5話 ギルド長からの伝言
さて、本部ギルドにてあられもない姿になってしまった私は、慌てて男性ものの服を借り、更衣室で着替えて戻ってきた。
「本当に男性の方だったんですね~」
「くっ、リーシアさんに変なところ、見られた」
今、私の天恵スキルが全て無効化されているわけで、こうやって普通に喋れる訳だ。
久しぶりだな、こんなにもスムーズに話せるのは。ただ、ちょっとたどたどしくなっちゃうのはしょうがない。無意識に、逆の言葉にするようにしちゃってるからな。
「それでは、連盟局長はこちらです」
そう言われ、再度私達は男性の後ろから着いていく。そうそう、さっき気付いていた事だけれど、沢山の人に溢れているが、人獣や獣人は見当たらない。それは、天恵スキルが無効化されていたから、この中ではそういう種類の人達は差別されているんだ。
今の私は人間になっているので、とりあえず差別的な視線はないけれど、何と言うか感覚はどうなっているのか謎だよ。一歩この建物から出たら差別はないけれど、この中ではあるって事だから……感覚のズレに違和感出ないのかな?
そんな事を考えながら着いていっていたら、男性がある扉の前で立ち止まりました。
「失礼します。ラギラジェン連盟局長、ヘルウォード家のご子……ご令嬢をお連れしました」
「いや、今はご子息で良いでしょう? わざと? わざとですか?」
「すいません。混乱してしまいまして。ご子息です」
とりあえず訂正させてから扉を開けて貰った。全くもう……そりゃこっちも混乱してるけど。
「失礼します」
中に入ると、大きな円形のテーブルの先で、1人の男性が座っていた。
ほうれい線が入り、少し老け気味の顔付きをしているけれど、眼力は凄いある。ギッと睨みつけられると、だいたいの人は萎縮してしまいそうだ。
オールバックに長い後ろ髪を束ね、書類に目を落としながらも、手では何かの魔法を発動させ、どこかに連絡をしている。同時作業とは、なんて人だ……。
「ふぅ。あぁ、良く来てくれた。座ってくれ」
「はい」
そう言われ、私とリーシアさんは隣り合って座る。
「そちらのエルフの方は……」
「あ、申し遅れました。私はエルローブ=リーシア。エルフの国の、25番目の王女です」
「おぉ、そんな方が何故?」
「い、色々とありまして。今は、お友達のミレア……あ、えっと、男性の時のお名前は?」
「あ、そっか。ミックだよ」
「お友達のミックさんと、街の観光に」
神獣のワンちゃんの事は飛ばしたけれど、あの事を言うとややこしくなりそうだな。それと、多分報告はきているはず。この街の近くだったからね。
「そうか。分かりました。さて、ミックさん。単刀直入に伺います。ギルド長からの伝言ですので、こっちも良く分からないのですが、世界改変の力を持つあなたが、一番怪しいという事なのです」
おや、何か悪いことの原因が私にあるって思われているのか。それもう1つしかないよ。
「『空の亀裂』はあなたの仕業か?」
ギルド長も見えている。と言うことは、ギルド長も転生者? 違うのなら、別の要因で見える見えないが分かれているのかもしれない。
だけど、とりあえずここは素直に答えておかないと。信用されるかは分からないけど。
「空の亀裂は私ではないです。私は、先ほどお連れしたルヴォイルという男性から言われ、初めて確認したのです」
「嘘は……いや、こちらでは何の事か分からないんだ。そっちの答えをそのまま送るだけだ。ただ、もし違うというなら、こう言えとも言われている」
それもまたしても嫌な予感だ。余計な事ばかり増やしてくれるよ、ルヴォイル君は。君が現れなければ、私は今でもあの屋敷でのんびりと過ごしていたというのに。
いや、そりゃぁ日光は浴びていたので、あの屋敷の庭を散歩くらいはしていたよ。ただ、空の亀裂は丁度屋敷の前で、庭は裏手になっていたから、ハッキリとは見えない位置だったんだ。
