顔をした。


「俺、こんな顔する事、あるんだな」


 オジサンが写真の中の自分を見てそう言う。


「え?良くするよ?」

「良く?」

「うん。オジサンは昔からこんな風に優しく笑うよ?」

「そうなのか?」

「うん」

「オジサン、自分の事なのに知らないんだね」

「ああ。知らなかった。もしかしたらリノがこう言う顔をしてる時って、俺もこの顔なのかな?」

「私がこう言うって、この顔?」


 写真の中の自分を指差して訊くと、オジサン「うん」て肯いた。


「私、こんな顔する事ある?」

「ああ。昔から良くしてるよ。すっごく可愛い」


 オジサン、写真と同じ顔してる。

 ひ~。なんか恥ずかしい。


「今も可愛い」


 そう言って、頭を撫でて来る。

 この顔は違う。この顔は私を子供扱いしてる時の顔だ。


「さっきの顔が良い」

「え?顔?」

「さっきはこの写真の顔をしてた」

「それを言ったらリノもこの写真の顔をしてたじゃないか?そんなむくれた顔しないで、さっきの顔してくれたら俺もその顔になるんじゃないか?」

「むくれてないし」

「今はヘソ曲げてる顔」

「曲げてない」


 もう、このオジサンは。


「分かった、分かった」


 そう言ってオジサンは私を抱き寄せた。


「俺の大切なリノはどんな顔をしてても可愛いよ」


 誤魔化そうとしたって、そうはさせないんだから。


「リノ、大好きだよ」


 そう言ってオジサンは、写真と同じ顔をする。

 もう、仕方ないな。


「私もオジサン大好き」


 オジサンが写真より良い顔をした。

 共白髪って知ってる?オジサン?

 一人で先に白髪になったらダメだからね?

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