4話 世界改変の悪影響
一週間後。装備も整えた私達は、神竜の住む山へと出発した。
あれから、毎日私のスキルで戻せないか試したけれど駄目だった。結局、直接行かないといけないと分かり、出来るだけ早くと思ったけれど、準備に思ったよりも時間がかかったのと、変わらず亀裂から毎日のように光る手が伸びていたので、警戒していたらこんなに時間が経ってしまった。
家族達がちゃんと食事を貰っているかも分からないんだ、急がないといけなかったんだけれど、何故かそこは大丈夫だと思っている。何故なら、相手は私を呼びつけるために、家族を連れ去った可能性が高いからだ。そう思うと、人質としての価値がある以上、家族を無下にする事はないかと思う。
あとはまぁ、ルリアちゃんの女の子講座をしていたのもある。
「何でこんな……くそ。俺は折れねぇからな。女になる気はないからな!」
『フリフリの可愛いスカートつけながら言われてもな』
「履きたくなかったよ!! だけど、女の子なんだからって無理やりお前らがな! というか、そっちは短パンにニーソかよ!」
『私は太ももフェチだ。短パンニーソこそ、太ももの黄金線が……』
「分かった分かった、変態カマホモのーー」
「ルリアちゃんはやっぱりモフモフのーー」
「悪かった! っていうか、このくだり何十回やる気だよ!」
『君が繰り返すから。物覚えが悪いね』
というのも、この一週間かなりやったからさ、このやり取り自体が腐ってきているよ。そろそろ止めないとね。
さて。そんな事を話ながら、神龍の住む山、ノディエル山の麓にたどり着いた。
「うわぁ。とても高い山ですね~頂上付近は雲がかかってますね~」
「そのせいで、頂上が見えなくないか? いったい何千メートルあるんだよ」
『あれは、確か神龍の幻影魔法とかで、実際はあそこまではなかったはず。えっと、1500メートル程かな』
「それでもそこそこだわ」
『富士山の半分程度だよ』
「そう言われてもなぁ」
「フジ、サン?」
あぁ、リーシアさんだけ首を傾げちゃったよ。
とにかく、普通の山登りよりも大変なのは確かだ。気を付けて登っていかないといけない。
というか、何年も屋敷から出なかった私にとっては、いきなりハードルが高い気もするけれど、行くしかないんだよな。
◇ ◇ ◇ ◇
神龍の居る神山までは、約2日かかる。到着した日は、陽射しがポカポカと暖かい、良い登山日よりとなりました。
いざ、意気込んで登り始めたのは良いものの、こっちはろくに運動していなかった箱入り娘が一人と、女体化直後で、体力が男の頃より落ちてしまった娘が一人。つまりーー
「ひぃひぃ。ま、待て。女の身体って、こんなに疲れやすいのか?」
「うぅ、はぁはぁ……」
『君はまだ、運動していたでしょ? 私なんか、全くしていなかったから……キッツイ』
この山登りはかなりキツいものになってしまった。覚悟はしていたけれど、ここまで駄目だったとは……。
「あの、お二人とも。まだ歩き始めて5分ですよ」
ちなみに、リーシアさんは息切れひとつない。慣れてるのかな?
『なんでリーシアさんは疲れてないの?』
「そりゃ、私はエルフですから。自然には常に触れていました。当然、山登りなんてしょっちゅうやっていましたよ~それにお二人も、出発時は凄い余裕そうな感じでしたのに、まさかここまで何て……」
若干リーシアさんが引いている様な気もするけれど、仕方ないでしょ。まさか自分が、ここまで体力落ちていたなんて。
「はぁ、はぁ……な、なんでこの身体はこんなに……男の時につけた体力くらい、引き継げよ……」
そんな私の横では、ルリアちゃんも息切れしながら文句を呟いている。
「お二人ともーー」
そんな私達を見て、リーシアさんが何か言いたそうになってる。これは幻滅させてしまったかな。
「とっても女の子らしくて、羨ましいです。可愛い~」
「んなっ!? 可愛くない! 男だ、俺は!」
『私も断固拒否する。可愛いと言われるのは何か違う』
リーシアさん、引いてるんじゃなくて羨望の眼差しを向けていただけでした。
エルフだって可愛いと思うけどね、と言いそうになったけれども、そう言えばリーシアさんも何百年とか生きてたっけ? 感覚が違うんだろうな。
「お二人とも頑張って下さい。休憩出来るところで小まめに休憩すればいけますよね?」
「そうだな。ちょっと時間かかっちまうだろうが、仕方ない。戦闘もあるだろうし、それを考えたら無茶は出来ねぇ」
『そもそも戦闘にはならないけど』
