1話 突然の海釣り大会です
「それではこれより、第八回『釣り王は誰だ』決定戦を開催しま~す!!」
「お~! 頑張りましょう、ミレアさん!」
「ふっふっ。ここで俺の実力を示せれば……」
『あ、うん。というかちょっと待って、船使って海釣りとは思わなかった。2人とも、操縦出来るの?』
「無理です~」
「お前のスキルで何とかならないのか?」
『こっちに頼りすぎないで』
さてさて、唐突に始まってしまった釣りの大会なんだけど、まさかの海釣りだったよ。
何で私達が、こんな海辺のイベントに参加しているのかと言うと、遡る事二週間前。巨大な杖を飛ばして、ギルド本部に辿り着いたところからだね。
◇ ◇ ◇ ◇
ーー二週間前ーー
「……え~ギルド長からの伝言は『何だあれは、何なんだあれは。今までの武器とか神器とかにないぞ。何あれなにあれナニアレ!!』と、さぞかし混乱されています」
『どうも、申し訳ありません』
そりゃ突然空から降って来たら、誰だってビックリするよ。そうならないようにと、先回りしようとしていたんだけれど、間に合わなかったね。
「ミレアさ~ん。せめて、例の魔王となったルリアちゃんを制御してからでも……」
『そうしたかったんだけれど』
道中、出会う野盗達を片っ端から倒しては、魔王軍に入らないかと勧誘しまくっていて、それをひっぱたいて引きずっていたからね。それでも懲りずに、新たな野盗に出合うと同じように勧誘してさ……。
「別に良いだろうが! お前達はお前達の冒険をしていればいいだろう! 俺は魔王となって、大成するんだ! そしてお前のスキルを解除して、男に戻って酒池肉ーー」
『あっと、尻尾が滑った~』
「ぶべら!!」
飛んでもない野望を抱いていましたね。思わず尻尾で盛大にビンタしてやったよ。思い切り飛んでいったけどね。レベルはまだまだ低いみたいだ。それでも、魔王たる力を継承したからか、他よりもステータス的には高いし強い。
「お前な! 関係ないんだろ、お前には!」
だから、思い切り吹き飛ばしても直ぐに戻ってきた。この隙に逃げたらいいのに。逃げたら逃げたで、私が飛んでいって縛り付けるけど。
『そうだけど、私のせいでこうなったから、酷い世界にならないように、あなたを押さえておく必要がある』
「ちっ……たまに真面目になるよな」
『私はいつでも真面目ですよ』
とまぁ、愚痴ったところでしょうがない。2人でそんなやり取りをしている間に、リーシアさんが全部説明していたよ。
それで、またギルド長に連絡をして、伝言を……って、何だか伝達役になっているギルドの人がかわいそうになってきた。
私がギルド内に入れないので、こんな手段でしか話が出来ない。ギルド内には直通の連絡方法があるんだけれど、入ると私のスキルがリセットされて、あられもない姿を見せてしまうんだ。それは非常にまずい。今はルリアちゃんもいるからね。
そういうわけだから、ギルドの人には汗だくになって息が乱れながらも、連絡係になって貰うしかなかった。
「はぁ、はぁ……つ、次は。って、何とかなりませんか? これ!」
流石にギルドの人も限界っぽいですね。
『何か急ぎの要件があればでいいので。例の杖も、そちらで調べるという事でいいでしょうか?』
「あ、えぇ。そうですね。それと、例の巨大な杖と関係があるかは分かりませんが、海沿いにある街で、空の亀裂がどうのとか、海に大きな手が伸びて、かき混ぜているとか、そんな連絡がこちらに来ているのです。これに一番関わっているのが、ミレアさん達なのでまた調査にと」
う~ん、次から次へとやってくる。本格的にあの亀裂と目、手のやつもだけれど、それをどうにかしないとゆっくり生活する事も出来ないな。
というか、そもそもその厄介ごとを持ち込んできたのがルリアちゃんなんだよ。せっかく平和に軟禁されていたのに、こうやって色んな所に引きずり出されているんだから、少しくらいおもちゃにしたってバチは当たらない、と思いたい。
『分かりました。海沿いの街ですね』
