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6話 現状について

 新たな魔王が誕生したので、私を処分しようとした竜王も、一旦は身を引く事になり、私達の家族や仕えている人達も、一瞬で家に戻された。


 というか、竜王の背の部分、頂上と思っていた三角錐の丁度真ん中に、牢屋みたいな空洞があって、そこに皆閉じ込められていたよ。どうりで私の力では戻せなかったはずだよ。そんな風になっていたなんてね。


 そんな訳で、屋敷に戻った私達を、家族皆が出迎えてくれた。


「良かったわ~無事で!!」


「すまんな。お前に負担をかけてしまって……」


 母と父からそう言われたけれど、元々の原因は私だったし、そのやり取りも見ていたそうだ。それでもそう言ってくるのは、莫大なお金をかけて、私にあの天恵スキルを与えてしまった、罪悪感から……なのかな?

 こればっかりは、私から何か言っても余計に罪悪感が増すかもしれない。だから、何も言わずにーー


「怪我は無いわね、怪我は!」


「うぎぎぎぎ……」


『お母様、締め付けが強いです』


「あら、いけない」


 というか、皆の方が心配だよ。何か身体に異変とか、怪我もそっちがしている可能性があるんだからね。


「いや~色々と良くしてくれたし、竜王様の身体にいたからか、すこぶる調子が良いな」


「そうですね。旦那様。なんなら、もうしばらくいても……」


「いやいや、流石にそれはちょっとな……」


 なんか厚待遇をされていたみたい。言われてみれば、捕まっていた皆さん、肌艶が良くない? 心配は不要だったみたいだ。


 それで、新たに出た問題なんだけれど、これはしばらくは大丈夫かな……と思う。


「そして、そちらが新たな魔王として誕生した……」


「あぁ、魔王リリアン=ヴィダークーー」


『魔王ルリアちゃんです』


「あで?! おいこら、尻尾で叩くな! というか、名前はせめて好きに付けさせろ!」


 正直激闘が始まると思ったけれど、この魔王になったルリアちゃん、めちゃくちゃ弱かったです。言ってしまえば、レベル1ですよレベル1。

 今も、ちょっと強めに尻尾で叩いただけなのに、何故か重くて分厚い布とかで叩かれたみたいに、前のめりになって倒れそうになっていたよ。


「く、くそぉ。これでやっと俺の、俺だけの異世界生活が始まると思ったのに、また鍛えないといけないんて、聞いてねぇ~よ!」


『いや、でも。闇の力とか、そういうのが集まっているんでしょ? 勝手に強くなっていきそうなイメージがある』


「あぁ、俺もそう思っていたよ。某ダンジョンゲームのように、歩くだけで経験値が入る腕輪とか、何かそういうのかと思っていたのに……」


 それはどこの風来人だろうね。


「実際はかなりちまちまとしか力が流入してこないんだよ。何というか、途中で取られているような、そんな感じなんだよ。ちくしょう……」


 途中で取られている……あぁ、要するに人間の方にも流れているから、そっちに大量に取られているのか。いやいや、そこは修正しておいて欲しかったけれど、八聖神とは言え、そこまでは出来なかったようですね。


 つまり、ルリアちゃんが魔王として大成するには、今現在闇の力を吸いまくっている人達を制裁して、その流入先をルリアちゃんに変更する必要があるのか。


 まぁ、とりあえず。


『頑張ってね』


「めっちゃ他人事じゃねぇか、おい」


 いや、だって。私のせいもあるんだけれど、推薦したりもあるけれど、割りとノリノリだったよね、ルリアちゃんも。それなら何か、チャラなのかなぁ……とか思ったりもするんだよ。


『一部は私のせいって事は自覚しているよ。ただ、私は私でやることがあるから』


 そう言って私は、屋敷の外に置いてある、とても巨大な杖の方を見た。


「あぁ、あれかぁ……」


 そう。竜王の頭に落ちてきたという、あの杖である。竜王が咥えて、それを地面に置いた時、その大きさに唖然としたよ。


 丸々家1個分程の大きさ。ここまで持って帰るだけでも一苦労でした。

 あの杖が、例の亀裂から伸びてきた腕の人が落とした物なのか、それを調べないといけないんだよ。もしかしたら、亀裂を直す突破口になるのかもしれないからね。


 今も時々目が覗いてきて、何かを探すようにキョロキョロしているから。だから、分かりやすい様に外に出しているのに、何故気付かないの?


