1話 エルフがやって来た(ワンちゃん付)
あれから飛行船に乗って、ギルド本部の大陸まで来た私達は、また街道をのんびりと歩いている。
「おい、ちょっと待ておい……」
後ろから着いてくるルヴォイルって男性は、胸に手を当てたまま歩いている。私がやったんだけれど、自分の言った事に反省の色が無さそうなのでーー
「いや、というかなんか、お前また1~2章分のイベントすっ飛ばしたろうが!!」
良くキャンキャン吠えるね。犬みたい。と思ったけれど、仕方ないかな。
実は、飛行船でこの大陸に行こうとした所、その間で二国間の戦争による、空中戦闘が繰り広げられているということで、飛行船が飛ばせない状態になっていたんだ。
魔王とか魔族はいないけれど、そういう問題はあったね。しかも、私がそのスキルで戦争を無かったことにしても、別の国同士で戦争が起こる。
いっそ、争うという事を消してやろうかとも思ったけれど、それをしてしまうと文明も何もかも停滞してしまい、ただ「生きる」というだけの生命体になってしまいかねない。
夢も目標も、人の生き甲斐というものも、他者が居ることで初めて成立する。
他者と争う事でこそ、達成する事が出来きて、達成感も段違いになってくる。だから人は争うんだ。
そうなると、一番厄介なのは人間って事になるんだよね。
それでも「私達がここを通る間、戦争を一時中断して下さい」と言えば、その空域での戦闘行為はピタッと止みました。その間に飛行船を飛ばして貰い、大陸を1つ越えた先の、更に広い大陸へとやって来たということでーー
「申し訳ございませんでした~!!」
その直後に、街道を歩いていると、兵隊みたいな人達に囲まれたのだけれど、私のスキルで現在土下座をさせています。
「敵国の者かと思って、つい武器を……!!」
仕方ないか。飛行船は飛ばせない状態なのにやって来たから、普通は一般人とは思わず、敵の兵隊かと思うよね。直ぐに事情は説明したけどさ。
「ギルド本部に用事なのですね」
『はい。犯罪者を連行してまして』
「待て待て。誰が犯罪者だ、こら」
『犯罪者でしょうが』
私を拐おうとしたり、他人の屋敷内で暴れようとしたりさ、犯罪者のそれなんだよ。
「くっそ……相手の事をもうちょい調べるべきだったのか」
『調べてないの? それなのに感情で行動するとか、単純バカですね』
「そういうお前はうっかりバカだろ」
ほほぉ、そういうことを私に言うんですね。一丁前にね。
「あ~あ~なんか、発声したいなぁ~」
「おぉわあ!! 止めろ止めろ、分かった悪かった!!」
声を出すだけで威嚇になるなんてね。こういう使い方もあるのか。
とりあえず、さっきの兵隊さん達は納得してくれたので、本部ギルドのある街まで、また歩いて行きますか。
歩いてーー
『あのさ、馬車とかなにか無いの?』
「今頃気付くんかい。ねぇよ。賊とか多いから、普通に危険なんだよ」
そういうのは無いんだ。あれ? それじゃあ、他の街へ荷物を届けたり、商人達が街から街へ行くには、どうしているの? 重たい荷物を持って歩いてるの?
「簡単魔法便が出来てから、そういう荷物の移動に関しては楽になったらしい。逆に、賊は冒険者を狙うしか無くなったから、屈強になってるとかなんとか……」
魔法様々でした。あぁ、そっか。そういうシステム的なのは開発されて当然だよね。
「知らなかったのかよ。全く……」
『箱入り娘でしたので』
「男だろうが。というかお前、声普通に出せるの凄くないか? 人って喋らずにいると、声が出にくくなって、最終的には出せなくなるらしいが」
『さっき見せたでしょう? 時々発声練習したり、発音練習として、影響の無い程度の事を声に出してるの』
「あぁ、なるほど」
何て事を話ながら歩いていると、前から誰かが走ってきている。な~んか、嫌な予感がするなぁ。お約束展開というか、そんな事が起こりそう。
「だ、誰か……!! あ、そ、そそこの冒険者様~助けて下さい~!!」
後ろからデッカイ狼に終われている、巨乳美女エルフさんが現れました。これぞエルフっていう、草をイメージした露出の多い服装に、ゆるふわ系の髪、バルンバルンと揺れる巨乳に、童顔……と、コンプリートしないでほしいな。
「ロリ巨乳エルフさんキタァァァァ!!!!」
『興奮しないでよ、単純バカ』
問題は、その後ろから迫っている、巨大狼だよ。何だあれは?
