表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある田舎の村のこと  作者: 青柚
7/10

分岐B 2)Badend

 そこで僕は気がついてしまった。

「何で……今日、僕たち家族を村に呼んだんですか?」


 先導する彰伯父さんの背中に問いかける。

 返事はすぐに返ってきた。

「お前らを呼んだのは祖母ちゃんだろ。祖母ちゃんは当主じゃないから贄のことは知らないんだ」

 彰伯父さんは振り向きもしない。本当にそれだけだろうか。まるで用意された答えのように感じた。

 そして、気がつく。

「この話……僕が聞いてしまって良かったんですか?」

 この話は大島家の当主しか知らないはずだ。つまり、この話を聞いてしまった僕は……。

 彰伯父さんが振り返り、青褪めた僕の顔を見てニヤリと笑った。

「身内を贄に繁栄を約束された大島本家が、なんで村に残っていると思う?」

 唐突な質問だった。僕はイメージだけで答える。

「えっと……山の神様との約束だから、山から離れられない? とかですか?」

 曖昧にしてしまったが、彰伯父さんは頷いた。

「そういうことだ。この土地は3つの山にそれぞれ水源があるから水が豊富で農業が盛んだ。林業もやってる。毘沙門山には小さいが鉱山があって黄銅鉱、黒銅鉱、斜開銅鉱、紫水晶や孔雀石も探せばまだ採れる。山菜もキノコもいい収入源だ。猟に出れば兎、猪、鹿が採れる。山の資源も食料も豊富で村の人間は生活に困ったことなどない。昭和の中頃まではそれで良かったんだ。でも今となっては田舎は不便だろ。金を持った分家は皆この村を出ていってしまった。皮肉な話だな」

 あまり考えたことがなかったけど、うちは大島家の分家にあたるのか。父は彰伯父さんと二人兄弟だし、もうこの2つの家族しか大島家は残っていないのだ。

「山の神の力は村の外まで及ばないってことですよね?」

 だから今日、僕たち家族は村に呼び戻された。

 多分、彰伯父さんがお祖母ちゃんを上手く言いくるめて、今日の来訪を画策したのだろう。

 お祖母ちゃんと彰伯父さんと奥さんと加奈子。四分の一よりも、父と母と僕を足して七分の一の方が生き残る確率が高くなるから。

 ショックだったが気持ちはわからなくもない。

「彰伯父さん、さっき武ちゃんが言ってた“ばあば”って、もしかして……」

 あの時、彰伯父さんは“今回は誰だ?”と尋ねた。贄になれる人の中で“ばあば”と呼ばれるだろう人物は一人しかいないだろう。

「……祖母ちゃんだろうな」


 僕と彰伯父さんはトサカ山から無事に下山した。

 お祖母ちゃんの家に着くと人が大勢集まっていた。お祖母ちゃんの遺体が発見されたそうだ。


「本当に…贄に……」


 畑仕事中の事故らしいが、詳細は怖くて聞けなかった。

 頭の中が真っ白になった。だって死んでいたのは僕だったかもしれない。


 山神は本当にいるんだ。


 その事実だけが重くのしかかる。

 僕はその場に立ち尽くしてしまった。

 ガタガタと体が小刻みに震える。

 怖くて動けない。

 3方向を山に囲まれた村で、どちらを向いても山が視界に入る。

 この村に逃げ場はもうないのだ。

 そう思った瞬間、肩を叩かれた。

「ひっ……!!」

 思わず悲鳴を上げてしまった。後ろにいたのは彰伯父さんだった。

「直樹くんはこのまま村を出てくれ。通夜も葬式も出なくていい。皆には上手く言っておくから」

 そう言って、五万円を渡された。反論する間もなく、彰伯父さんの車に押し込まれてしまう。

「大丈夫だ。村から出てしまえば山の神は追ってこれない」

 彰伯父さんはそう言うと、車を発進させてしまった。

「騙し討ちみたいな真似して悪かったな。跡取りの武が死んで、女の加奈子は当主になれない。もう当主を継げるのはお前だけなんだ。俺は全て話してしまった。今となっては山の神との約束を知るお前が本家であり当主だ」

 やっぱりそういうことか。山神との約束は僕に託されてしまった。

「僕が…当主……」

 呟いて、その事実を噛みしめる。実に苦々しい。

「もう村には来るな。当主は贄に選ばれない。それでこの呪いは終わりだ」

 憎々しげに彰伯父さんは言い捨てた。

 ああ、これは“呪い”だったのか……。

 その言葉は奇妙なほどに腑に落ちる。

 

 一通り話をしたところで車は国鉄の駅についた。小さいながらも真新しい駅舎だ。

 ここから30分程で新幹線が停車する駅に着くと教えられた。

「東京まで2時間くらいだ。美味いもんでも食って帰れ」

 言われて、さっき受け取った五万円を思い出した。交通費を考えても多い。

「いや、こんなにかかりませんよ」

 そう言って、一枚抜いて返そうとしたら、手を掴まれて止められた。

「これは厄落としなんだ。何でもいいから好きなもん買って、使い切って楽しんでから家に帰れよ」

 真剣な顔で言われてしまった。

 僕は頷くことしかできず帰路についた。

 彰伯父さんの言いつけどおり、美味いもの食べて好き勝手に買い物しながら家まで帰った。

 思ったより楽しくて、家につく頃には村での出来事は悪い夢だったんじゃないかと思うようになった。

 忘れたわけではない。でも、夢だと思えば耐えられる。


 分家から本家の当主を立てたからって、本当に分家が本家に成り代われるのだろうか。もしかしたら、本家ありきの当主なのではないか。そんな疑問が頭を掠めるが、僕は彰伯父さんを信じることにした。20年後、贄にとられる親族が現れませんように。そう切に願う。


 それから僕が村へ足を運ぶ事は二度となかった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