2話 ワンちゃんの従え方
魔王城跡にまるで鎮座するかのようにして、巨体のガガールが私達に色々と試練を言ってくる。
正直な話、確かにルリアちゃんを魔王に選んで、その力を与えさせたのは私だ。ただ、それで終わりだと思ったんだ。まさかこんな話になっちゃうなんて、想像もつかない。
それだけこの世界は異質なんだなぁって、つくづくそう感じてしまったよ。
それで、まぁ……例の新魔王様のルリアちゃんはーー
「か、返して、いや返せ! お前等、新魔王であるルリア様に逆らって、タダで済むとーー」
「え〜つってもよぉ〜ほい、パース」
「へいへい〜そんな幼くて可愛い顔の子が魔王とか、ちょぉ〜っと信じられねぇんだよな〜」
近隣の魔物達を従えようと、二足歩行の狼、人狼とかいう奴等の住処に来て、早速ご挨拶……もとい、従うようにと、上から目線でルリアちゃんが言ったのだけれど、武器として腰に携えていた剣をアッサリと取られてしまい、いじめっ子よろしくこんな風にお手玉にされている。
それを、若干半泣きの様子で右往左往するルリアちゃんの姿に、魔王としての風格はどこにも無かった。というか、何をしているのですか……。
『あのさ、ルリアちゃんのスキルで従えさせれば良くない?』
「くっ、うぅ。それが……それまで弱体化してるんだよ。お前分からなかったか? 身体は従えさせ、こっちの意図で動かせるけれど、心までは従えさせられていないんだよ! 心まで従えさせる事が出来たのにだ! こっちまで弱体化してしまっているんだよ!」
『え、でもそれなら、最初から私達を問答無用で従えさせていれば……』
「それは嫌だったんだ。こんなチートみたいなもので従えてはべらせて、ウハウハしても虚しいだけだろうが」
それは人にもよるんだけれど、まぁルリアちゃんは何というか、そういう所が真面目なんだなぁ。それなのに、な〜んで私を誘拐しようとしたのやら。
「どうせなら自分の力で従えさせてから、裏切られないようにスキルで徹底的に服従させたら、無条件で俺に愛を注ぐようになるだろう! それこそ半永久的に、絶対的にだ! このスキルは、詰めとして使いたいんだよ!」
「…………」
あ〜なんていうか、ルリアちゃんってーー
『他者から愛された事がない?』
「うぐっ!」
まさに図星かの様に、あからさまな反応をしたね。そうか、なるほどね。だからって訳じゃないけれど、とにかく自分の力だけで異世界ライフを楽しみ、その上で愛してくれる人達を集めたかったんだ。
でも、それをーー
「お前がめちゃくちゃしなければ、こんな……こんな惨めな事を……」
私が何もかもぶっ壊した。
何なら美少女にさせられ、実力も能力もレベル1みたいに落とされ、人狼にバカにされたように遊ばれている。
「…………」
その、なんか……とりあえず、流石に罪悪感がちょっと湧いてきたような気が……あ、私にした事は最低なので許さないけれど、全て自分がした事で、そうやって返ってきたってわけか。
「はぁ、はぁ……だからせめて、人狼であるお前達を、俺の力でーー」
「なんてイイ娘なんだ〜! うぉぉ〜ん!」
「おぉぉ〜!! 俺達は、こんな純真で可憐な娘を弄んで!!」
「あ、え? いや、あ……まさか、ミレア! お前また何かしたか?!」
『私は何もしていないよ』
何か、気が付いたら勝手に人狼達が雄叫びながら泣いてました。何ですか、これ……この茶番劇は。
流石にルリアちゃんが惨め過ぎるから、気付かれないようにとは思ったけれど、その前にこんな反応をされるなんて、思っても居なかったよ。
「おぉぉ! よし、分かった! 俺達が、ルリアちゃんを一端の魔王として君臨出来るよう、しっかりと育ててやる!」
一端の魔王ってなんぞや……何か、どんどん変な方向に話が向かっていくね。
「育てるってなんじゃそれ! いや、違う! お前達は俺が従えてーー」
「そうそう。そうやってるふりで、俺達の持つ魔王学を伝授してやる」
魔王学ってなんぞや……っていうか、そんなの君達はどこで手に入れたのですか。
「ミレアさん。これ、もう私達いらないんじゃ……」
「う〜ん」
確かに。何か勢いというか、流れがそんな感じになってきているな〜気が付いたら人狼の数も増えてるし、何ならまだ増えてるし。近くの枯れた木々が生い茂る所から、ワラワラワラワラと出て来るんだよ。それだけ隠れていたなんて。これは、力付くでもどうにも出来なかったかもね。
『もうちょっと様子は見るよ。ただ、あまりにも危険な方向へ流れそうなら、流石にスキルで止めるよ』
人々の生活を脅かすレベルまでいくと、流石に私達も悪者として追われる身になってしまう。それはもう、両親に迷惑をかけるどころじゃない。
だから、そうなりそうになったら……いや、そうならないと魔王とは言われないか。
色んなタイプの魔王がいるんだけれど、ルリアちゃんはどういう魔王になりたいのかな?