『魔族? 魔獣? そういうのはもうーー』
「野生動物を統べる神獣だと!? 何でこんな所に?!」
あ~野生動物か。なるほど、それは確かに私のスキルの影響は受けないね。私が消したのは、魔族から作り出されたモンスターだ。自然に元からいるものは、その対象にはなっていなかったからね。
どっちにしても、それも人を襲うなら、消した方がいいのかな?
「待ってくれ!! どうか、どうか俺のーー」
あ、喋るんだ。理性があるなら、まぁ話し合いで何とかーー
「俺の嫁になってくれぇ!!」
とんでもない事を言ってきましたよ。このワンちゃん。というか、狼なのにエルフを嫁にしようとするから、どういうこと? あぁ、いや、面倒くさいというか、関係ないだろうから、関わらないでもいいか。
「聞き捨てならないな。嫁? その子はこの後俺が助けて、俺に惚れさせるんだ!!」
欲望増し増しで、理性フィルターも通さずに叫ぶな、こら。もういい。地図を広げて、本部ギルドの街をもう一回確認しないと。携帯とかスマホがないから、割りと不便だ。一本道ならまだしも、分岐した道がそこそこあるからね、間違えないようにしないと。
ちなみに、その分岐している道の左手から、例のエルフとワンちゃんが走って来ているんだけどね。
『えっと、本部ギルドは……』
「ってお前、冷静に無視かよ!」
『いや、関係ないでしょ?』
「無くても困っている人は助けないと!!」
『急に正義感ぶって……あの子にいい顔見せたいの?』
「うっぐ……ここまで非道だとは!」
『そう言われてもなぁ……』
何て言っている間に、目の前まで来ちゃったよ。そのエルフとワンコさんが。
「はぁ、はぁ、はぁ……お、お願いします……神獣様が……」
「落ち着いて。分かった。俺が何とかしてやる」
ルヴォイルの前に来たエルフは、息を切らしながら彼に助けを求め、すがっているんだけれど、その男邪な思いしかないよ。鼻の下伸ばしてるしさ。
「やれやれ。神獣だか何だか知らないが、俺のスキルでお座りさせてやる。まず『座れ』」
「ん? 何だ? 天恵スキルか? お前知らんのか? そんなもの、神の遣いとされている俺達には、一切効かんぞ」
「あ、しまった。そうだった」
『え?』
「だから、お前が『伏せろ』」
「ほんぎゃぁぁああ!!!!」
うっわ、右前足だけで頭を押さえつけられて、伏せさせられたよ。いや、物理じゃないか。
もう……あなたのせいで目を付けられちゃったじゃないか。
「ふむ。何だ、お前は来ないのか?」
『いや、あの。どうもバカがすいません。突っかかる必要ないのに、勝手に攻撃しようとしちゃって。あなたは、そんな悪い獣じゃないのでしょう? さっき、そのエルフさんの事を嫁にってさ』
「はは。そうだ。俺はな、その子に一目惚れをした。お前達には関係ない事だ。下がっていろ」
『うん、そうしたいけれど。こっちにすがっちゃったからなぁ。一応、種族が違う事は分かっていますよね?』
本当は関わりたくないけれど、エルフの女性が絶望的な顔になって「もう終わった」みたいな事を思ってそうだもん。それを放っておくのも後味悪いんだよ。
「分かっているさ。だが、愛に種族は関係ない」
うっわ。恋は盲目な典型的な例じゃないか。冷静に考えれば、絶対に無理だというのに。いや、待てよ。こう見えて、人っぽい姿に変身したりも出来るのか? それなら問題ないけれど、相手が嫌がっているんだよね。
参ったなぁ。こういうの、前世でも経験ないから、いくら私でも難しいんだけど。