5話 勇者は何とかなりました
「は、はへへ……ち、痴女どもかと思った……。あぁ、そうか。アレから助けてくれたのか。余計な事を……」
例のスラム跡から離れ、物置き小屋を見つけた私達は、一旦そこに入り、この助けた男性に事情を話す。
勇者の末裔である証拠として、その血筋にしか現れない紋章も付いているし、間違いないんだけれど……なんというかその、あれですね。
「どうせこんな……こんな無能な奴助けたって、1ゼニーの得にもならないのによ」
あぁ、ゼニーはこの世界の通貨ですね。どうでもいいか。
この人、すっごく暗いなぁ。もう……。
「だから、何か隅の方で淀んで溜まっていたスライムを、ちょこっと改良して、俺を殺してくれないかなぁ……なんて思ってよ。何であんなでっかくなっちまったのか。この街もよぉ……ここなら死に場所として悪かねぇと思ったら、ドンドン淀んで汚染していくよぉ。なんなんだよ、ったく……」
男性には、一応腰に布を巻きつけていて、イチモツのご開帳は避けているけれど、身体付きもヒョロっとしているから、上も何か羽織らせた方がいいかも。
そして、リーシアさんとエデン君は距離を取ってました。
私に全部押し付けないで。
「そいつあれだな。病んでるな」
「え? 雨は降ってないですが?」
「いや、そっちじゃねぇよ。つ〜か、お前も避けてるだろう」
「あぁ、いやあの、私はその……ちょっとその方の闇が強すぎて、引っ張られちゃいそうなのです」
そっちで漫才しないで下さい。リーシアさんも何だかんだで暗い時あるけれど、確かにこの男性の暗さは別格だよ。
「んで、何の用なんだよお前等。いや、用じゃねぇか。この世界じゃ俺以上に弱い奴いねぇからな。はけ口にでもする気で取っ捕まえに来たか」
「…………」
もう、なんというか。めんどうくさいや、この人。
とりあえず、事情だけでも説明しないと、この死にたがりさんが勇者の末裔なんて、思いたくもないんだけれど、事実そうだっていうのに変わりはないんだ。
だから、私は端的にその事を書いて伝え、この世界の崩壊を防ぐために協力をして欲しい。と言った所で気が付いた。言ってはいけない事を言ってしまった事を。
「あ〜? 崩壊するの? この世界。あぁ、それじゃあ良いじゃねぇかよ。なぁ〜んだ、わざわざ自分から死ぬ必要なかったわ」
「…………」
「何か言ったらどうだ? ミレア」
こういうのは時間がかかるよ。というか、そもそもこの街もこの人のせいでこうなったのなら、この状態で連れ回すのは不可能だよ。
『まず、この人が何でこうなったのかって所だよ。ちょっとでもマシにしないと、行く先々で街を汚染させていたら、どっちが魔王か分かんなくなるよ』
「あぁ、そりゃあ人の性ってやつだろ? 分かんないのか?」
そうエデン君に言われて、私はまた無言になってしまった。
そう言われるとね、この人がこうなってしまったのは、間接的にでも私のせいって事にもなるんだ。こんな世界にしてしまったからね。
勇者が必要じゃなくなり、その家柄や勇者と協力をしていた家柄とかも、人々から必要されなくなった。そして彼等に、冒険して魔物を倒す以外に、出来ることってあるのだろうか?
中には他にも出来る事があって、何とか生活を続けている所もあるだろうね。
だけど、勇者の末裔に至っては、程度にもよるけれど、チヤホヤされて何もしない可能性だってある。現に目の前の男性も、恐らく魔物退治や魔王討伐が出来る能力はあっても、それ以外が何も無かったら?
