表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/40

7話 そんな危険な貝がいるなんて聞いてません

 女性だろうと男性だろうと、急所は同じってことかぁ。って、何を言っているんだ私は。


「うぅぅぅ……」


「大丈夫ですか? ミレアさ~ん」


 船の上で、あられもない姿と声を晒してしまった私は、痛みが引くまで横たわっています。男の程ではなかったけれど、それでも激痛に近いものでした。


 ちなみに、引いていた私の釣り竿は海賊さん達が代わり、引き上げてくれていた。かなり大物で、マグロ程の大きさがあるんじゃないかって思える、とても大きな赤い魚だ。

 鯛か? いや、何か顔つきが違う。こんなに厳つくはない。あと、せびれもそんなに大きくない。こっちの世界の高級魚とかそういうものかな?


「おぉ、ドグロサチか! それは私の好物だ。是非とも!」


『あぁ、はい。元よりそのつもりで釣っていたので、どうぞ』


 どうやらシャグィアサンの好物だったようです。それなら好都合だよ。下半身にダメージ受けてでも釣ったかいがありました。


「しっかし、結構な大物だな。男3人がかりだったぞ」


 そんなのがいるのなら、尚更私達まで釣りをさせるのは危険な気がするよ。とは言え、人手があった方が沢山釣れるし、シャグィアサンのお目当ても早めに釣れるから、総動員されるのも仕方ない。ちゃんと男性陣がフォローしてくれていたしね。


 とりあえず、あと何匹か釣れば満足しそうなので、このままこの場所で釣ってもらうとして、問題なのは……。


「うぅ……そんな。こっちの声が届かないなんて。どうしたらいいんだよ……」


 とんでもない程に落ち込み、絶望にうちひしがれているこの子を、何とかその上の世界に帰さないといけない。というか、私の天恵スキルを何とかしないと、この世界が消滅するんだっけ? 全くもう……。


『君。ねぇ、君』


「連絡手段なんて他にないし。母さんが気付くのにどれだけ時間が……気が付いても、多分父様に報告される。そうしたら、もうどやされるどころじゃないぞ……あぁ、どうしようどうしよう」


『ねぇ、君ってば』


 何で聞こえないかな~って、しまった。


「ミレアさん。宙に文字を書いて呼んでも、こっちを見ていないと意味がないと思いますが」


 ちょっとした天然ボケだよ。あまりにも長い年月を、声を出さないようにって言い聞かせてきていたし、人を呼ぶなんてかなり久々だったもので。


「ねぇ、君」


「あ? なんだよ……」


『今はとにかく、私の天恵スキルを何とかしないとでしょ? 帰る方法は、もうさっき君が言っていた事にならないとダメなんでしょ?』


「……うぅ」


 その父様って人に怒られたくないのは分かるけれど、この状態ではもうどうしようもないし、それは回避出来ないと思うよ。誤魔化す事すら無理だよ。


「くそ……くそぉ。はぁ、しょうがねぇ。怒られるにしても、せめて何か手柄を立てておかないと。そうしたら、怒られる量も半減するかな?」


 まぁ、それくらいしかないだろうね。それならそれで、私の天恵スキルの事を調べて貰わないと。それと、私は何でこんな姿になってしまったのかっていうのもね。


 多分、それも関係していると思うから。


 そんな話をした後、女海賊のイルネさんの方が私達の船へと近付いてくる。そう言えば、こっちの船長さんとの戦いとかどうなるんだろう?


