2話 船の調達と海賊達
謎の亀裂関連で、ついでに調査出来るかと思って参加した釣り大会が、まさかの超絶危険な大会だった事が分かり、私達一同呆然としてしまっている。いや、それなら外部からの参加は止めて欲しい所だよ。
「おいおい。とりあえず船出してくれる奴探すか? 最悪、俺の天恵スキルで……」
『魔王とバレてもヤバいと思う』
今ルリアちゃんの角は帽子とかで隠しているし、リーシアさんの意識阻害の魔術で何とかしているけれど、流石にそんなスキル使っちゃうと怪しまれる。
何とか周りに怪しまれず、あの手の調査をしたいんだよ。今だって……。
「くっそ~どこ行ったんだよ、アレ~! 親父に怒られる~!!」
亀裂から黒い腕が伸びてきて、思い切り海をかき混ぜているんだ。
「おぉっと!! 急に海が渦を巻き出してるぞ! 八聖神の怒りか!?」
流石にそれで通用するのか怪しいところだけれど、ここの街の人達には腕は見えていないんだよ。説明しても、見えていないと疑われるのは間違いない。
ただ、こんな事は初めてだろうから、流石に街の人達も不安そうにしているし、このまま大会を続けてもいいのかと、大会関係者に不審な目を向けている。
そんな時。
「嬢ちゃん達、じっと海の方みて何かあるんか?」
私達の後ろから、野太い男性の声が聞こえてきた。
「わっ、あっ。すいません。この釣り大会の参加しているのですが、あの渦が……」
振り返るとそこには、ボサボサでフケがたまっていそうな髪をした、だいぶお腹が横にも前にも出ている、大柄の中年男性が立っていた。
片方は黒いアイパッチを付け、髭も結構伸びている。言ってしまえば、歴戦の海賊とかそんなレベルだよ。これで船乗りですと言われても、ちょっと疑ってしまいそうだよ。
「ふん。まぁ、しゃーね~わ。あんなの今まで1度も起こった事がない。既に棄権者も出ている。で、見ない顔の嬢ちゃん達は、外部の参加者って感じか。想像と違ったから引いたか?」
何だか私達を試すような言い方に、ジロジロとルリアちゃんと私を見て、そしてリーシアさんに目をやっている。
「ふ~ん。ほぉ~」
その後、何処からか取り出してきた大きな瓶を持ち、その中に入っている飲み物を一気にガブガブと口に流していく。臭いからしてお酒だね。
「ふぅ~それでも、海に出てーのか?」
本当に試しているのなら、変な受け答えはしない方がいいかもね。
『はい。私達は、海があんな事になっている原因が分かります。何とか出来るかは分からないけれど、やれるだけの事はやってみたいのです』
「何で狐の嬢ちゃんは喋らねぇんだ?」
そこは当然の疑問だね。喋らないとか、一番失礼にあたるだろうし、ちゃんと理由も言わないと。聞かれないなら、こっちの事情を察してくれたと考えるけれど、この人にはそこまでの気遣いはないだろうね。
『天恵スキルで、迂闊に喋れないのです。色々と、世界の理すら変わってしまうので』
「何だそりゃ。そんな強力なスキルなら、何とかーー」
『出来ない相手です』
「…………」
私の書いた文字を見て、その人はまた瓶からお酒をガブガブと飲み始めた。
「あの、あなたは船をお待ちなのですか?」
それから、リーシアさんが一番気になっていた事を聞いてくれた。
「ん~? あぁ、持ってるぜ。と言っても、ある理由から船を出せないでいるが、今回の件を解決出来るって大義名分があれば、出すことは出来るだろう。俺だって、このままあいつを錆び付かせるわけにいかねぇし、何かお前らからはただならぬものを感じるんだよ。んで、もしかしたらと声をかけたが、ビンゴだったか」
なるほど。渡りに船って事か。ただ、このままこの人を信用していいのかな?
