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4話 煩悩退散

 腐敗したようなスラム街から、ドロドロしたゲル状の何かが私達に襲いかかってくる。


 スライム? それすら可愛いレベルで、触れた瞬間にゲームオーバーになりそうだよ。

 そんな奴なのに、さっきエデン君の言葉に傷ついてキレた。と言うことは、コレには意思がある。問題なのが、それがこのゲル状そのものなのか、遠くから操っている誰かがいるのか。って事なんだけど……。


『襲われながら調べるのは無理がありますよ』


 そして、そもそもの問題がーー


「ひぃひぃ、えとえと。こういうモンスターに効く魔法は〜あわわわわ!」


「落ち着けって、火とか氷とかそういう……あっぶな!! おい、リーシア! その前に俺の守りを何とかしろ!」


「えっとえっと……!」


 パーティ編成の失敗!!


 近接とかそういうレベルじゃないけれど、ちゃんと戦闘出来る人がいませんでした!


『なんですか、このポンコツパーティは!!』


「それを言ったらお終いだね〜はっはっはっ」


『エデン君は笑ってないで、何か解決策の案出してよ!』


「あるじゃないか。世界そのものはちょっとアレだけれど、他者に対してならある程度は目潰れるぜ」


『え? あ、そっか!!』


 そもそも私は軟禁状態だったので、その発想は無かったです。上手くいくかも分からないけれど、やってみないと。


「リーシアさんは、冷静に魔法で対処する! そして、あいつよりも強いです!」


「あ、あれ? 私……」


 私がそう言うと、リーシアさんは左右に泳いでいた目をスッと落ち着かせて、そのまま手を前にかざして空中に空気で作り出した杖を作り出した。


 え、そんな事出来るの……?


「汚染したものを弾き、引き裂け! エアルドルマ!!」


 すると今度は、空気で出来た杖の先に風が一斉に集まり、大きな塊になると、そこから大きな風の刃を次々と発生させ、迫って来ていたゲル状のやつを切り裂いていく。


「合成。燃ゆる業火よ、風を取り込み更に猛ろ!! フレイムエア!!」


「え……えぇ……」


 な〜んか、リーシアさんがあっという間に別人に。空気の杖の先が燃えだしたと思ったら、今度はそこから大きな炎の塊が発生して、風の塊を飲み込んで更に大きくなっていって、切り裂いたゲル状のやつに突っ込んでいきました。

 当然、相手はそのままジュッっと蒸発する様に消えてしまいました。


「……こいつ、確か。エルフの王族の血を引いているじゃないのか? そういう設定、父さんが作ってたな」


『そういえばそうでした……』


 普段のぽや〜っとした感じと、戦闘でアワアワしているのを見てて、完全にリーシアさんがエルフの王族だったのを忘れていましたね。


 とんでもない魔力量と、その魔法の威力に圧巻されてしまいましたよ。


「え? あ、あれ?!」


 そしてしばらくして、リーシアさんは普段通りの雰囲気に戻りました。

 やっぱり、こういう精神的なものに作用させるのは、場面が変わると途端に効果を無くしてしまうね。


 冷静に対処出来た後は戻っちゃうんだ。ずっと私のスキルを影響させようとすると、その人の人生とか価値観まで変えてしまうし、流石にそれは色々と誤魔化せなくなる。周りも何もかも、その影響を受けてしまうからね。世界を変えといてなんですが……。


「人を操る。そこまでは流石に考えているね」


『そりゃぁ。その人の人生や運命、そういうものを私が勝手に作ったり変えたりは、良くないからね』


「…………」


 なんですか、今の間は。

 あなた達は神々みたいなものだから、命を生み出しているのでしょう? それこそ、人生や運命を作り出している。それに違和感というか、変な考えなんかしていたら、それこそ変人扱いされるのじゃないの?


『あなたは、あなたがやるべき事をやったら?』


 それを、私が偉そうに伝えるのも違うから、ちょっと遠回しで書いた。


「ん……うん。そうだね。よし、勇者の末裔とか言う奴をーー」


『あ、それなんだけど』


「もしも〜し。ごめんなさい〜やりすぎました? あの、やりすぎちゃいましたか?」


 リーシアさんが、さっき倒したゲル状のやつの中から、裸の男性が現れて、そのまま床に倒れたのですよ。彼女が近くにあった木の枝でツンツンしてますけど、肩の辺りに指導役の人から昔聞いた、勇者の血筋に現れるという紋章を見つけたんだよ。


