6話 不気味な存在の影
釣り大会なのに、お魚が釣れずに子供が釣れた。しかも、かなり横柄な態度。神の子だとかエデンとか言っているけれど、どうやら帰れなくなったようだ。この世界でその姿でとなると、そりゃそれ相応の対応となるんですよ。
「なんで僕まで釣りを!?」
『そりゃあ、君のせいで目が回って、ダウンしちゃってお腹の空いた八聖神さんを宥めないと』
「くっ……父様が作った、この世界の力の均衡を保たせる、柱的な役割の奴等か……8本あったな。8体か。なるほどな」
何かブツブツ言っているけれど、とりあえず私の隣に座らせて、海に釣り糸を垂らさせています。
「い、いんですか? ミレアさん。その子、神とかなんとか……」
『言っていたけれど、それがなに?』
「こ、怖くないんですか?」
『怖いって……この子が何するの? 正体不明なものを怖がるのはしょうがないけれど、私達がそれなりの適切な対応をすればいい』
神様とか何とか言ってもね、悪いけれど全知全能の神様とか、この世界を創造した神様とか、そんなものを私は信じていない。
人々が崇め称え、長年その念にさらされた物や人、場所などにそういう神様的な概念が宿る事はあるだろうけれど、最初から何かが存在して世界を作ったというのは、人々が作った創作でしかない。
そんな存在がいたとしても、作り出されたその世界は、ゲームの世界や人々が作り出した物語の世界に近いだろう。
だから、この子もそうだ。人間なんだ、と思う。
当然、私だって分かっている。私のこの考えや価値観が否定され、本当に創造神としての子供なのかもしれない。今はそれを証明する術が少ないというか、無い。例の杖を操って飛ばして来たけれど、それだけでは何ともなんだよね。
まぁーー
「…………あ、あぁぁぁ……」
私達の目の前で、シャグィアサンが冷や汗ダラダラ流しながら、目を泳がせている所を見ると、私のさっきの考えは容易く覆されそうです。
「腹減ってるのか? と言っても、お前達はこいつの処分の為、そういう指令を僕が追加で入力したんだが、何か不具合でも起きたのか?」
『ほぉ。私をね。なんで?』
「だから、お前が世界を書き換えるから、こっちの思いどおりにいかないんだよ! だから父様も、この世界を捨てた! 父様に捨てられた世界がどうなるか分かるか?!」
『どうなるの?』
「その内に消滅する」
それは驚愕の事実だ。
それなら尚更、私の天恵スキルを何とかして欲しいところだ。
『それなら、私の天恵スキルを何とかして』
「出所が分からんって、父様もそう言っていたほどだ。簡単じゃねぇよ」
この世界を作った人が言ってるんだもんね。それと、消滅してもお構い無しなのも引っ掛かる。
『そのお父さんは、この世界が消滅してもいいってわけ? 何とかしようとしなかったの?』
「納品期間があるからな」
「はい?」
思わず声が出ちゃった。納品って何ですか?