「くっくっ。狐の嬢ちゃんは怪しんでるか。だが、見ず知らずのよそ者に船を貸そうなんて奴は、この街では俺ぐらいだぞ?」
『ミレアって名前があります。ヘルウォード・ミレアです』
「うん? ヘルウォード? って言えば、爵位家の。ほぉぉ~」
うん、目の色変わったね。分かって言ったところはあるんだ。だから、このまま詰めて決めてしまおう。
『もしお金が必要なら、親からこれだけは貰っています』
そう言って、私は懐から沢山の金貨の入った袋を外し、彼の前にジャランと音がするように見せ付けた。
『足りませんか? 海賊のおじさん』
「……ふん、読んでたか。だが、海賊からは足を洗った。いや、そうせざるを得なかった。しかし、また俺のこの海賊魂に火着けてくるとは。お前、分かってるのか? 俺は善人なんかじゃねぇことくらい……」
『分かった上です』
最悪、私とルリアちゃんで制する事は出来るし、捕まえてギルドに渡すのも出来る。そういう思いを持って、私は目の前の男性をただじっと見た。
「真っ直ぐな目だな。良いだろう。船、出してやる。大義名分もありそうだしな。何より、またあいつと勝負出来そうだからな」
『ん? あいつ?』
しまった。この人、もう1つ別の目的があったのか。それによっては、こっちがピンチになる可能性がある。
「それは船を出せば分かる。着いて来い」
そう言って、また男性はお酒をガブガブ飲み、そのまま私達を案内するように、港の方へと歩き出した。
「ミレアさん~」
『まぁ、何とかなるでしょ』
「ポジティブに考えれば、海賊という部下が手に入るな。ふっふっ……ふぐぅ!?」
良い感じに纏まりそうだったのにこれだよ。思わず尻尾で羽交い締めにしてしまいました。前の男性には聞こえてないよね?
「あ~っと! またしても船が転覆~! というか、思い切り吹き飛ばされてま~す! もうこれ、中止にした方が良いのではないでしょうか~?! 町長~!!」
「う、うむ。こ、これ以上は……いや、しかし。何とかして魚を釣り、シャグィアサンに納めなければ、この街が……!」
「だからって、このままでは死者が出ますよ!」
まずい。本当にこのままでは中止になりそうだ。急がないと。
「懸命な判断を、もう少し早めにしねぇとな。ここの町長は腑抜けだからな~それでも、何事も無ければ良き町長だな」
海賊の男性も、騒動を聞いてそう言った。
私達は港までやって来て、その海賊の人の船の所まで向かっているけれど、ここで海賊仲間が現れて、私達を拐おうとするとか、そういう展開は止めてね。そうなっても一瞬だし、そのまま船を奪えばいいんだけどね。
「んん。よしよし、今日も無気力に漂ってやがる」
そして、前を歩く男性が立ち止まると、そこに止まっている、大きな船を見上げた。
え、もしかしてこれ?
こんな、巨大なガレオン船?!
「何隻か見えていた、大きな船の内の1隻じゃないですか!?」
「うっわ。これ操縦するの、人数がいるぞ。おい、大丈夫なんだろうな!? 他の仲間は……」
「おぅ、そこで飲んだくれてるわ」
「うぃ~船長~可愛い子ちゃん連れてるじゃないすか~」
「いいすね~晩酌晩酌~」
あ、路傍に打ち捨てられた犬みたいに、ダランダランに寝転けている人達が居たよ。拐おうとかそういうレベルにまで気持ちがいってないや。
「おいおい……」
「もしかして、ほとんど私達がやらないといけないとか?」
それはそれで勘弁というか、無理ですよ。
「はぁ~もう、仕方ない」
「ん? 狐の嬢ちゃん、喋れーー」
「そこの君達の酔いは覚めてるし、今からやる気満々で、このガレオン船を操縦して、私達をあの海の渦まで連れていく。ついでに、手が空いている人は釣りもしておく」
「うぉっしゃ~!!」
「やってやりましょう! 船長!」
「久しぶりに燃えてきたっすよ!!」
「うぉわっ!! 何だこいつら! 急にやる気に?! 狐の嬢ちゃん何した!」
『これが私のスキルというか、言った事がそのまま実現してしまうものです。ただ、私は言葉が逆転してしまうので、たまに失敗してとんでもないことになるけれど、気を付けているので大丈夫です』
「な、なな……なんちゅう強力な。よ、よし、まぁ何とかなりそうだ。俺も気合いいれるか。行くぞ~! 野郎共!」
「「「「おぉ~!!」」」」
暑苦しい雄叫びを上げているけれど、まぁいっか。さっきまでの無気力の方が問題だからね。
というか、何でそんな事になっていたのか、それも船を出したら直ぐに分かると言われたよ。