4話 本部ギルドの聖域
何とか神獣様のお願いを達成し、道を通して貰う事が出来た私達は、ギルド本部のある街に到着した。
流石はギルドの本部があるだけあって、かなり大きな街だし、色んな人達が街を歩いて賑わっている。
珍しい物を売っている店もあるし、武器や防具を作っているのか、鉄を打つ音も遠くから聞こえてくる。
「うわぁ……こんなにも賑わっているなんて、凄いですね~」
そして、リーシアさんは感動にうちひしがれていた。こういう街は初めてなのかな? とりあえず、ギルド本部へ行って、早くこいつを連れて行かないと。
「それじゃあ、俺はこれで! また縁があればーー」
『あ、すいません。ギルド本部はどこでしょう?』
「あばばばば……!!」
逃げようたってそうはいかない。縄で捕獲して、そのまま引きずって本部のある場所を人に聞いてみた。
「本部か? あぁ、それならあそこの十聖教会の横だ」
『ありがとうございます』
その後に、例の教会とやらを見てみると、とんでもない規模の大きくて豪華な教会の姿が見えた。
アレだな、サグ○ダ・ファミ○アに負けず劣らずな外観の荘厳さだよ。スッゴいね。となると、こっちの世界の歴史も深そうだな。って、そう言えば家庭教師とかでこの世界の歴史も教えられてたな。
十聖教会はなんだっけ。10人の聖騎士達の、魔王討伐を記念して建てられたのだっけ?
相当激しい戦いだったようで、10人の聖騎士達は、魔王討伐の代価として命を失っている。その魂を称え、10人をあそこに埋葬したのが始まりだとか。
そんな教会の横にあるんだから、本部ギルドも荘厳なんだろうな。
そう思いながら歩いて行き、ようやく本部ギルドに到着した。ちなみにリーシアさんは終始「ふわぁ、ふわぁぁぁぁ!」としか言っていなかったです。その内浮くよ?
そして本部ギルドの方も、こっちの世界の教会と同じような外観且つ、横幅が広く、入り口の門がとても立派な建物だった。
その門の所には、当然武装した男性が数人立っている。門番とか、聖騎士辺りかな? こっちは悪いことをした訳ではないので、とりあえず訪問の事情を話さないとね。
「ん? どうしました? この冒険者ギルドに用でしょうか?」
私が近付いてくるのが分かったら、その内の1人が話しかけてくれました。そりゃ当然の反応だろうけれど、こういう所って荒々しいイメージもあるから、こう丁寧に対応されるとちょっと緊張しちゃう。
『あ、すいません。実はーー』
ということで、私はここまでの事をその人達に話した。
「おぉ、そうでしたか。当方登録の冒険者が、とんだ過ちを……然るべき処分を致します。お前、来い!」
「うっ、ぐぅ……あぁ、くそ。当然こいつらには、天恵スキルなんか効かねぇ……」
『はい、さようなら~』
哀れ、ルヴォイル君は屈強な男性達に連れていかれました、と。自業自得なので、同情の余地はないですや。しっかりと罰せられて下さい。
ズリズリと縄に繋がれ引きずられて行ったルヴォイルを見ながら、私はこの後どうしようかと思案する。
このままこの街を観光するのはアリだな。ところで……。
「お腹すきましたね。ミレアさん。何か食べましょう!」
このエルフさんはいつまで着いて来る気でしょうか?
