プロローグ
共通のプロローグです。
ある夏の日。
僕、大島直樹は両親に連れられ、父の実家へと向かっていた。
東京から高速道路で2時間。国道を走って1時間。
あとは延々と長閑な田園風景が続いている。
受験や習い事や風邪引いたりで偶々タイミングが合わず、僕が父の里帰りに付き合うのは実に6年ぶりだ。
今年は大学に進学したこともあって、お祝いをしたいとお祖母ちゃんから改めて、遊びに来いと誘われた。
お盆には少し早いけど、夏休みを田舎でのんびり過ごすのも悪くない。
車窓から見る6年ぶりの風景は記憶に残っていないが懐かしさは感じる。
「お祖母ちゃんは元気かね」
何気なく言うと、助手席にいた母がこちらを振り向いた。
「お正月に会った時は元気だったわよ」
素っ気なく言うと、母はポーチを取り出してメイクを直し始めた。その動作で僕は目的地が近いことを悟る。
暫くして、周囲の様子が一転した。
田んぼばかりの開けた視界が狭まり、路肩が迫るような木々に覆われる。
ラジオから流れていた軽快なメロディが突然、ノイズに変わった。
「山の道は相変わらず電波が悪いなぁ」
運転席の父がうんざりした様子でラジオのスイッチを切る。
舗装されているとはいえ、まるで森の中を走っているようだ。
どんどん山深い場所へ進んでいく。僕は少し不安になった。最後にコンビニを見たのは30分も前だ。
この先の村について考える。救急車や消防車でも簡単には辿り着けそうにない。しばらく路線バスやバス停も見かけないから、この辺りにはその手の交通手段もなさそうだ。
山道を抜けると不意に視界か開けた。山に囲まれた袋小路の小さな村。
田園風景が扇形に広がっていた。そこにポツンポツンと平屋が取り残されたように建てられている。多分、合計でも50軒ないだろう。
村の最奥には三角形の美しい山がある。まるでピラミッドのように均整の取れた姿をしていて、あまり標高は高くないが神秘的で否応ない威圧感があった。
村の入り口には木で組んだ物見櫓が建てられている。昔から防災や戦の時に利用されているそうだが、今は展望台と化している。その脇には道祖神とか石碑が3つ並んでいる。
子供の頃を思い出す。祖母の家に行くのはいつもお正月とお盆だった。親類や近所の人が入れ代わり立ち代わり訪れていて賑やかな印象しかなかった。しかし、お盆よりも一月ほど早い現在、村の雰囲気はいつになく寂れて見える。
「お祖母ちゃんの家には今誰がいるの?」
確か、田舎の本家は父の兄である彰伯父さんが継いでいるはずだ。あまり考えたことがなかったけど、彰伯父さん達一家はお祖母ちゃんと同居しているはず。
「祖母ちゃんと兄貴とお嫁さんの春子さんと娘の加奈子ちゃん。お前、加奈子ちゃんとよく遊んだだろ?」
父に言われてみて、埃を被った記憶を掘り起こす。加奈子は確か僕と同い年で、伯父夫婦の一人娘だ。田舎に来る度に一緒に遊んだ覚えがある。
「ああ、いたなぁ。男みたいな女の子」
思い出の彼女はいつも短い髪でズボンを穿いていて、野山を駆けめぐる野生児だ。よく怪我して帰って、彰伯父さんには名前の前に「バ」を付けて叱られていた。バカナコつまり馬鹿な子だ。
しかし、都会育ちの僕は子供の頃そんな彼女を羨望の眼差しで見ていた。カブト虫や鬼ヤンマを捕まえる手腕。朝から夕暮れまで走り回っても平気な体力。どれも自分にないものだったから。
「いやいや、女は変わるぞ」
父が呟いたが、僕はよく分からず聞き流した。
村の山縁に祖母の家はある。木造平屋建てで、いかにも農家という感じの代物だ。
家の前にある空き地に車が止まる。両親が荷下ろしをしている間、僕は一人で正面玄関に向かった。
母屋の裏には山がある。山裾がなだらかな為、それは大きな森のようにも見えた。
木々が僕たちの到着を拒むようにザワザワと揺れる。まだ15時頃だったが、裏山が日陰を作る所為で、母屋は大きな闇夜を背負っているかのように見えた。
建物の古めかしさと相まって、気味悪さが助長されている。僕は気圧されながらも、意を決して玄関に向かい引き戸を開けた。
〈選択肢〉
A
そして、思い切り息を吸い込んで呼びかけた。
「バ加奈子~、いるか?」
B
外よりも一際、薄暗い屋内。
緊張しながら黙って一歩踏み入れる。
C
玄関を開けて直ぐに居間があるのだが、人の気配が全く無い。
無断で家内に入るのは気が引ける。確か、裏手に勝手口があったはずだ。
お手数ですが、手動で各ページへ移動してください。