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7話 ナニアレ

 空の亀裂の事を言って、世界の終わりだと思っている街の人達は、皆さん見事に家に閉じ籠っている。

 街の道路の至るところには、色んな落書きをされ、樽とか良く分からない液体とか、ビンやらゴミやらが散乱していた。


『これは、話を聞こうにもって感じだ』


「うぅ~ん。まともに取り合ってくれる人もいない感じですかね」


 話が出来ないと先ず意味がない。何として街の人と話を……と思っていたら、向こうから千鳥足になっている男性がやって来ている。ナイスタイミングだ。こういうの、ご都合主義とか言うけれど、まぁ良いでしょう。


『ごめん、リーシアさん。ちょっと話しかけて』


「え? 私!?」


『これで話しかけて気付かれると思う?』


「あ~なるほど。というか、それなら私が着いてきた方が良かったじゃないですか。1人でここに来て、どうするつもりだったんですか?」


 痛いところを突いてくるなぁ。その時はその時で、頑張って話すよ。今はリーシアさんが着いて来てくれているから、そこは活用しないとね。


「あ、なんか言わなくても良いです。何となく分かりました」


『何も言ってないのに』


「目で語っていましたよ」


『そんなバカな』


 目は口ほどにものを言うって? そんなバカな。いや、でも……出ていたかもね。


「あの、すいません。ここの街の人達はどうなーー」


 そんなこんなでリーシアさんが話しかけてくれたけれど、途中で止まったぞ。いったいどうしーー


「お、うへ。えへ、えへぇ。エルフさんだぁ。巨乳エルフさんだぁ~抱かせろぉ~!!!!」


「君は足もつれて転ぶ!」


「ぐべっ!!!!」


 はい、もう正常じゃないのが分かったよ。

 目が虚ろになってて、涎も垂れていて、服なんかだらしなくヨレヨレになっていて、異常そのものだった。その上、そんな事を叫んで走ってきたから、急いでそう叫んだよ。ただ、普通に転んだんじゃなくて、脱力していたのか、物凄い勢いで顔面から大の字で地面に激突した。


「ミレアさ~ん!!」


『急いでこの事を門番に伝えるよ』


 泣きそうになりながらしがみついてきたリーシアさんを宥め、Uターンしてさっきの門番の所まで向かった。

 あんな状態、門番さんも気付いていないのか? あまりにも異常だから入ろうともしなかったのかな? いや、それでも職務怠慢過ぎない?


「あ、門番さ~ん! 街の人達、あれは明らかに何かしていますよ! ギルドに報告を!」


 そうリーシアさんが叫んだけれど、門番はあまり慌てる事なくこっちを振り返り、何か派手に舌打ちをしてきた。


「チッ! 何だ、飲まされなかったのか。仕方ない。ギルドに報告されたら面倒だし、お前らもこれで薬漬けにーー」


「あ、それはあなたが飲む」


「起きぬけ一杯きっくぅ~!!!!」


 役満で詰みですね。門番の人が完全にやってくれてたじゃないか。

 多分、そういう薬を門番が村人に売り捌いて荒稼ぎしていたね。ということは、そういう組織と繋がりがあるということにもなる。そこも潰しておかないと。


「うひゃは~! 空が割れて妖精さんと蝶々が舞ってる~赤に緑に青に、グールグールっと。世界の終わりだ~もうなにやっても構わねぇ~!」


『ちょっと強力過ぎない? 1ビンでそれって、どんな濃度?』


 しまったな。この門番と繋がってる組織も炙り出そうとしたけれど、もうダメでしたね。あっという間に危ない人になっちゃった。というか、空の亀裂ってそれの事ですか。

 いや、私が見えているのは違うと思う。そもそもそんな危ない薬なんか飲んでないし、ダメ・絶対だよ。


「ミ、ミレアさん。さっきの薬ってもしかして……」


『何か心当たりが?』


「はい。きっと幻薬の1つで、神話にも出ている、神々がある超人を罰する為に飲ませたというものじゃないでしょうか?」


 その辺りの神話はちょっと良く分からないんだけれど、そういう神話級のアイテムだとしたら、何でこんなに出回っているのかって事になる。


 人々を罰している? 何で?


 神々を怒らせる可能性があるとしたら、天恵スキル繋がりかな。天恵スキル、天恵……あ、まさか。


『それって、私を罰する為とかじゃないよね?』


「…………いや、そんな。ミレアさんは、でも……え~っと」


 お~い、悩むな悩むな。即答してくれ!