『とりあえず、人狼は従えられ……いや、何ていうか……』
「何かあるなら、言えや!」
これは何と言うか……更に沢山の人狼達にもみくちゃにされ、可愛い可愛いされているのは、従えるというよりも。
『懐かれた?』
「………あぁ、ペットの犬か」
そう、それに近い。ただ、立場は人狼の方が上になっていそうな、そんな良く分からない状況で、そうだなぁ……。
『躾に失敗した飼い主?』
「て、めぇ……あ、ちょっ、まてお前等、どこを舐めーー」
しかも、ベロベロと身体中舐められ始め……って、これはいけない!
『リーシアさん目閉じて』
私はすかさず、スキルで今のルリアちゃんの状況を隠す。このままではR指定が入りますので。
「今から1時間は、ルリアちゃんと人狼から出る音を全部規制音に! あと姿もモザイクになる!」
というわけで、ルリアちゃんと人狼の絆の深まる、とっても濃密な大人の時間は、彼女と彼等だけのお楽しみとなった。
「ミレアさん? あの、もう良いですか?」
「あ、うん。もう良いよ」
短い言葉だけなら、宙に書かなくても大丈夫になってきたかな。まぁ、これだけ長い間対策をしていたら、いい加減慣れるか。
「ふわぁ……なんというか、子供に見せられないですね」
『だから規制かけたんだよ』
「どいう原理ですか? アレは」
私も知らないよ。何か出来ちゃったものは出来ちゃったし、それこそめちゃくちゃ濃いモザイクだし、ルリアちゃんは何か叫んでいるけれど、度々規制音出るから聞き取れないや。
「ふん。まぁ、あんな感じでやっていけば、何とかなるか。問題は、新たな魔王誕生となると、人間側……要は勇者と呼ばれる人達の動きだな。その血筋はまだ残ってるよな? いや、その前にその辺りはどうなってるんだ?」
「あ〜そういえば、私はミレアさんの力で改変されているので、そもそも魔王がいなかった扱いで……あれ? えっと……」
あ、うん。そうね。それも言っておかないといけないね。そもそもこんな事態になるとは思わなかったし、必要なら必要な時にでもと思っていたよ。
『勇者というか、かつて魔王を倒して勇者と呼ばれる様になった人と、その血筋何だけれど……私が以前の魔王の存在を消したから、今の血筋達はその……流浪してる』
「……あぁ、必要ないからって、いや騎士とか王族のボディガードとか何か、重要な役職にはついてないのかい!」
普通はそうなのかな? ただ、私は自分がやらかした事に正当性をつけようとしまして……その……。
『魔王なんていると、王族とか人々を守らないといけないし、皆不安だったから良くなかったよ』
「って、言ったのか……」
如何せん子供でしたし、あとそれも逆転しちゃったので……。
「魔王いないと、王族とか人々を守る必要なくて、皆安心出来るし良いよね。になったんてすね」
『リーシアさん、正解!』
「はぁ……よって勇者の血筋は蔑ろにされてしまい、今は流浪の身と。こいつも見事に被害者になってるな……こっちも何とかしないとか」
もう、ほんとそこはさぁ。この謎のスキルのせいなんだよ。こうも見事に改変されまくってしまうから、結局文字を宙に書く、この魔法を会得した方が早かったんだよ。
『今は魔王城が出来るまでは問題ないと思います』
「いや、問題あるぞ。勇者いねぇなら、別に魔王城を作って防備を固めなくても、簡単な軍を編成して人間達の住処を襲い、そこを根城にすりゃ良いと、入れ知恵する奴もいる。やはり、魔王と勇者は対とならなければ、魔王城をデカくする事も叶わないぞ。そんなに必要か? ってなるからな」
エデン君が辺りを見渡してから、そんな事を言ってきた。それはその通りでもあるんだけれど、例えそうなっても魔王様の権限で……権げーー
「やめ、おまえら、もう……本当に『ピー』が『ピー』『ピー』で。あ『ピー』そこ『ピー』」
アレに従うようになるには、相当時間かかりそう。普通にルリアちゃんがギブアップ間近だ。
女の子の体って、そうなんだよね。男とは違って感度が違う。感覚も違う、だから私も……ってあっぶない、危うく私もセンシティブな事を言うところだった、下手したら私にも規制音が。
「……ミレアさん。羨ましいって思ってます?」
「思ってます! あ、ちがっ! 思ってないわけではない! じゃなくて!!」
「落ち着けって、逆転してるぞ〜可愛いな〜」
『エデン君は黙ってて』
そう素直に言われたら恥ずかしいよ。
こんな状況で、出来るだけ早めに魔王城を立派にする為には、やはり勇者足り得る存在は必要って事か。
そっちも、私達がやらないといけないのかな? 何か、勝手に旅立ってくれないかな〜




