2話 ギルドからの応援要員
一夜明け、当たり前の様に一緒のベッドで寝たリーシアさんを、私の尻尾からひっぺがし、再び家族達を家に戻せるか試してみた。
「…………」
結果はまぁ予想外で、家族達が戻れた気配が無く、変わらず屋敷内はシンとしていた。
そうなると、もう分からない。
死んではいないのは確かだ。スキルの発動はあったけれど、天恵スキルの効かない相手として、無効化された感じだ。
常に家族全員に触れている……となると、翼か何かで覆っている? それとも単純にめちゃくちゃ大きくて、背中に乗せたままとか?
ちゃんと竜王のおとぎ話を聞けば良かった。ファンタジーでは良くあるものだしと、あんまり興味が湧かなかったから、子供の頃はそんなにせがまなかったんだ。両親は困っていたようだけど、今となってはちゃんと聞けば良かったよ。今からでも遅くないとは思うけど。
「おはようございます。ミレアさん~」
『おはよう。そうそう、竜王の大きさって知ってる?』
「え? 今更ですか?」
『ごめん。子供の頃、あんまりおとぎ話に興味なくて、聞いてなかったんだ』
「そうなんですね。ん~でも、だいたい見上げるくらいの大きさだって書かれていたので、そんなにビックリする程の大きさではないですよ」
『そっか』
「あれ? まさか……家族様を戻せないのですか?」
『うん。まだ無効化されてる』
そうなると、相手が山のように大きくて、その背に乗せられてるというのも無いか。
「あ~もしかして、八聖神の加護ですかね?」
『それ早く言ってくれる?』
そんなのがあるんですか?! そういうものがあるなら、私の天恵スキルがずっと無効化されているのも納得だよ。
「すいません。これもおとぎ話にあるので、てっきり知ってるかと。その上で言ってるのかなって思っていたので……えっと【かの者の傍にいる者達は、聖なる加護により、悪しき天恵の力を弾き飛ばす】って書かれているのですが……って、ミレアさん?」
『ちょっと待って、天恵スキルが悪しき物?』
「えぇ、まぁ……おとぎ話ではそういう位置付けですね。何せ、本来ならキツイ修行の末に手に入れられるものを、お金を払ってその辺りを誤魔化して得ているので、神々も怒っているとか」
おっとっと……ということは、あの亀裂から覗いていた目とか声って……。
「あ、そうなると。ミレアさんが見たっていう、空の亀裂から覗く人達って……」
『神様?』
「かも知れませんね~凄いじゃないですか~」
いやいやいや、凄くない凄くない。多分、思っている以上に私の立場がヤバくなっているかも。
そんな事を思案している間に、リーシアさんが屋敷内にあったもので、軽く朝食を作ってくれた。
「流石は爵位のある家ですね~沢山の豪華な食べ物に、保存のきくものまで。あ、お口にあいますか?」
カリカリに焼いたパンに、野菜のスープ、それと現代で言うところのヨーグルトだね。後は果物が何個か。朝食としてはバッチリなんですよ。
『リーシアさんも王族でしょ。問題ないです。というか、王族に朝食用意させている私も私だよ。お昼は私がするよ』
「あ、いえいえ。お気遣いなく。王族って意識も無いですし、こういうのは好きなので~」
そうはにかんだリーシアさんはとても素敵だったけれど、どこか陰もあるんだよ。もちろん、リーシアさんの家にも問題が無いわけではないだろうし、いつか話してくれたら良いんだけど。
なんて朝食を味わっていたら、玄関から人を呼ぶ声が聞こえてきた。今朝食中だけれど、ギルドの人かな。調査について何か分かったなら聞かないといけないし、私は急いで玄関へと向かった。
「おぉ。ミレア様で宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
『何かご用ですか?』
「失礼。私はこの辺りを取り仕切る、ギルド支部衛兵軍所属の、部隊長をつとめています、ナーガンと言います。ナーガン=ヤーガンです」
な~んか、ややこしい名前の人だけど。ギルド関連の人ですね。確かに、兜はないけれど、頑丈な額当ては付けてるし、重そうな鎧も身に纏っている。それでいてスキンヘッド。更に髭もあるとなると、それなりの貫禄が出てくるね。
「あなたの家族の事ですが」
『あ、はい。何か分かりましたか?』