 つまり、今素っ裸で倒れているその男性こそがーー


「あの紋章……嘘だろう。あいつが、勇者の末裔? え、それじゃあ何であんなゲル状のやつの中に?」


『それは本人に聞かないと』


 何かに巻き込まれそうではあるけれど、最早そういうのを避けたりしている場合じゃないのは、私も分かる。


『このスラム街はちょっと入りたくないから、近くの村まで運びましょうか』


「誰が?」


 その瞬間、エデン君が男子の容姿をしている事に気付き、戦闘もだけれど、成人男性を担がせるのは、体力的にも無理そうだ。

 もちろん、神がかった能力でも使ってくれたら別だけれど、そういうのを見せた事がないから、この世界では出来ないのだろう。


 それじゃあ、私かリーシアさんになる。素っ裸の男性を運ぶ役は。そう、素っ裸だ。ご立派かどうかは分からないけれど、ソレが触れてしまう可能性も……いや、私は元男性だから、私がやるべきだけれど、もう随分とご無沙汰でさ、その感覚も触れた時の感触も忘れている。となると、やっぱり女性としての恥ずかしさが……って、私は男性だっての!!


「なんか悶ているけれど、この世界での決め方で良いんじゃないのか?」


 それしかないか。


「うぅ〜ん。私、これ弱いんです」


『まぁまぁ、私だってそうだよ』


 じゃんけんとは違って読めないし、運要素が強い。だから本当に、良く負けてばかりなんだよ。

 この世界の砂って、すくって握りながら魔力を込めれば、細い柱が出来るんだ。運が良ければ2〜3本とか5本になる時もある。運が悪ければ、柱どころか触手みたいになってこっちを襲って来るんだ。


 要するに、多く柱が出来た方が勝ちです。


 ここでR18みたいなはしたない場面を見せる訳にはいかない。


「えいっ!」


「よっ、と!」


 リーシアさんから順に、声を出しながら砂を握って魔力を流す。そして、手のひらを広げて柱が何本か確認をすーー。



 ー R18区間の為 しばらくお待ち下さい ー



 30分後、お互いに乱れた衣服を直しながら、火照る顔をピシャピシャ叩く。


「うぅ……やっぱりぃぃ。もう、もうお嫁に行けない〜」


「………」


 まぁ、その。リーシアさんの方がヤバかったです。な〜んで、砂なのに粘土っぽくなっているんですか。余計にお見せ出来ない事になってたよ。今もちょっと身体に粘土残ってるし。手汗が酷すぎてかな?


 私も私で、あられもない姿を見せてしまったよ。尻尾とか耳もひたすらに弄られてしまっていて、声を抑えるだけで背一杯でした。

 この尻尾や耳の感覚は普通じゃない。というか、普通の感覚とか分からないけれどさ、それでも敏感過ぎるんだよ。最後は強めにされて、声が出てしまいました。


 そして、エデン君は木陰の方へと、例の男性も引きずって隠れていました。


「俺は紳士だからな! 見ていないぞ! 耳も塞いでいたから!」


 それはありがたいけれど、多分耐性が無いのもあるのじゃないの? エデン君女性慣れしてなさそうだし、それはそれで可愛ーー


「ふんぬっ!!」


「ひえっ!! ミレアさん、突然岩に頭突きしてどうしたんですか?! あ、黒歴史として記憶から消し去ろうと?! それなら私もします!」


 とても変な煩悩が発生した為、思わずそんな事をしちゃったけれど、リーシアさんはしなくても良いんだよ。そう思って止めようとはしたけれど、遅かったようです。


「えい! えい!」


 思い切りガンガンと頭突きしていた。


『あの、リーシアさん。私のはちょっと、特殊なアレだったので、あなたはやらなくても良いですよ』


「え〜? 特殊なって何ですか〜?」


 いや、そりゃあエデン君に対して、変な情動がね。もしかしたら、意外と大人ぶっているだけで、本当はそこら辺の男の子と変わらないのかも。なんて考えながらエデン君を見たら、彼の周りがキラキラと輝いていて、いつもよりも2割増しで美化されていた。


「ふんぬっ!!」


「きゃぁ!! 何やっているんですか?! ミレアさん!」


 よって再度頭突きです。もう駄目だ。気が付くと心が乙女化する?! どういう事?!


「う、うぅ……いたた。なんか、うるさ……」


 な〜んてやっていたら、意識の無かった男性が声を上げ、ムクリと体を起こし始めた。なんだ、こんな所で起きちゃうのか。というか、エデン君が引きずっていたから、それで起きたという可能性もあるね。


 その男性の背中、すっごく赤いんだよ。エデン君、走りながら引きずったね。

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