「そりゃ、お前がいたら戦闘になんねぇわ! ただ、ここは神龍の山だろ。何があってもおかしくないって言ってんだ」
『なるほどね』
それならそれで、警戒しながら登っていくしかないね。
◇ ◇ ◇ ◇
そこから登り続ける事、約2時間程。
「あ、お二人とも~この先、開けた場所に出れそうです~丁度お昼時ですし、ご飯にしましょう~」
「お、おぉ……はぁ、はぁ。やっとか……ぜぇ、ひぃ。この山、キッツイ……ぜぇぜぇ」
「はぁ、はぁ……うぅ」
『割りと急勾配な上、岩肌の多い山だったなんて』
これ絶対、上級者向けの山だよ。しくじったなぁ。
「神龍の住む山ですし、そうそう人が来られないようにはしていましたね~」
途中で割りと魔術的な罠があったり、道が入り組んでいて、突然現れた森から脱するのに時間を使ってしまったよ。
野生動物は出なかったので、戦闘とかはなかったけれど、かなりキツイ思いはしたね。
「お~凄く景色が良いですよ~二人とも~!」
ただまぁ、この先はその苦労をしたから味わえる絶景があるようだね。リーシアさんがあんなに高揚しているのは、初めて見たな~それだけ良い景色なんだね。
私達も最後のひとふんばりで、何とかリーシアさんのいる場所まで登ってきた。
するとそこには、この大陸を一望出来る程の雄大な景色が広がっていて、色とりどりの花と、日光の当たり方で光り方が変わる、とても変わった野草が広がっていた。
岩肌だらけかと思ったら、ここはこんなにも草花の生い茂る綺麗な場所だったなんて。これは、途中の険しさがあっても、また見に来たい程だよ。今度は家族皆でね。
「ふふ。ここまで雄大となると、やることは1つ」
「え?」
子供みたいな事をするつもりかな、ルリアちゃんは。
「ヤッホー!!!!」
ですよね。
『ヤッホー!! ヤッホー! ヤッホー……ヤッホー』
おぉ、ちゃんとこだましたね。
それなら、私もちょっと鬱憤を晴らしたいな。そして、私も大きく息を吸い込んで、思い切り叫んでやった。そう、こんな所まで来る事になってしまった原因を作った張本人、この山の主への鬱憤をね。
「神龍のバカ野郎~!!!!!!」
『バカ野郎~!!!! バカ野郎!! バカ野郎! バカ野郎……バカ野郎……バカ……』
こいつがこんな事をしなければ、今も私はあの屋敷で悠々と過ごしていたのに。
「なんだとぉお!!」
とか叫んだら、急に山の頂上が動き出し、私達の足場までグラグラと揺れ始めた。
「お前そこはあべこべにしとけ、ボケェ!!」
『まさか、張本人がそこに居るとは思わなかった。ごめんなさい』
何というか、とりあえずごめんなさいと謝っておいたけれど、先に神龍に謝るべきだったよ。
この山、頂上の殆どが神龍の体で、山自体は台形みたいな形をしていた。その台形の部分に神龍が寝ていて、背中の尖った部分が山の山頂に見えていたんだ。
つまり、今私達の目の前に神龍の顔があるんです。
「誰だ、私の事をバカと言った奴は~」
「あ、こいつです」
『ちょっと、真っ先に売らないでよ。いや、ごめんなさい。あなたが行った事で、私に色々と面倒くさい事が起きたので、ストレス発散をと』
すると、神龍はギロリとこちらを見て、鼻息をブフゥと私達に向かって浴びせてきた。ちょっと臭いんですけど。
「お前か。世界改変をして、この世界をめちゃくちゃにした奴は」
『あ、はい。え? めちゃくちゃ?』
「そうだ。魔王や魔族をお前が消したから、この世界の光と闇のバランスが崩れてしまったんだ。おかげで、人間達に闇が纏わりついてしまい、人間社会の維持が出来なくなりつつある」
そんな弊害がと思ったけれど、そもそも私のいた世界でも、闇に落ちた様な人間なんて沢山いたし、維持が出来なくなるなんて事は……。
「バランスが取れていない今では、闇が人々を魔族にしようとする。お前の消した魔族を、人間どもで補おうという訳だ。それを我々だけで止めるのは不可能に近い。というか、お前のスキルのせいだからな、お前がこの世界から消えれば、お前のスキルの効果も消える。よって……」
『あの、私を消す……何てことに』
「なるわけだ!!!!」
「わぁぁああ!!!!」
咆哮と同時に、何か光の弾みたいなのも放たれて、私を貫きそうになったよ。思わず避けて何とか交わせたけれど、あんなの次交わせるかな。というか、何とかして説得しないと。それと、私の家族が捕らわれている場所も探らないと。
やっぱり、大変な事になってしまったよ。