「リーチャ。ちょっとヤバい事になってきたぞ」


「あぁ? これ以上ヤバい事ってなんだよ。俺様は、もう頭いっぱいいっぱいなんだよ。いっつつ、使いすぎて頭いてぇ」


「それは2日酔いだろう」


「だ~れが2日酔いだ!」


「こっちの話を聞きやがれ! 海中から、シャグィアサンと同等の奴が上がってきているんだよ!」


「なに?!」


「きっと、その魚を狙っていたけれど、釣られたから取り返しにきたんだ!」


 なんなんですか……この海って、そんな危険な生物が沢山いるの? ここの街の人達はよく漁に……って、海賊さん達が牛耳っているんだった。


「こいつらに張り合えるのはあたしらくらいさ。だからあたしらが、こいつを押さえて漁をしてやってるんだ」


「はっ。高い漁業料をふんだくっているんだろう」


「仕方ねぇだろう。こちとら命がけよ!」


 言い合いしている前に、確かに何かが海面に近付いてきているよ。避ける準備しておいた方が……。


「ぬぅ! あいつは、俺の寝込みを襲ってはちょっかいかけてくるやつだ!」


 それはそれで迷惑だろうに。何で処理しなーー


「来たぞぉ!!」


「総員しがみつけ! そして回避行動! 貫かれるなよ!!」


「わぁ~お」


 物凄い勢いで海面から出てきたのは、鋭く尖った甲を持った、巻き貝みたいなやつだった。まるでミサイルみたいにして、海面から飛び出して来たよ。


「ひやぁぁ!!!! なんですか、あれは!?」


 流石のリーシアさんもビックリしてしまって、慌てふためいているよ。森で生活していたらまず見ないタイプの生き物だもんね。


『巻き貝……にしては大きいし、殻の先端が物凄く尖って鋭くなってる。あの速度であんな物に突き刺されたら、船なんかあっという間に沈没するよ』


 そんな所で漁なんて……そりゃ命がけだよ。


「ちぃぃ! アイツの弱点は殻の先端じゃなく、下の方の胴体だ! そこは柔らかいから、砲弾一発で片付く! ただ、海に潜っていると狙いにくいから、勢いよく突き出た瞬間、胴が露出する時を狙うしかない!」


 そんな絶妙なタイミングで攻撃出来るかなぁ。と思っていたけれど、イルネさんとリーチャさんは急いで戦闘準備を始め、部下達に指示を出している。


 よく見ると、投げ縄と丈夫そうな鎖を用意している。


「はっ。ただ相手を待つだけじゃジリ賃だ。しかも、こいつは1匹とは限らねぇ!」


「へ? にょわぁぁああ!!!!」


 とってもあられもない声が出てしまったよ。いや、ビックリしたというか、私達の船の近くで、2匹目が飛び出してきた。しかも、イルネさんの方の船では、新たに2匹飛び出してきて、彼女の船を貫こうとしている。


 こんなに沢山いるなんて聞いてない!!


「ちょ……ミレアさん。何とかしなーーきゃぁぁああ!」


『そんな事言われても。あ、ルリアちゃーーんは、完全にダウンしてる』


 諸々のアレコレで船が揺れに揺れたから、完全に伸びてしまってぐったりとしちゃってるよ。


 もうそうなると、もう一人の方に……。


『ちょっと、神の子だか……あ、エデン君だっけ? 君、この状況から脱する事出来る?』


「なに? 僕は戦えないよ。そんな能力も戦闘力も無い!!」


『キッパリとドヤ顔で言わないでほしいな』


 本当に使えない子だなぁ、もう。そうなると、私のスキルでってなるけれど、この場合は漠然としちゃっていてどうにも出来ないかも。


「ミレアさんのスキルでもダメなんですか?!」


『いや、あの……こいつより強くっていうのが、基準がちょっと曖昧過ぎてね。こいつは貫く力は凄いけれど、他がてんでダメな場合は、こいつの貫く力よりも強くとしかならないんだよ。そうなると、私の尻尾が鋭利になるだけかもなんだよ……』


「あ、なるほど……それはちょっと、その後困りますね」


『他も強ければ、一緒に纏めてそれ以上になれるけれど、こんな生物だからね……重ねがけになると危険な事になるだろうしーー』


 貝殻も硬い場合は、それを破壊出来る程になるだろうけれど、もし中の本体も強くて、弾力性でダメージを防げるとなると、それまでプラスされてしまうと思う。そうなると……。


『下手したら、この辺り一帯が私のパンチ一発で粉微塵になる……』


「ちょっとそれは避けたいですね……」


 次々と飛び出してくる貝の化け物というかモンスターは、そんな私達の作戦会議なんて気にもしないかの様にして、船に積まれた魚を狙い、色んな所から鋭く尖った貝の先端を突き刺そうとしてくる。


 何とかリーチャさんとイルネさんの巧みな指示と、操舵手の舵さばきで逃れているし、船に仕込んでいる鉄板である程度は防げている。とは言え、一撃で割りと凹んでいるので、2発以上受けると貫かれそうだよ。


「くぅ!! こんなに多いのは聞いてねぇぞぉ!! ガハハハハ!!」


「あぁ、こんなのは初だねぇ、たぎってきたよぉ!! アハハハハ!!」


 それなのに、海賊の2人は生き生きしていました。全くもう、これだから海賊は……なんて思っちゃいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