3話 色々とチート過ぎて困ってしまう
突然の訪問者と、空の謎の亀裂によって、私が置かれた立場が一変してしまう。
『ーーで、なぁんで私はこいつと共に旅立つ事になったわけ?』
何て、前を歩くこいつの後ろから文字を書いたって、気付かれる訳がない。
何故こうなったか……それは、まぁ、色んな事が重なってしまったからと言えるだろう。
事の顛末はこうだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「お二人とも、仲良さそうになってますね」
問題の第一声はメイドからだった。
『は?』
「何言ってんだ? 俺は、こいつを拐って身代金をーー」
「またまた~言い訳なんてぇ~拐うならこんな堂々としないでしょう? これはあれですね、本当はお嬢様に一目惚れしたけれど、ご令嬢だから普通では不可能な恋。だから、このような荒業にーー」
「どこの世界でも、こんな荒業は素敵でしょうが!!」
焦ってしまってこう叫んだのも悪かった……文字を書くどころじゃないくらいに、テンパってしまったのだから。
「まぁまぁ、それならそうと言ってくれたら良いのに~」
「こんなにも色んな策をこうじるとは。うむ、父としても感極まったぞ」
そして両親まで変な空気になっていっていた。
そりゃ、私は長男だったが、こんな事になってしまったし、他にも下に男子が3人居るんだから、その弟達に家督を継いで貰えるだろう。いわば、私は本当にお払い箱というか、厄介者扱いに近い状態だった。
とはいえ、こんなにも薄情なのはどうかと思う。流石の私も泣きかけたよ。
「2人ともとてもお似合いよ~」
『誰が!?』
「こんな奴とはごめんだ!!」
母からもそんな言葉が飛んできて、ビックリだよ。よほど私を嫁がせたいらしい。
「落ち着いてくれ。ミレア。正直な所、私達もお前の処遇に手をこまねいている。本当は私達の手元に置いておきたいが……気を張ってしまって疲れるのだ」
と、私が腑に落ちないで居ると、父が私に向かってそう言ってくる。なるほど、これは多分本音だろう。そんなのは私でも分かる。こんなスキルを持つ人物が身近にいたら、気付かれもするだろう。
「だからだ、その……少し小旅行がてら、世間を見て来てくれないか? もしかしたらお前のそのスキルが、もっと上手く扱える様になるかも知れん」
そう言われると、断り辛くなってくる。私だって、ここで生まれた子なんだ。両親からの愛情は感じているし、心配してくれているのだって、伝わっている。だからこそ歯がゆかった。この状態がね。
そうだね。少し、両親から離れてみても良いかも知れない。だからってーー
『この人と一緒にはちょっと』
「何故だ? あんなにも話が弾んでいたのに」
『いやいや。私を拐おうとしたの、見ていました?』
「本気では無かったのだろう? 行き当たりばったりの無計画だったし、何より悪意がなかったろうに」
そう言われたらそうだけど。行き当たりばったりで人を拐おうとするのもどうかと思うんだ。
異世界だからって、何でも有りを許されるとは思わない方が良いはずだ。
「な~んか、今の内にとんずらするべきかな……いや~な空気が……」
いやいや、そっちから来ておいて、これで「はい、さようなら」なんていかないだろう。それこそ何しに来たんだ、あなたは。
「と言うより、そんな危険な人を野晒しにするのはどうかと思うのよ。今まで野晒しだったのが、信じられない位よ。冒険者ギルドは何をしているのかしら? だから、彼の監視をする人くらい、居るんじゃないかしらね~?」
『それこそ、冒険者達を総括している、そのギルドって所にーー』
「1つ大陸を渡った先だ。連絡は出しているが、何やら取り込んでいるようで、忙しいそうだ。小さな案件にかまけていられないのだろう。だからまぁ、そこまでお供して、さっきの様な事をしないように見張るだけでも良い。その後に、こっちに帰ってきてくれたら良い」
本当に小旅行みたいだな。
そう言っている間に、例のそいつがこの屋敷から退散しようとしていたよ。本当に何しに来た?