『あの、リーシアさん。いつまで着いてくるのでしょうか?』
「え? 私達、友達じゃ……」
スッゴいショックな顔をされました。いや、友達なのは良いけれど、いつまでもずっともおかしいでしょ。そっちにも帰る家はあるんだろうし。
『あぁ、いや。そっちも帰る家はあるだろうから、帰らなくても大丈夫なのかな? って』
「あ、それならご安心を。100年くらいでしたら、ブラブラ出ていっても大丈夫なので~」
長命エルフさんだから、心配するレベルの年数が違ったよ。そうですか。
『いや、でも。ずっと着いてこなくてもでしょ? 遊ぶくらいなら、いつでも出来るでしょ?』
「あ~それもそうですね。それじゃあ、この街の観光くらいまではご一緒しても?」
『ん、分かった。それくらいなら』
そう返事を書いたら、リーシアさんはとても嬉しそうな表情を浮かべました。友達、居ないのかな? と聞くのも悪い気がするので、ソッとしておきます。
そう話していると、さっきルヴォイル君を連れていった男性が戻ってきて、私達の方に急いでやって来ました。
「あぁ、君達まだ居てくれたか。実は、本部ギルドの支部連盟局長の方が、君達に直接謝罪したいと言ってきたんだ。いや、普段はこんな事ないんだが、君の名を聞いた瞬間に、そう言ってこられたのだ」
そう言いながら、私の方を指してきた。
私の名前、というよりは、多分爵位を持つ家の者だから、形だけでもそうやっておかないと、あとから何か追加で小言を言われるとたまったものじゃないだろう。だから、今の内にって所かな。と言っても、私の家はそこまで位の高い家でもないんだけどなぁ。王家とも繋がりないし。
とりあえず、そういう事なら受けないといけないね。
『分かりました』
そう書いて伝えると、男性が「こちらです」と私達を案内してきた。
「それにしても、あなたのソレは、スキルのせいですか?」
門を潜り、本部ギルドの中に入った辺りで、その男性がそう言ってきた。皆絶対に聞くんだよね。仕方ないけど。
『はい。天恵スキルの「あべこべ」と「トゥルー・ワード」のせいで、迂闊に喋れないのです』
「あぁ、君が。なるほど、それだからか」
なんだろう。何か納得されたぞ。
それにしても、本部ギルドの中も思った以上に広いな。入って直ぐの受付の広さ。職員の数も、支部のそれとは物凄く違う。数十人程がズラッと並び、それぞれ冒険者達に向かって窓口対応のように話している。
吹き抜けになっているその入り口ホールは、階段が左右に設置されていて、上と下にも行けるようになっている。地下もあるのか、このギルド。
賑わいも凄いし、何か屈強な戦士のような人から、武闘家のようないで立ちの人、知的な魔道士のような雰囲気の人、厳かな僧侶のような雰囲気の人まで色々だ。
ただ、私みたいな人獣や獣人が居ないんだけど、どういう事かな? 私のスキルで、差別は消えたはずなんだけど……それと、ヒソヒソ声が。明らかに私に向けてだ。
「あ、失礼。この中では、天恵スキルが無効化される、本部ギルド長の『聖域』が発動中です。あなたのスキルによる世界改変も、この中では弾かれています」
『え? ということは』
そう書いたあと、試しに普通に言葉を発してみた。
「普通に喋れるってこと? うわ、普通に喋れる!!」
「……え? ミレア……さん?」
あと、何故かリーシアさんがドン引きしたような声を出したのと、自分の声が男性のそれだったので、もしやと思い自分の身体を確認すると……。
「オー、ジーザス」
女子の服のサイズだったので、パッツンパッツンの服を着た男性が立っていましたとさ。うん、私だけど。何て事をしてくれたんだ、こんにゃろう。
「失礼。くくっ、ま、まさか……性別までとは」
「笑ってる? ねぇ、笑ってるの? 先に説明して欲しかったです」
「いや、失礼。実はこの『聖域』代々受け継がれてきた、この土地でしか効果を発する事が出来ないものでして、あまり遠方の方までは知られていないのです。ですから、まぁ……たまにやらかす人がいます。しかし、あなたのような人は初めてですよ。それが楽しくて、私達も黙っているんですが」
くっそ……割りと性格悪いな、ここの人達。周りの人達がヒソヒソ話をしていたのはそういうことか。徐々に身体がそうなっていたから、気付くのが遅れてしまった。パッツンパッツンで歩きにくいと思った辺りで、ようやくだよ……全く。
「とりあえず、先に服を……」
「分かりました。こちらです」
久しぶりの男性の身体なんだが、この本部ギルド内限定なんだよな。その「聖域」というスキル、何とかして私自身にかける事は出来ないのかな?
出来なくても、この聖域に近い効果を持つような、そういうスキルもありそうだ。
元に身体に戻る方法、案外見つかりそうかもしれない。完全に諦めていたけれど、探してみても良いかも。