そういう人を、そういう家族を、温かく見守り向かえる街って、そう多くはない。
『エデン君、時間とかそういう問題じゃないけれど、これは私がやらかした事なんだから、目を瞑ってて欲しいな』
「…………しゃ〜ねぇな」
あべこべになってしまった、この勇者の末裔である男性だけでも、救って元の道に戻さないと、明日から寝覚めが悪くなる。
「君はこれから、新たな魔王討伐の為に心機一転して、鍛えて強くなる。そして旅に出るんだ」
「へ? あっ……」
眩い光が彼を包み、そしてその目には力強さと信念が宿った。
◇ ◇ ◇
「ハッハッハッハッ!! な〜んか生まれ変わった気分だ〜頭のモヤモヤも重りも取れた〜!! よ〜し、まずはこのヒョロヒョロの情けない体を鍛えて鍛えて、立派な勇者の身体に仕上げてやるぞ!! あぁ! 君達ありがとう!! 私の導き手、女神よ! このロイ=グラウディアが、新たな勇者となって新たな魔王を倒すと誓う!!」
ヒョロヒョロの痩せた男性なのは変わらないのに、表情だけでも爽やかスマイル100%になると、こうも変わるのかってくらい変わった。というか、ちょっとやり過ぎたかも。
「よし!! 先ずは逆立ち歩きで、この先100キロの村までーーへぶらっ!?」
やかましくなった勇者の末裔である男性ロイさんは、ヒョイと足を上げて逆立ちしたけれど、まぁそのまま崩れ落ちるよね。危ないなぁ、もう。
『あのね。筋肉はそう簡単には出来ないし、ちょっとずつ筋トレしていかないとね』
「うむむ! いや、出来る! 出来るぞ! やる前から諦めてどうする! やれるぞ、私! やるぞ、私! 皆もだ!!」
「ちょっと静かにして下さい」
「……!! ……!!」
あのさ、某元プロテニス選手みたいな、そんな熱血いらないから……全くもう。
「何で急に、そんな暑苦しく……」
流石のリーシアさんも引いてるよ。
「だから、勇者の末裔だからだろ? そういう光宿してんだ。あとまぁ、親父がアイツの事好きだからな。俺はあんまり好きじゃねぇが」
あぁ、だから勇者がそうなったのか。
補足的に言うと、この世界の古ぼけた絵画とかには、勇者の姿が描かれているものもあるけれど、全員歯並び良くて真っ白でピカーンとしてて、後ろに燃え盛る炎が描かれているんだ。
もう、ご本人様かと思っちゃった。それに、SNSでもそういう漫画を見た事があって「あれ、コレってその漫画の世界線?」って一瞬思っちゃったよ。
「とりあえず、これで勇者の件は解決か? 後は、魔王たるあいつの成長だな」
「そうなりますね〜」
『それじゃあ、一旦戻りましょうか。あ、その前に』
「もう静かにしなくていいですよ」
「ワ〜ハッハッハッハッ!! よし、レッツトレーニング!!」
やっぱりもうちょっと静かにしてもらおうかな。耳がキーンてしたよ。思わず耳を伏せてしまった。
「ま、まぁ……この調子なら、放っといても何とかなるでしょう」
『そうですね。あとはルリアちゃんのレベル上げというか、魔王として強くなってもらう感じだね。さて、エデン君。間に合いそう?』
「あ〜どうだろうな。父さんが気付くか、母さんが気付くか。どっちかによって変わってくる。母さんなら、しばらく大丈夫だけど、父さんが先に気付けば問答無用で何かしてくるだろうな」
その辺りは運次第ですか。全く……それならそれで、やれる事をやっておきましょうか。
『エデン君。魔王の成長として、あとは何が必要?』
「ん〜モンスターを従えて、縄張り広げて。となると、八聖神の方も何とかしないとだな。一部、お前を処理しようと暴れさせているからな」
そういえば忘れていました。というか、それしたのはエデン君でしょ。それなら、今何とかしてもらえば良かったね。
『その命令出したの、君なんでしょ? 今何とかすれば……』
「上からなら出来たけれど、落ちてしまったら対面しないといけないんだよ」
「簡単だなぁ、もう……あっ」
「本当、最近気が緩んでるな、お前。めちゃくちゃに変えるなよ、全く……」
ずっと家だと、家族に迷惑かけないようにってかなり意識していたからね。かなり疲れていたのかもしれないよ。何年も何年もね。こうやって羽を伸ばしていると、気も緩むよ……。
「ミレアさんの場合は、尻尾ふってますけどね〜」
「…………」
それで、最近というか、もうだいぶ経つのだけれど、自分が男性だった事を忘れていっている気がするんだ。
元に戻りたいのに、女性に染まっていく自分がいる。
「あぁぁぁ……」
「もう完全に女子になって、俺の嫁にでも」
「なーー!! あっぶない!」
危うく「なるか!」って叫ぶところだったよ。反転してエデン君のお嫁さんになるところだった。油断も隙もない!




