11
「私の方がミズキに似ていたのよ?」
タカハシアイさんがそう言ったけど。
「ミズキ?ミズキってどなたですか?」
「タカヒロの最初の女。タカヒロに纏わり付いて、タカヒロを縛り付けていたイヤな女だったわ」
そのイヤな女の人に、タカハシアイさんは似てるの?
「ミズキは私がタカヒロに近付くと、あからさまに警戒して。タカヒロにも私の事、色々と悪く吹き込んでいたのよ。お陰でミズキが死んでからタカヒロが私に心を開くまで、とても大変だったんだから」
どうやってオジサンの心を開かせたんだろう?目の前の人物が、オジサンの心を開かせるイメージが湧かないけど。
その頃のタカハシアイさんと今のタカハシアイさんは別人なのかな?
「チヅルなんてミズキに全然似てないのに、タカヒロを私から掠め取って、ホント腹が立つ」
タカハシアイさんはチイ叔母さんに見た目は結構似てるけど?
ミズキさんとタカハシアイさんが似てたとしたら、タカハシアイさんと似てるチイ叔母さんはミズキさんとも似てそうだよね。
「でも良い気味だわ。とうとうタカヒロに振られて。さっさと別れれば良かったのよ」
「叔母とアマノが婚約解消する事をタカハシさんは望んでいたのですか?」
「当たり前じゃない。チヅルにとってはタカヒロは単なるカネヅルだったのよ?性生活だって不一致甚だしかったし」
セイセイカツって生活の中のエッチな部分って言うか、なんて言うか、良く分からないけれど、不一致はお互いのエッチが合わないって事だよね?
話が合わないとか、趣味が合わないとかみたいに。
「そんな事・・・良くご存知ですね?」
オジサンから聞いたオジサンに対してのチイ叔母さんの評価を思い出すと、そんな事はないって言えない。
「それはそうよ。チヅルの相手はプロだもの。タカヒロなんかじゃ物足りないに決まっているじゃない」
「プロ?」
「ええ。ホストだったり風俗男だったり、女を喜ばすプロ。そんなのに嵌まればお金なんかすぐ無くなるでしょ?チヅルの稼ぎじゃね。だから自分も風俗でバイトして注ぎ込んで、それでも足りないから借金して、挙げ句にタカヒロに肩代わりさせて」
チイ叔母さんの借金て、そうなの?
投資で失敗したって聞いてたけど、違うの?
「チヅルはだんだんもっと立派じゃないと満足出来なくなっていったのよ?ユルユルのズブズブだったんだから。タカヒロが相手じゃスカスカで、擦りもしないわ」
もしかして。
「タカハシさん。タナカって男、知ってますか?」
「チヅルの男の一人でしょう?あいつも太く長くて、普通の女は相手するのが大変なんだから。長さも長いけど時間も長いから、相手したらもうヒリヒリ痛いしクタクタになるわ」
「もしかしてタカハシさんがアマノに、タナカと叔母の浮気を伝えました?」
「もちろんよ。当たり前じゃない。詳細な記録を渡して上げてたわ。すっごく詳細なのをね」
またイヤらしく笑う。
「それって、アマノと叔母を別れさせる為ですか?」
「当たり前でしょう?他になにがあると思うの?」
「別れさせてどうするつもりだったんですか?」
不幸にする為なのだったらチイ叔母さんはともかく、オジサンは別れた今も少しも困ってない。と思う。
タカハシアイさんがやった事は、オジサンには仕返しになってないと思うけど?
