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3話 旅の仕度

 さて、私の手により美少女になってしまった、元男性のルヴォイル君改め、ルリアちゃんの化粧と着替えも終わったし、早速八聖神の住む山に向かいたいんだけれど……。


「止めろ止めろ!! 今すぐに顔を洗わせろ!!」


「まぁまぁ、ちゃんと綺麗にしないと台無しですよ~」


 リーシアさんとルリアちゃんがもみ合ってるんだよね。リーシアさん的にはまだまだ足りないらしい。私はナチュラルメイクで納めて上げたので、殆ど変わりはないんだけれど、リーシアさんはガチメイクしようとしているし、流石にそれは女性になり立ての人には厳しいかな。


『リーシアさん。その辺りはもう少し慣れてからじゃないと』


「あらあら、残念です」


「はぁはぁ。お前ら……くそ、良くも俺をこんな目に……」


 悔しそうにしているルリアちゃんだけど、1つ聞いておかないといけないことがあったんだ。


『どうやって釈放されたの?』


「釈放って……俺を犯罪者みたいに。いや、アレだよ。俺の天恵スキルを言ったら、1つ重大な依頼を達成出来たら、罰金だけで済ませてやると言われたんだ」


 それが、今回の件ということか。


「それだけ天恵スキルを持つ者は、ギルドにとっては有望株なんだよ。無くすには惜しいからな、何かと理由を付けては、天恵スキル持ちの冒険者を確保してきたんだ」


 なるほどね。それを上手く扱えていれば更に良いって感じか。確かに、ルリアちゃんは私達に対してはとんでもない事をしたけれど、それ以外ではあんまりあのスキルを使っていなかったね。ちゃんと節度は守っているようだね。


『さて。いつまでも私の屋敷で遊んでいる訳にもいかないし、神竜の居る山に向かおうか』


「そうだな。早く終わらせて、ギルド長にお前のスキルを無効化して貰うよ」


『あれ? 本部の中だけでしょ?』


「……あぁ、そうだった……くそ。何とかして、お前のスキルの無効化を探さないと!」


 項垂れている所悪いけれど、もう何年も私が探していて、それでも見つかっていないんだから、割りと絶望的だよ。


「それより、お前達は装備は整ってるのか?」


『装備?』


「とは?」


「おい、マジかお前ら……冒険者の心得でも読め!」


 思い切り分厚い本を叩き付けられてしまった。別に冒険者になろうとしていた訳じゃないから、知らなくても仕方ないだろう。


 とりあえず、ルリアちゃんから渡された本に目を通しておこう。


「これ、昔の魔王討伐時代の頃のですよね。まだ有効なんですね」


「当たり前だ。街の外や村の近くは盗賊がいるし、その盗賊達がかなり屈強だろう? そうなると、今いる冒険者達はより良い装備を求める。この制度は、それにピッタリと合ってる。ニーズが合ってるってやつだ」


 なるほど。必要な箇所に付箋があって、この人かなり熟読している。それで、その部分が重要らしく、要するに鍛冶屋の利用についての注意点と、鍛冶職人との提携事業に関してだね。


 鍛冶屋にも色んな人がいて、それぞれが得意不得意な物がある。自分に合った装備、それを最高の状態で仕上げてくれる職人とをマッチさせるためのシステム『鍛冶屋.com』ってなんじゃこりゃ? これ絶対、転生者や転移者の仕事でしょ。


 まぁ、冒険者登録している人達はこれにも登録して、鍛冶屋を検索したり、職人を仲介して貰ったりしているのか。当然手数料はかかるけれど、ここで紹介して貰った方が、より自分に合った質の良い装備が手に入るので、必ず登録するようにって書いてある。


「お前達は冒険者登録してねぇけど、そういう人でも登録出来るし、利用は出来る。何せ、自分の身を守るのはいつでも装備次第だからな。貴族でも、命を狙う暗殺者対策にとかな」