私へのお客なんて居なかったら、あのホールにもあんまりいかなかったし、他の窓は毎回誰かしらのメイドさんが拭き掃除していたからね、覗けなかったよ。
「空の亀裂を調査しろ」
「断るという選択肢は……」
何て言った瞬間、連盟局長がこちらをギロッと睨んだ。
「その場合、取っ捕まえて取り調べして、家の奴等にも聞き取りをしないといけなくなるが」
両親に多大な迷惑をかけることになる。ただでさえ、私の両親は私の事で心労が耐えないというのに。
今頃はきっと、屋敷でのびのびと過ごしている事だろう。しばらくはそうやって羽を伸ばして欲しいから、そんな事されたくはない。
「分かりました。出来る限りの事はします」
「快諾してくれて良かったよ。と言っても、良く分からない事だから、ギルド長が出張から戻ってから、それまでの事を報告して欲しい。ちなみに、戻れるのは一週間だ。それまでの滞在先はこちらで用意する」
一週間……か。それで何が分かるかなんだよな。それでもやるしかないか。分かっているのは、転生者しか見えていないって事かな。難しいな、もう。
とりあえず話が終わり、私達は部屋から出て、また入り口へと戻ってきた。
「何だか、大変そうですね。空の亀裂っていったい?」
「ん~多分、限定的な人にしか確認出来ていなくて、今のところ世界に影響はないんだけど……」
パックリと割れているような亀裂は、見ていて気持ちいいものじゃない。戻せるなら戻した方がいい気がするよ。
ということで、先ずは他に見えている人がいないかどうかだな。
「さて、とにかく調べられることはとっととやっちゃおうか」
そう言って足早に私がギルド本部から出ると、リーシアさんが後ろから叫んできた。
「ミッ……じゃない、ミレアさん! 今出たら危ないですよ! 服!!」
「へっ? ぬわぁっ!?!?」
本部から出るとあら不思議。私は途端に、こぢんまりとしたサラサラ狐色のセミロングヘヤーをした、美少女狐娘へと戻ってしまったからだ。当然、服は男性のだからダボダボ。色々と見えそうで危ない。
「リーシアさん、ちょっと壁にならないで!!」
はい、天恵スキルが戻っているのも、慌てていたから抜けていました。逆だ、こら。
「ち、近付けないです~というか、ジッとしている事も出来ないですよ~ミレアさん!!」
ヤッバイ。色んな言葉の意味で捉えて発動するのが、このあべこべのスキルだから、私が見えないように壁になってくれるどころか、壁のように突っ立てる事も出来なくなりました。
憐れリーシアさん。右往左往するヘンテコエルフになっちゃいました。そうじゃなくて、私も色々とセンシティブになりそうなんだよ!
「リーシアさん。こっちに来て私の前に立って!!」
「わわわわ!!」
もう、別の方法で壁になって貰うしかなかった。あべこべスキルを意識していれば、とりあえず何とかなるけれど、迂闊だったよ。
何とかリーシアさんに壁になって貰い、凄い速度で着替えを終えた私は、あべこべのスキルを打ち消す言葉を言い、何とかリーシアさんを元に戻した。
「もう~本部ギルドに行く時は、要注意ですよ」
『き、肝に命じておきます』
今のでだいたい分かったからね。あんな事があったからさ、そりゃもう次は忘れないよ。
民衆の目の前で、リーシアさんに壁になって貰ったとは言え、お着替えする羽目になっちゃったから。
『とりあえず、気を引き締め直して情報収集だ!』
「はいはい」
気持ちを切り替えて、早速情報収集をすることにしたけれど、ちょっと待って。リーシアさん、普通に手伝おうとしているんだけど。もう観光どころじゃなくなったし、何ならこれは多分、転生者の問題になりそうだし、リーシアさんには関係ないんだけれど「友達でしょ」って言われそう。
久しくその感覚を失っていたから、何というか、どう接したらいいのか分からないんだ。ただ、好意は受け取っておかないといけない。
ただ危険そうなら、直ぐに言わないと。