2話 同じ転生者(チート付)
私にお客という事で、2階の部屋から1階へ降り、とても広い玄関エントランスにやって来た。屋敷内は自由に動けるからね。
あと一応、丈が長めのスカートと、上等な絹を使った、女性用の襟付きのシャツを着て、ご令嬢の様な装いにはしている。男としてのプライドはあるから、そりゃ抵抗はあるんだけれど、周りはそんなの気にしている場合じゃないって感じだったから、いつの間にか折れてしまったよ。
「おっ? お前がミレアって奴か? 男から女になっていう、凄いスキルを持っている奴」
エントランスに出て、最初に私に話しかけて来た男、こいつが私への客? 当然、知った顔じゃなかった。
黒っぽい鎧を身に纏い、背中にばかデカい大剣を背負っている。顔に兜をしていないから、どんな奴かも見える。
だいたい20~30代辺りの若さで、一見すると優男風だし、私の居た世界で流行っていたツートップで髪を整えていて、銀色のインナーカラーが入っている。
『私に何か用ですか?』
と、人間観察するのはこれくらいにして、呼びに来た人が慌てていた理由は何だろう? 確かに、体から溢れているオーラの様なものは、他の人に比べたら強めだね。
「お前、喋れねぇのか?」
『スキルのせいで、迂闊に喋れないのです。それで、ご用件は?』
「おぉ、そいつは厄介だな。なるほど、わざとって訳ではないのか。そうか……」
何を言いたいんだろう? 少し残念そうな顔をしているが……。
「もう1個聞きたいことがあってな。お前、日本人か?」
そいつの口から飛び出した国名に驚いたよ。いや、国の名前にと言うか、もしかしてこいつも転生者なのかと思って。
『何で、その国の名前を? もしかして、あなたも?』
「おっと、ビンゴか。なるほど、それならますますしょうがねぇな。うん」
いや、何1人で納得しているんだ。こっちは訳が分からないし、周りの人達も、この会話にちんぷんかんと言った顔をしているんだよ。
「悪い悪い。俺も、お前と同類よ。時代も、そう離れてねぇだろう。違うか?」
なるほど。この人も転生者というやつか。私以外にも居たのはビックリだけれど、そりゃ私にだけ特別扱いする事は無いだろうから、そういうのは結構居そうだとは思っていた。
あとは用件何だけど、まさかそれだけを知りたくて来たのかな?
『多分、そっちの考えの通りだよ。国も、一緒じゃないかな。それで? それだけを聞きに?』
周りの人達はこの一連のやり取りに、完全に取り残されている状態だ。下手したら色々と怪しまれそうだから、手短にお願いしたいな。
「失礼。いや、何。そっちが魔王を消してしまったからね。冒険者達はこぞって職にあぶれちまった訳よ。俺もな、転生してチート能力貰えて、ここから俺の夢の様な生活と人生が待っているんだ~っと思っていた訳よ」
あ~言いたい事が何となく分かってしまった。
「それを、お前が全て台無しにしたんだ!!」
ただの八つ当たりだこれ。だけど、何も魔王を倒すのが全てじゃないよ。
『異世界での生活って、別に魔王を倒すだけじゃーー』
「いや、そうなんだけどさ。こちとら、別に魔王を倒さなくても、活躍する方法はいくらでもあると思ったよ。ただなぁ……」
何だろう。おもむろに、懐から何かを取り出してーー
「実績が無ければ無能人間扱いとか、酷くねぇか!! この異世界!!」
『むしろ順当なんじゃ……』
取り出して見せてきたのは、何と言うかその……履歴書の様な物で、そこにこれまでの冒険による経歴を書く欄があったんだ。
うっわ、異世界でも現実はシャバいねぇ。
「お、お前は良いところの出だから、まだやり様あるだろうが……こちらとらなぁ……!!」
まぁ、スラムとかそういう所からのスタートだったんだろう。それで冒険者までいけたのは、ある意味凄くないか?