「父様。というか父様達はな、何個かの良質な世界と良質な人民が住む世界を、上の人に納めないといけないらしくてな。それで必死に色々と作っているんだよ。他にも色々な世界がある」
なんだろう……ここ最近のライトノベルみたいな言い方だね。それじゃあ、失敗したのは放置されてしまい、いずれ消えると言うことか。書けなくなった小説を削除するみたいに。
「それをな、第1503子の僕が改善し、良質な世界に戻したら、父様も僕を見てくれるはずだ!!」
『とっても多産~』
その人達が長命なら、それくらいの子を持っていてもおかしくないけれど、多すぎて認識されていないって可能性もあるね。
それでこの子は、何としても認識して貰おうと、捨てられたこの世界を作り直しているのか。
「それでこの杖が、この世界を作り変える為の外部システムだけど、どう使えばいいのか分からなくて。あれこれ試していたら落としちゃったんだよ。父様もたまにこれを使っているからさ、何とか回収しないといけなかったんだ」
『なるほどなるほど。う~ん。当然皆は……理解不能に陥っていますね』
今までの話を聞いて、そのまま他の皆を確認してみるけれど、皆さん見事に目が点になっています。あと、白目だけになってたりね。頭から煙が出ている人もいますね。ルリアちゃんはまだ吐いてますが。
さて。今の話を丸々信じるには、判断材料がほぼ無い。その話が本当だとしても、私達がこの子に何かをして上げることは出来ないかも。というか、こうなってしまったのは、4割程私が関係しているみたいだけど……う~ん、これからどうしたものか。
「おい、お前。今、自分は半分も関わっていないなって思ってないか?」
『何のことでしょう? え、人の考え読めるの?』
「出来ねぇよ。ただなんか、そんな顔してた」
10歳かそこらくらいの見た目なのに、中身は大人みたいだね。
「お前があれこれ変なスキルで作り変えるから、この世界の均衡が取れなくなって、父様ですら投げ出したんだ! この世界が問題だらけになったのは、ほぼお前のせいなんだよ! 9割とはいかねぇが、7・8割はお前のせいだ!」
『えぇ~』
「尻尾垂れ下げても無駄だぞ! ていうか、何で狐の人獣なんだよ。お前人間だっただろ」
『それもこのスキルでさーー』
と説明をしようとしたけれど、その子は今までで一番不思議な顔をした。
「いや、おかしいだろ。全部スキルのせいでそうなったって言っているけれど、狐になったのは何でだよ」
そう言われましてもね。私の考えでは、多分人間をあべこべで逆転されてから……かなぁと。そう伝えてみたら、今度は呆れた顔に変わった。百面相で面白いね。
「お前、そこを良く考えてなかったのか。人間が反対にされて獣って、それおかしいだろ。違うだろう。人間の反対って何だよ、意味分からねぇよ。人間だって、分類上では獣と一緒だろう」
「あ……」
それには気が付かなかったというか、何だろう……考えないようにしていた。だけどもしかして、考えないようにされていたとか?
それなら私は、いったい何をされたんだ?
途端に不気味な存在がちらついて来て、怖くなってきた。この世界の創造者達すら欺く、そんな存在が、私の身体に何をしたんだ……。
「誰よりも魔王で恐ろしい存在だな。お前は」
「…………」
言葉が出ない。頭がグルグル回る。
私をこの姿にして、こんなスキルを渡して、この世界をグチャグチャにしようとしている。それはいったい、誰なんだ。
「しっかし釣れないなぁ。いや、というか。僕は早く上に上がらないといけないのに。亀裂が消えてしまう!」
呆然とする私を他所に、その子は空の亀裂に向かって必死に叫ぶ。
「おぉ~い!! 母さん~!! 聞こえてたら助けてくれぇ!! もうこの世界には何もしないからぁ!! お願いで~す!!!!」
父さん……母さん……あれ? 何か忘れている事があるような。
この世界で、こんな風な形で生を受ける前、つまり前世の私の家族の事を思い出していたら、何か聞いてはいけないことを、聞いてしまったような……意図してなかったし、あんまり聞きたくなかったことだから、必死に忘れようと努めて、本当に忘れる事が出来た事が……ある。
「ミレアさん……ミレアさん!!」
「んあ、なに?」
「あ、しゃべって……じゃなくて、また引いてますよ! ミレアさんの!!」
「へ? のぉわっ!!」
糸が思いっきりビンビン引いてて、竿がしなって私のこーー言うかぁ! 危ない、危うく下な発言をしてしまうとこーー
「ふぎょっ!?!?」
「おぉ……しなった竿が下がって、持ち手の部分が危険ゾーンから離れて、何とか大丈夫か……と思ったら、また思い切り引かれて、竿の持ち手が勢い良く……うぷ。大丈夫か?」
「ルリアさんは誰に話してるんですか? というか……ミレアさん、大丈夫ですか? ミレアさ~ん」
「まぁ、放っといてやれ。男の状況とは違うが、下部の急所だ。女もキツいだろう」
「はぁ……まぁ、そうですねぇ。復活までしばらくかかりそうですね~」