「あんな分かりやすく置いてあるのに、気付かないって事は……この世界に落とした瞬間、アレには杖が見えなくなるのか?」


「う~ん、そんなの聞いた事ないですねぇ」


 ルリアちゃんの言葉に続いて、リーシアさんがそれに答えた。彼女は色んな魔法具を知っている。長年生きている経験値からなんだろうけど、ずっと覚えていられるのも凄いよ。


「どちらにせよ、またギルド本部に向かった方が良いだろう。あの杖を持って」


『あの杖を持って?』


「そうだ、あの杖を持って」


 また何を地獄の特訓みたいな事を言ってくるかな、この父親は。愛娘になんて事をさせるんだ。


『こんないたいけな、愛娘に向かってなんて事を』


「あ、ミレアさんってちゃんと女の子だったんですね」


「…………」


 リーシアさんのあんまりな返しに、自分が元男であることを鮮烈に思い出してしまって、もう何か色々と恥ずかしくなって悶えているよ。


「しゃ~ねぇな。平行して進めてやるか」


『そう言いながら私の尻尾を掴まないでくれる? ルリアちゃん』


 隙あらば誰かしら私の尻尾をモフモフしようとするんだから、困ったものだよ。


『というか、私達が魔王のあなたに協力なんかしたら、仲間とみなされてしまって、冒険者とか勇者の末裔に狙われるでしょう』


「それがどうした。関わった以上逃げられないぞ」


 だからこの人と関わるのは嫌だったのに。何でか知らないが、関わられてしまうんだよ。仕方ない、こちらも危険な事になりそうなら、直ぐにでも切ろう。それしかない。


「あの杖、小さく出来ないかな」


 そんな私達のやり取りを聞かず、リーシアさんは巨大な杖の方をまじまじと見ながらそう言っている。


「お前のスキルでも小さく出来ないのか?」


『やってみても良いけれど、もし何か重要な使い方があって、それが小さいと出来ないなんて事になると、せっかくの重要そうなアイテムが無駄になるよ』


「それを恐れてもだけど、まぁあんな形で出てきたら、迂闊に形を変えるのは止めた方がいいか」


 ルリアちゃんの言う通り、大きさや形は出来るだけ変えずにしたいところ。ここまで運ぶのも、私があの杖を一時的に持てるくらいの力があるって、そうスキルで付与したからで、重いものは重いんだよ。


 だからさーー


「あんなとてつもなく軽い物を、ギルドまで運ぶのは簡単だよ」


 としてしまえば良かったんだ。ただ、これには落とし穴があって。


「おい。あの杖、スッゲェ遥か上空まで上がっていったぞ? 空気より軽くしたのかよ」


『やっぱり。重さの調整が出来ない』


 この天恵スキルの短所の1つとして、細かな数値での指定とかが出来ないんだ。特に物に対してはね。

 つまり、大雑把に言わないといけなくて、そうなると効果にバラつきが出てしまう。


 強さに関しては、比べるものがあるからいいものの、ある位置までの距離を「あそこまでを私は、僅か何秒で移動が出来る」という指定が出来ない。

 私がそこまでを、どんな手段でも移動出来たらいいという判定になってしまうので、突然変な乗り物が出てきて、とんでもないスピードで移動された日には、顔の皮膚でも剥がれたんじゃないの? と思ってしまう程だった。


 だから、例の杖の重さを軽くするというのも、基準を示せればまだしも、示せないと今みたいに、空気よりも軽くなって飛んでいってしまうんだ。

 ただ、ギルドまで運ぶを付けたから、多分あのままギルドへ向かってると思う。


 聡明な皆さんにはもう分かっているでしょう。そうです「私が」を入れ忘れました。


「…………お前のスキル。割りと使いにくいな」


『だから言ってるじゃん』


 無駄に頭を使わせるスキルなんだよ。だから、咄嗟に出てしまうのも仕方ないし、割りと失敗する事もあるんだよ。


 それよりも、急いでギルドに向かわないと、誰かに拾われたら大変だ。


 というわけで、かなり慌ただしく私達は屋敷を出た。もちろん、皆には凄い目で見られたので、ただただ平謝りしました。

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