さっきは思わず突っ込んだけれど、本当に順当な感じがするよ。だから、こっちに八つ当たりされてもなんだよ。
『あの。本当に、魔王だけじゃないよ。経歴とか、そういうのはーー』
「だから、お前が魔王とか魔族とか、人類に敵対する者を消したから、俺はもうここ止まりなんだよ!!」
あ~それは本当に申し訳ない。
何時だったか、魔王を消した後、まだ人類に敵対する魔族は居たから、ちょっと物騒だったんだ。それで「まだそんなの居るんだ」とうんざりして呟いちゃった。もちろん、私のスキルで反転してしまい、口から出たのは「もうそんなのは居ないんだ」となってしまいました。空中に文字が書けるようになる前だったので、本当……申し訳ないです。
『えっと、ごめんなさい?』
世界的には良いこと何だけれど、何なんだろう……この罪悪感は。
「くっそが……胸はそこそこでもスタイルが良くて、切れ長の目で、髪はサラサラのセミロングで狐娘とか、どれだけ恵まれているんだ!」
『いやぁ~そんなに褒められても』
「自覚してんのか!!」
『あ、それと。以前の世界でもこの世界でも、男として生まれてます』
「しかも女体化物かよ!!」
その言葉を知っていると言うことは、やっぱり時代は近そうだね。
「ぐぐぐぐ……だからなぁ、もう一つの用件なんだよ。こうなったら、俺が魔王になって、異世界を自分の物にしてやるよ!! 手始めにお前だ!! お前を拐って、身代金をたんまりと踏んだくってやる!! 俺に『跪け』」
えっ?! 急に膝をついて、そいつに跪いてしまった。何だこれ? スキルか何か? 私よりも上?!
「ふふ。おっと、俺はこの世界ではルヴォイルって名前だ。ルヴォイル=イリガルだ。そして、俺のスキルは個性スキル『絶対権限』さ。俺の言うことには全て従わざるを得ない。魔法だろうと自然だろうとな!」
うっわ……それはチート過ぎる。ただ、まぁーー力は使いようってことで。
「私はあなたより強い」
「んっ? へっ?」
これで私はあなたよりも強くなる。と言うことで、相手に近付いて平手打ちです。
「へぼろばぁ!!!!」
「あなた、強いですね」
うん、やらかした。逆になってしまった。本当は、あなた弱いですねって言いたかった。
意気揚々としてしまって、真逆になってしまったよ。
「はっ、はははは。厄介だな、お前のスキル。めちゃくちゃ力が沸いてくる!」
まぁ、それでもーー
「私はあなたより強い」
これさえ気を付けていれば、何てことはないんだよ。
「えっ? あっ、ちょっーー」
その後はまぁ、周りもドン引きの一方的展開となりました。
◇ ◇ ◇ ◇
「いふぁ、ほんほにもう、もうひわけありまへんでひた」
顔がパンパンに腫れた、ルヴォイルという男は、ボロボロになった鎧姿で私に土下座をした。
ここまでする事はないと思うだろうけれど、この男中々に諦めなかったので、ここまでするしかありませんでした。
両親もメイドさん達もガタガタ震えてるよ。やっちゃったなぁ……。
「もうそれならいっそ、あの空の異常も何とかしてくれませんか?」
『え? 空の異常って何?』
「知らないんですか?! と言うか、見えていない!? あ~でもまぁ……この世界の人達にも見えていないみたいで、俺だけかと思ってて。それでも、もしかしたらと思ったのに……」
『いや、私軟禁されてて、その空も一部しか見えてないんだよ』
「あっ、そっか! こっち来て下さい」
そう言われたから、とりあえず玄関エントランスホールの端にある窓に向かい、そこから男性が指した方の空を見てみた。するとそこには、パックリと傷口かの様にして出来ている、亀裂みたいなものがあった。
『なに? あれ』
「見えたのか?! と言うことは、やっぱり転生者には見えるのか。よしよし」
『いやいや。あれ何って聞いてるの!』
「俺にも分からん」
マジか……ちょっとあの亀裂はヤバくないか? あそこは丁度、私の部屋の窓からは見えない位置だったよ。いつからあるんだ? あの亀裂は。
『いつからあるの?』
「ん~? 5~6年前くらいか? あぁ、あんたが魔王を消し去った日に近いな」
いやいや。まさか、いやいや……それならさ、何で私にこんなスキルを渡したのでしょうかね。そんな、危険な力ならさ、尚更ねぇ……。
私がこの力で魔王を消したから、あの亀裂が出来たなんて……そんな事は、無いよね?