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とある田舎の村のこと  作者: 青柚
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分岐B 1)Normalend

  暫く沈黙していたが、彰伯父さんは唐突に言い出した。

「母屋の三面鏡に女がいたんだろう?」

 言われて思い出して、ゾッとした。

 それはこの村に到着して直ぐに起きた恐怖体験だ。

「あの女性のことを知っているんですか?」

 尋ねると、彰伯父さんは語ってくれた。

「あれは3代前に贄になった女だ。婚儀の目前で火事にやられてしまった。幸せだった分、特別に恨みが強いんだろう。出るとは聞いていたが……あの時にはもう祖母ちゃんは死んでたんだろうな」

「……えっ?!」

 予想外の言葉に驚きを隠せない。

「贄が取られて村の穢れが濃くなったから、あの女は人前に出てきたんだろう」

 彰伯父さんはそう説明していたが、僕が驚いたのはその話ではない。

「お祖母ちゃん?! 死んじゃったの???」

 全く想像もしていなかった。これまでの話の流れで、どうしてその結論になるのだろう。

「武が言ってたじゃないか。今回は“ばあば”だって。祖母ちゃんのこと未だに“ばあば”なんて呼ぶのは武だけだ。3歳で死んじまったから……」

 そんなはずがない。武ちゃんが幼児だなんて。

「いえいえ、武ちゃんは僕より少し年上の、多分5つくらい年上の成人男性ですよ! 3歳の子供な訳が無い」

 強く言い切ると、彰伯父さんはくしゃりと顔を歪ませた。

「ああ、そうなのか……。武は加奈子の兄貴なんだ。5つ上で加奈子が生まれる2年くらい前に贄にされてる」

 そう言われて、妙に納得してしまった。武ちゃんは加奈子のお兄さんだったのか。

 いつも心配そうに声をかけてきて。でも加奈子は無視をしていた。

「武ちゃんは優しくて、いつも加奈子を気にかけてて、ヒョロっと背が高くて、イケメンで……」

 言っているうちに泣けてきてしまった。

 彰伯父さんも一緒に泣いていた。

 死んでいるのに、姿は見えないのに。

 武ちゃんは幽霊になっても、家族の側でこの村で育まれて、立派な大人に成長していたのだ。


 僕と彰伯父さんはトサカ山から無事に下山できた。

 お祖母ちゃんの家に着くと人が大勢集まっていた。お祖母ちゃんの遺体が発見されたそうだ。

 畑仕事中の事故だと聞いたが、詳細は教えてもらえなかった。翌日から通夜と葬式が行われ、棺桶は一度も開くことなく荼毘に付された。

 そして、四十九日を待たずに直ちに荷渡山の墓地へ酒と共に納骨された。


 6年ぶりに加奈子に会った。

 髪が長くなって、服装も小綺麗になって、大人の女性になっていた。

 そして、武ちゃんの話をした。“村を出てもいい”という武ちゃんからの伝言を伝えた。加奈子は泣いていた。そして、話してくれた。

 子供の頃、男の子みたいな格好をしていると両親が嬉しそうだったこと。だから必要以上に男の子っぽい格好をして、演技をしていたこと。

 両親が自分と死んだ兄を重ねていると気づいていたこと。思春期に入って男の子になりきれなくなってきて、女の子に戻ったこと。

 そのことで母が目に見えて落胆していること。

「私、もう村から出ていいんだね。お父さんとお母さんに話してみる」

 そう語った後、加奈子は晴れ晴れとした顔をしていた。


 それからは話がトントン拍子に進んだ。加奈子が東京の我が家に居候することになったのだ。加奈子のお母さんは渋っていたが、彰伯父さんが説得してくれた。

 トサカ山で会って以来、武ちゃんは僕の前に姿を現していない。でもいつか、武ちゃんと再会できる日が来る。

 僕はそう信じて家族と共に村を後にした。

 

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