「もちろん、私がタカヒロと結婚するのよ」
「え?だって、タカハシさん、結婚してるじゃないですか?」
「別れるに決まっているでしょ?」
「決まってませんよ。そんなに簡単に離婚出来るんですか?」
「浮気の証拠を押さえれていればね。詳細なのをね」
「それって、オジサンのお金目当てなんですか?」
「何言ってるの。チヅルと一緒にしないでよ。サラリーマンの給料なんてあてにしてないわ。慰謝料たくさん貰えば、私がタカヒロを養ってあげられるわよ」
「なんで離婚してまでオジサンと?」
「私の純潔を捧げたって言ったでしょう?」
「だからって」
「それに私達、体の相性だってバッチリなんだから」
「体の相性?体の相性って、エッチな意味で?」
「他にどんな意味があるのよ?」
「え?だってオジサン、下手だって」
「それはチヅルがプロと比べて言ったのよ。私にはタカヒロより良い相手はいなかったわ。今でもタカヒロが1番ね」
タカハシアイさんがウットリとした顔で言う。
「今でもって、ずっと前の話ですよね?今は違うかも知れないのに離婚しちゃうんですか?」
「バカね。その前に試すのに決まっているでしょ?」
「どうやって?」
「そんなの決まっているじゃない」
またイヤらしく笑う。
「あなただってタカヒロが良かったんじゃないの?でも残念ね。私の体を思い出したら、タカヒロはあなたの事は忘れるわ」
「え?そんな訳ありません」
「あるに決まってるでしょ?なんたって私はタカヒロと相性抜群なんだから」
酷い顔だ。
「もしかしたらタカヒロは、あなたを抱いている時も私の事を思っているかもよ?」
私も酷い顔をしてるかも知れない。
そこにノックの音がして、女の人が「失礼します」と入って来た。
「お客様がお見えです」
「こちらに通してちょうだい」
「畏まりました」
女の人は一礼して出て行く。
「ほら、タカヒロが届いたわよ?」
「届いた?」
「ええ。特別にあなたにも私とタカヒロの交わりを覗かせて上げる。タカヒロが私の時とあなたの時と、どちらの方が悦んでいるか、その目とその耳で、良く確かめるのね」
ノックがして「お客様をお連れしました」と声が掛けられた。
「入って貰って」
そう言うとタカハシアイさんが立ち上がった。
「ヴィラを借りてたのか」
知らない男の人が入って来た。
私も立つ。
「え?あなた?」
「失礼します」
そう言って男の人の後から入って来たのはオジサンだ!
「オジサン!」
「リノ、お待たせ」
「君がアマノ君の婚約者か」
男の人にそう言葉を掛けられる。
「初めまして。ワタナベリノと申します」
「タカハシです。よろしく、ワタナベさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私は男の方のタカハシさんに頭を下げた。
姿勢を戻して、オジサンの傍に立つ。
「あなた、今日はお仕事じゃなかったの?」
「次のプロジェクトの話が出て、アマノ君が助力してくれる事になったので、急遽こちらに来たんだ」
「そう。そうなのね」
「まあ、仕事って言えば仕事だな」
「そう。お仕事、上手く行くと良いわね」
「ああ、もちろん。資料をざっと説明して貰ったが、かなり良いと思う。まあこれでまた、アマノ君には頭が上がらなくなるがな」
「いえ。私の方こそお世話になっておりますので」
「ははは。ワタナベさん」
「はい」
「知ってるかも知れないが、ウチが断ればアマノ君はこの話を他に持って行くつもりなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。おっかないよな?」
そう言って男の方のタカハシさんは大きな声で笑った。
男の方のタカハシさんは今日の仕事は終わりだとの事で、タカハシアイさんと一緒に別荘みたいな建物に泊まるんだって。ヴィラって言ってたかな?
私とオジサンは一緒に食事をしないかと誘われたけど、オジサンは幹事もしなくちゃだからって断って、建物を出た。
「大丈夫だったか?」
「うん」
「歩けるか?抱っこかおんぶ、しようか?」
「もう!すぐ子供扱いする」
「おんぶはそうかも知れないけど、抱っこはお姫様抱っこだぞ?」
「抱っこ!」
「よし」
オジサンに横抱きに持ち上げられて、首元に顔をくっ付けた。
お腹がく~と鳴く。
「お腹空いたか」
「うん」
「あそこで出された物、食べなかったのか」
「うん。食べないし飲まなかった」
「良い判断だ」
そう言ってオジサンは私の脇を優しくポンポンと叩いた。
そう言えば、私の秘密を聞いてなかった。
でも良いか。
なんかタカハシアイさんって思い込み激しそうだから、聞いたら大した事じゃないのかも知れないし、なんか興味もなくなったな。
聞かなくて良いや。