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立ち上がってオジサンの腿の上に座って、オジサンの胸に寄り掛かる。
チャンスを逃がさない様に、その体勢になってから訊いてみた。
「いいの?」
「何が?」
「いつものハグと違うけど」
「今日はお姫様抱っこもしたろう?」
もしかしてオジサン、まだ酔ってる?
今日だけ特別?
「タカハシアイさんやチイ叔母さんの話をしたから、オジサン、エッチな気分になっちゃった?」
「はあ?そんな訳、ないだろう?何言ってんだ」
「だってオジサン、いつもとなんか違うし」
「そっちに戻って座るか?」
「ううん。このまま」
オジサンの首元に頬を押し付ける。
「タカハシアイさん、オジサンと体の相性抜群って言ってた」
「え?そんな事、リノに言ったのか?」
「うん。結婚してから私がエッチ下手だって分かっても、離婚したりしない?」
「する訳ないだろう?そんな事も言われたのか?」
「ううん。私がエッチ下手でも、他の人とエッチしない?」
「しないよ。心配するな」
「私とのエッチ中に、タカハシアイさんやチイ叔母さんを思い出したりしない?」
「あの二人思い出したら萎える」
「ナエル?」
「不能になる。だからその時点でエッチは中止になるな」
「そう。他の人も思い出さない?」
「思い出さない。俺はリノに夢中だから、リノ以外の事は一切忘れて考えられなくなるだろうな」
「私の事嫌いになっても、他の人とエッチしない?」
「しないよ。嫌いにならないし、万が一そうなってもしない。もしリノとエッチしないなら、俺は今後一生エッチしないで良い」
「私とエッチしないって、私と結婚しないって事?」
「結婚しても何らかの事情で、エッチしないって事もあるからな」
「私とのエッチだとオジサンが不能になったり?」
「ないとは言えないけど、その時はリノとだからじゃなくて、俺が機能不全になってだから」
オジサンが私の髪を撫でる。
「様子がいつもと違ったけど、不安だったんだな?」
「私が?いつもと違うの、オジサンじゃなくて?」
「うん?俺がいつもと違ったから、不安にさせたのか?」
「そうじゃないけど、私、オジサンの事、全然知らないんだなって」
「知ったら嫌いになりそうか?」
「そんな事ないけど」
オジサンを嫌いになるってなんだろう?どんな事があれば嫌いになるんだろう?
「知らないと不安か?」
「それは、うん。もっと知りたい」
「でも今日は知ったから不安になったんだよな?」
「そう言ったらそうだけど」
言って貰えてない事があると思うと不安になる。
知らなかった事を知ると、もっと何か知らない事があるかもって感じる。
「あの二人の事は正直な所、思い出すと不愉快にしかならないんだ。リノと二人きりの時にあの二人の事を思い出すと、リノとの時間を奪われたみたいで腹が立つ」
「え?そうなの?それは、ごめんなさい」
「え?なんでごめんなさい?」
「だって、二人の事質問したから、イヤな思いさせたかなって思って」
「リノが知りたい気持ちは分かるよ。俺もリノがゴボテン好きなの知らなかったのは、少しショックだったから」
「え?全然レベルの違う話じゃない?オジサン、私をバカにしてる?」
「同じだよ。リノがイカ巻きよりゴボテンが好きでも、俺はリノを嫌いになったりしなかったろう?今日の話を聞いて、リノは俺を嫌いになったか?」
「ならないに決まってるじゃない」
「それなら俺が不愉快になったり、リノを不安にさせたりする話はしない方が良いんじゃないか?」
他の人の事は思い出しても不愉快に感じないかな?
私といても不愉快に感じてないかな?
どっちも訊くのは止めて、「うん」と答えた。
「納得してなさそうだな」
まだ胸がモヤモヤするけど、そんな事ないって言うのも違うし。
返事をする代わりにスマホを出した。
オジサンの首元に頬を押し付けながら、自分達を写真に撮る。
「なに撮ってんだ?」
「バーベキュー記念」
「ここで?」
「バーベキュー会場でオジサンと写真、撮ってないし」
「そう言えばそうだな」
今日だけ特別かも知れないけど、また今度こうやって欲しくて我慢出来なかった時の為に、証拠写真を撮っておく。
証拠を残しておけば、たとえ今のオジサンが酔っ払ってて忘れちゃっても大丈夫。説得材料にも脅迫材料にも使えるからね。
「そう言えば、オジサンと二人の写真て、これが初めてかも」
「そんな訳ないだろう?」
「そう?他の人も一緒に映ってるのはあるけど、二人きりってある?」
「まあ確かに、俺が撮った写真にはリノだけで、俺は映ってないけど」
「オジサンとチイ叔母さんのツーショットなら撮った事あるけど、二人だけで誰かに撮って貰った写真は覚えてないよ」
「言われてみるとそうだな。ビデオはあったと思うけど」
「お祖母ちゃんが撮ったヤツ?」
「うん。昔のリノん家の庭で、リノを肩車したり逆立ちさせたりしたのがあったはず」
「そんな事してたの?どっか出掛けたんじゃなくて、庭で?」
「ビデオを撮る練習だったな。運動会の前だったよ」
お祖母ちゃんて厳しい感じで、失敗して人に弱味を見せる様な事はしないと思ってた。だから動画を撮る練習を人前でする様なイメージじゃない。でも私の運動会を撮る為には、そんな事もしてくれてたんだ。
「全然覚えてない」
「まあ、リノは小さかったしな」
「オジサンは覚えてるのに」
「悔しがらなくて良いからな?俺はあの頃からリノが可愛いかったから覚えてるだけだから」
「私だって幼稚園の頃からオジサンを好きだった筈なのに」
「だから悔しがらなくて良いってば」
「だって今の私はオジサンとの事を忘れられないって感じてるのに、実際にはもう忘れてるんだよ?」
悔しいって言うか、なんて言うか。
やっぱり悔しいのかな?
「俺が初めてリノにあったのは18だから、覚えてる事も多いよ。これからはリノも俺の事、忘れないだろう?」
「うん」
「それで充分だよ」
オジサンが髪を撫でてくれる。
でもオジサンには充分でも、私には足りてないんだよ。