『そういえば、私の父もお抱えの職人さんがいたね』


 私の短剣も、ついでにと用意をしてくれた。凄く手に馴染んで使いやすいんだ。

 そうなると、父が利用していた職人さんに頼んだ方が良さそうかも。


「なんだ。とっくにいるんじゃねぇか。それじゃ、そいつに連絡して、装備を整えて貰うと良いんじゃねぇか?」


『と言っても、連絡先知らない』


「この国にいるどっかの街の職人だろ? 片っ端から行ってみれば、その内見つかるだろう」


 それもそうだね。そんなに遠く離れた所を利用するなんて、余程じゃないとないだろう。


 というかちょっと待って。


「私の父が利用している、お抱えの鍛冶屋職人さんが、ちょっとした用事でここに来る」


「すいません~ヘルウォードさ~ん!」


「…………」


「…………」


 そんなジト目で見られても困るな。万能なんだもん。あべこべにならないようにだけ気を付けていれば、本来ならかなり使えるスキルなんだよ。


「あれ? 留守ですか?」


「はいはい~!」


 いけないけない、呼んでおきながら父はいないんだよ。事情を説明しないとね。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「なるほど。分かりました。では早速」


 やって来てくれた中年くらいの男性職人さんに、私はあらかた事情を説明した。そうしたら、職人さんは納得したように頷き、早速計りや何やら色んな道具を出してきた。


「ミレアお嬢さんが行かれるとなると、あなたの父親に怒られないよう、しっかりとした物を用意しないといけませんね」


『宜しくお願いします』


 テキパキとサイズを測ってくれているけれど、こっちは女子なので、その辺りは配慮してくれているよ。


「ところで、ミレアお嬢さんはどういうのが良いか、分かりますか? しっかりと身を守る重装備か、動きやすさ重視の軽装備か」


「う~ん」


『動きやすいのかな』


「なるほど。天恵スキルの関係からも、その方が良さそうですね。分かりました」


 そう言って、色々と書き込みながら順調に進んでいくが、その途中で職人さんが気まずそうな表情をする。


「あちゃ、いっけない。軽装備となると、ミスリルと水晶鉄石がいるが、どちらも切らしてた。商人は4日後だし、そこからとなるとかなり時間がかかります」


「お、採取クエストか? 良いねぇ。やっぱり、異世界物はこうじゃ……おい、ミレア。頼むからスキルはーー」


『ミスリルと水晶鉄石、普通に家にある。素材室にあったかな』


「……ちっ、貴族様がよぉ」


「あ~ルリアちゃんって、いつからケモーー」


「分かった、分かった!! 悪かった! ケモ度100%とかにするんじゃねぇ! それもう、ただの獣だからな!」


 何でバレたんだろうね。まぁ良いや。


 とにかく、職人さんと一緒に素材室に行き、必要な素材を持っていって貰う事にした。


「いやぁ、すまんねぇ。金額は頂いた材料費分は引かせて頂くよ。数日で出来るから、こちらに届けますよ」


 それから、職人さんは自分の店に戻って行った。完成するのは数日か。それなら、出発はそれからか。


 それまでにも、何度かスキルで戻せるか試してみよう。


「そうだ、ミレア。お前あんまり天恵スキル使うなよ」


『そう言われても』


「俺の勘だがな、あのスキルを使う度に、空の亀裂が広がっているような気もするんだ」


『そんな馬鹿な』


 そうだとしたら、私がもうだいぶその天恵スキルを使っているんだ。とうに亀裂は大きなものになっているはず。


『まだそこまで広がっていないから、天恵スキルだとしても、何か条件があると思う。というか、ルリアちゃんはあの目は見てないの?』


「目? なんだそりゃ」


 そうか。まだ見たり聞いたりはしていないようだね、あの目と声。今はあるかな? どうせならそれも見て貰った方がいいかな。


 私は手まねきして、ルリアちゃんに再度空の亀裂を見て貰う事にした。


『あるか分からないけれど、目とか声がーー』


「……いや、待て。なんだアレ?」


「そうそう」


「目とか声じゃねぇよ!! アレいつからだ!?」


 ルリアちゃんが驚いた声を上げるから、私もそちらを見ると。


「…………なぁに、あれ」


「お前も初見かよ!」


 例の空の亀裂から、手が伸びてきている。


 その手は、光の粒子の様な物で出来ていて、淡く光っている。それが地面に向かって伸びて、バタバタさせている。


「く、くそ。大変なのを落としちゃった! どうしようどうしよう! あれが住人に拾われたら、またこの世界がぐちゃぐちゃになっちゃうよぉ!!」


 何か落とした? しかも、その手が伸びている先は神竜の住む山じゃん。私達が向かおうとしている所だよ。


 もうなんか、一気に行きたくなくなっちゃった。


 ちなみに、手の方はしばらくしたら引っ込みました。当然、ちょっと亀裂が広がっていましたよ。

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