ただ文句を言いに来たのと、その場で思い付いた事を即実行しようとしたのかよ。その頭の中を疑うよ。
これは確かに、お目付け役がいるな。今回の件、初めてだとしたら、ギルドが理解していなかったのも分かるし、これからこいつには気を付けてくれと、そう直接言いに行くしかないのかも。
「ルヴォイル。私から逃げない」
「うぃ?! あ、足が……動かない!」
さてと。こいつが今回した事をキッチリと報告して、ついでに小旅行と洒落こみながら、直接言いに行くことにしましょう。不本意だけどね。
◇ ◇ ◇ ◇
そう言うことで、今僕達は、この国の国境へ続く街道を歩いている訳だ。
軽い軽装に着替え、短剣と小さな杖を1つ貰い、この冒険者の男性ルヴォイルに付いていく事になったけれど、その冒険者ギルドまでの事だから、そこまで大事になることも無いだろうし、世界の命運をかけた戦いに出向く事もないでしょう。
盛大にフラグが立っている様な気もするけれど、私のスキルの前では無意味だからなぁ……。
「くっそ……原因の奴があの街に居たんだって分かったから、とりあえず文句とかいちゃもん付けて、俺の無意味な転生を帳消しにする位、盛大な事とかやりたかったのに」
『心の声が漏れてます。観念して、灸でも据えられて来て下さい。それまでの間、私が監視しています。だから、さっさと前を歩く』
「うぅ……転生前も転生してからも男なんて、そんなのもう野郎と一緒じゃねぇか。可愛い狐娘で居やがって」
『ブツブツ文句言われても、私だって望んでこんな姿になった訳じゃない』
戻れる方法があるなら、直ぐに元の男に戻るよ。そりゃ誰だってその方が良い。ただ、天恵によるものだから、その可能性は低い。だから、半ば諦めるしかないんだ。
「そんなんじゃなかったら、可愛い子と旅なんて最高なのに……」
『だから、ブツブツ呟くよりも周りを警戒しておいてよ』
「あぁ、大丈夫だよ。この辺りはもう、野盗くらいしか出ないよ」
あの、茂みがガサガサいっているけど。
「「「「呼びましたか~!?」」」」
「何て言ってたら、数人の野盗が飛び出して来たけれど……うん、もう岩にめり込んでいるな。お前なぁ」
「あ、あがが……」
「い、今何が……?」
うん。秒で飛んでいったね。というか、弱すぎたよ。もう少し加減するべきだったかな?
『とりあえず、どこかに通報ですか?』
「まぁ、近くの街にでも。その後、ギルドや軍の奴等に引き渡す事になるな。というか、あんたチート過ぎるぞ」
『そう言われてもな~』
言った事は実現されるが、私の言動はほぼ全て逆になる。と言っても、動作は流石にそこまでじゃない。他人に対して、更に限定的な条件でなら、たまに逆になる事があるけれど、今まで1~2回くらいだね、そうなったのは。
そう言うことだから、テキパキと歩いて欲しい。早く終わらせたいんだよ。モンスターとかも出ないし、平和なものだよ。
「あ~っと、そうだった。この先の街は証明書が居るんだけれど、お前両親から旅人証明書なんて貰ってないだろう? 戻った方がーー」
『それ見せて』
「ん? はいよ」
渡されたそれは、一枚のカードみたいになっていて、そこに写真やら何やら色々と書かれていた。なるほど、免許証みたいなものだね。それなら問題ない。
「これと同じのを私も持ってる。顔も私。生年月日も私だから」
「はい? って、ある……お前、今そういう事にしただろう?」
ふわぁって感じで手から沸いてきました。というか、始めから持っていたようにね。
たとえどんな事だろうと、言った事が本当になるのが、このスキルの恐ろしい所なんだよ。認知まで変えちゃうんだよ。