「あぁ、いつもとは反対側の出入口から出て、道なりに行けば看板がある。その街の名前がある方へ行けば、数日で辿り着くだろう」
結局は私達が行くしかないので、また仕方なく小旅行がてらに出発ということになった。両親にもギルドから伝えて貰い、出発したのが二週間前。
街に辿り着くまでに色々と邪魔があり、結局一週間かかった。あとは、街に着いてからも情報収集で一週間経ち、例の亀裂だとか言っている人が辻占いをしている人で、あまり信頼が出来ない人だと言うことを聞いた。
亀裂の事は当てているので話を聞いたら、八聖神の一体がここに住み着いていると言う話になり、それのせいでとか、何か自己解釈が入っていたので、そこはもう割愛するけれど、どうやらそいつがちょっと暴れているらしく、少し早いが鎮魂祭を実施し、八聖神の一体、神壊魚の「シャグィアサン」を鎮める事になった。
◇ ◇ ◇ ◇
ーー現在ーー
そういうわけで、シャグィアサンを鎮めるには、そいつの大好物の魚を納める必要がある。
そいつを釣る為にだけど、それならいっそと釣り大会も開催し、お祭り騒ぎで楽しんじゃえとなっていた。ここの街の人達は、何かと理由を付けてはお祭り騒ぎをするのが好きらしい。
と言っても、今回はシャグィアサンが暴れているから、皆ちょっと真剣なんだよ。
「ミレアさん~どうにかして、船動かせませんか?」
『そうは言っても……』
というわけで、最初の問題にぶち当たったんだけど、まさかの船での沖釣りとは思わなかった。そんな所にしかいないとなると、割りと大きな魚って事になる。
神壊魚のシャグィアサンも魚だけど、資料の姿を見ると、ウツボみたいな姿をしていた。それなら魚は食べられるだろうし、巨体なのもあって、数がいることも納得だ。
だけどそもそも、私達が海へ出れないとなると、その辺りも調査も出来ない。何とかならないかな。
「お前のスキルでも何とかならないのかよ」
『対象がないと無理だよ』
「それなら、運転している奴を見て、それよりも上手く運転出来るってすればいいだろう?」
『なるほど。だけど、船は?』
「「あっ……」」
2人揃って忘れていたって顔は止めて。私も直前まで忘れていたけれど、船は各自で用意する事になっているんだよ。
というか、その船の条件がさ、船首に武器等の攻撃用の物を装着する事って書いてあるんだよ。戦闘でもするの? 物騒でしかないんだけど。
「う~ん。船、誰かの見せて貰えないか? ほら、お前ギルドの登録証を勝手に作ったろ」
『あぁ。そうだね。だけどその場合、その船と同じ物になっちゃうよ。そうなると、その船の持ち主から何言われるか……』
「あ~ギルドの登録証とか証明書なら、形は全く同じで、自分の物とすれば名前もそうなるが、船となると……か」
『そういうこと』
まだスタートには時間があるし、大会はグループごとに分けられていて、そのグループごとにスタートになる。私達のグループのスタートは、約1時間30分後、2グループが終わってからか。
「誰か船を持っている人に協力して貰います?」
「この大会に参加してないやつ以外って、難しくねぇか? 数日前ならともかくよ~」
『地元の人しか参加してないからか、この辺の事は案内には書いてなかったしね。全く、不親切だよ』
一応外部からも参加出来るようにしているなら、こういうトラブル防止の為に書いておかないといけないのに、数年も外部の参加者がいなければ、そりゃ書くこともなくなるか。
というか、何故外部からの参加者が数年前からいないかは、第1グループスタート同時に判明した。
「おぉ~っとぉ!! 早速クマカジキに吹き飛ばされ、1隻大破! リタイアだ~!!」
そんな、とてつもなく過酷な釣り大会だった。
「おい」
「ミ、ミレアさん。本当に、参加しないといけないのでしょうか?」
『うぅ~ん。ここまでとは……』
ただの釣り大会だと思っていたし、どっちにしても海に出て調べないといけなかったし、参加出来るって分かったから、ついでにと思って、私から率先して参加申し込みしたけれど、失敗したかも知れません。