「はい。ヘルウォード家に恨みのありそうな人を当たりましたが、そもそもあまり恨みを買っていなかったようで、そのような人物は出てきませんでした。それで、屋敷にあった魔力残渣を調べた所、かなり強力な魔力の持ち主だと分かりました。恐らく、八聖神かと……そうなると、我々ではどうしようも出来ず。それを本部に連絡をしたところ、今日応援を寄越すと。それと、ミレアさんにも手伝うようにと言われています」
なるほど。ギルドでもそう判断したんだね。それで応援となると、八聖神に対抗出来る人かな? 強い人だと良いんだけどな。
「ミレアさん。間違ってスキル暴走しないようにして下さいね」
「うぐっ」
『努力します』
よほど変な人じゃなければ大丈夫だよ。
「お昼頃には着くようなので、私はこれで。まだ住民に聞き取りをしないといけないので」
八聖神以外の可能性も考えて動いてくれているね。
そんな訳で、私達もその人が到着するまでは屋敷で待機になった。
◇ ◇ ◇ ◇
お昼を過ぎ、リーシアさん特性の麺料理を堪能した後、ようやくそのギルドからの応援要員の人がやって来た。やって来たんだけど……。
「ふっふっふっふっ! ようやくお前でもスルー出来ないイベントが発生したな! だが安心しな! このルヴォイルが来たからには、大船に乗ったつもりでーー」
「わぁ~なんて可愛らしい美少女~」
「えっ? いや、おい……まっーー」
ーーしばらくお待ち下さいーー
「やったな……おい。やってくれたな、こら!!」
『そんな可愛い顔で凄まれても』
まさか応援でやって来たのがルヴォイル君だったなんて。どういう手を使って釈放されたのか分からないけれど、あまりにも予想していなかった人物だったから、ついうっかりとながらも嫌味も込めて「なんてたくましい男性~」って、呟いちゃいました。もちろんあべこべで反転して、先程の言葉になっちゃって、もう1つのスキルで現実化しました。
というわけで、ルヴォイル君は僕よりも小柄で、銀色のインナーカラーの入った、長髪ストレートの可愛らしい女の子になっちゃいました。
「戻せや!!」
『戻せません~』
「何とかなんね~のかよ!!」
『何ともなんね~の』
「く、くそ……お、俺の異世界ライフが……ハーレムエンドがぁ……」
ろくでもないもの目指してたね、この人は。尚更女の子にしてしまって良かった気がする。
『まぁまぁ、女の子も悪くないよ』
「カマホモ野郎は黙ってろよ」
『ほほぉ。そういうこと言うなら、ケモ度80%くらいのモフモフ獣人にして上げようか?』
「止めてください、勘弁してください。これ以上は……」
おぉ、泣きそうな顔で訴えてきたけれだ、今のルヴォイル君は美少女だから、どこかグッとくる表情……待て待て。中身クソ外道のルヴォイル君だってば。
『くっそ。その顔でそれは止めてくれる』
「ふふ、そうかそうか。こういうのが効くのか」
いけない、変な事を覚えられてしまった。これ以上は調子に乗らせないようにさせないと。
『とにかく、君は今日からルリアちゃんだね』
「おい、止めろ! 絶対に戻ってやるからな! なんか絶対どこかに、これを打ち消す事が出来る奴とかいるだろう!」
どうだろうね。私がこの姿になってから数年経つけど、未だに見つかってないからね。
『まぁ、そのダボダボの服のままじゃ、見えそうで危ないから、私のお古で良いなら服貸すよ』
「くっ。確かに……お前のお古ってのもあれだけど、文句も言ってられないか」
『あ、それと。髪のセットの仕方とか、佇まいとか歩き方とな、言葉使いもだけど、女の子としての行動はちゃんと覚えてね。変な目で見られるから』
「そうか。割りと大変だな、女の子も」
『慣れたら楽しいよ』
「そうなのか?」
なんて事を話ながら私の部屋に案内していると、ずっと無言で見ていたリーシアさんがポツリと呟いた。
「お二人とも、そういう素質があったのですね~楽しそうですよ」
「んなっ!! そんな事あるわけないだろう!」
「目一杯楽しんでるよ! あっ……」
思わず言ったからまた逆になっちゃったじゃないか。仕方ない、ルリアちゃんに可愛いお洋服着せたり、お化粧とかして上げよう。ミッチリと母さんから教わったからね。
「待て待て。無言でどこへ連れて行くんだ、お~い! 尻尾振って楽しそうだな! それどころじゃねぇだろう!」
『ルリアちゃんのせいです』
「その名前も認めねぇ!」
「あらら。微笑ましいですね~姉妹みたい~」
それは勘弁して欲しいんだけれど、第三者から何か言われたらそう言った方が楽かもしれない。後でルリアちゃんと口裏合わせておきましょう。