 というかちょっと待って、私も自分が罰せられるなんてあり得ないって、堂々と言えないや。


「あっ、ミレアさんもしかして、気付いちゃいました?」


『私、魔族とか魔獣滅ぼした』


「は、はい。あの……その超人というのも、魔族を滅ぼす直前までやっちゃって……それであの、その薬を飲まされたのです」


 それなら問題なのが。


『何でこの街の人達が飲んでるの?』


「そこなんですよ。いったいなんで?」


 そもそも魔族は神々にとっても邪魔な存在じゃないの? 滅ぼしても問題なさそうなのにね。何でだろう……そこに何か、神々ならではの問題があるのかな?


「ここで考えても仕方ないですよね。何の答えも出ないですし」


『そうだね。そもそも罰するというなら、何で私にこんなスキルを与えたんだって話しにもなる。もう、直接神々に聞かないと分からないや』


 変な躍りを始めた門番の前で悩んでも仕方がないから、一旦この事を本部ギルドに報告しておかないといけない。


 連絡用の魔法球は貰っているから、それでとりあえず連絡をしておく。返ってきたのは、後日捜査員を派遣するので、2人はそこから離れて下さいということだった。


 とりあえずリーシアさんと一緒に、本部ギルドの街に戻ろうと向かい始めるけれどーー


「グォルルルル!!!!」


「ひぇ?! 神獣様!? え、何でここまで?!」


 本部ギルドの街に向かう途中にいた、あの巨大な狼みたいな神獣が、目の色を変えて私達の前に立ち塞がった。


 突然飛び出て来たからビックリしたし、何だか様子もおかしい。


『狼さん、こっちの声聞こえてる?』


「あ、あわわ。本当だ、全く喋らない」


「ガルルルル!!!!」


 しかも襲ってきた!


「うわっ! たっ、と!」


 私に向かって頭突きのような突進を仕掛け、更には鋭い爪で切り裂いてもきた。こっちはあんまり戦闘出来ないんだってば。


「くっ、私はあの狼さんより速い!」


 喋り方次第なんだけれど、天恵スキルの効かない神獣でも、対象が自分なら有効になる場合もある。だから、一か八かでそう言ってみた。


「グァルルルル!!」


「ひょっ!? うわっ!」


 ギリギリで避けられている。見えてからでも問題ないから、何とか成功したみたいだ。だとしても、狼さんには天恵スキルが効かないから、動きを止めたりは出来ない。

 それなら、あんまり使いたくないあの方法しかない。これを言うと、どのレベルまでいってしまうか予測がつかない。普通の人なら、強さに底があったり、現在の強さの指標が捉えやすいから、そこまでの事にはならない。


 だけど神獣は違う。強さの底とか、指標が良く分からないしあやふやな場合もある。そんなものよりも強くってなると、最悪私の身体が耐えられない。あれよりも速くとなると、今の速度よりも速くって認識になるから、それは何とか制御出来る。強さとなると、曖昧でザックリとしている。


『あんまり使いたくない』


「ミ、ミレアさん。だけど、早く何とかしないた、神獣さん本気です!」


『分かってる』


 仕方ない。危ないとなったら、強制的にも止めよう。


「私は、あなたより強い」


 神獣をその目に映し、私はそう言った。その瞬間、身体の奥底から未だ感じた事のない力が、爆発的に溢れてくる。


 やっぱり、ダメだこれ!


「くぅ、止め……止める! 私は、まだあなたより弱ーー」


 そう言い切ろうとした瞬間、身体から溢れてくる力の流れが緩やかになってきた。あれ? これならいけるかも。


「すぅ~はぁ~」


 ゆっくりと深呼吸して、それでーー


「グルルルル!!」


「ふっ!」


「ギャンッ!!」


 突撃してくる神獣さんの懐に入り込み、思い切り拳で殴り付けた。すると、神獣さんは口から涎を吐きながら、凄い勢いで後方に飛んでいき、木々を薙ぎ倒して、大きな岩に激突した。


『しまった。神獣さん、死んでない? 大丈夫かな』


 やり過ぎたとは思うけれど、骨が折れた様な音とか、鈍い感触は無かったから、そこまでの大怪我はないはずだ。


「凄~い。ミレアさん! 神獣さんを倒すなんて~」


『いや、めちゃくちゃ危なかったけど』


 とりあえず相手を倒すと、さっきの言葉は効力を失う。そういうストッパーが付いていてくれて助かったけれど、無かったらヤバかったね。


『よし、神獣さんの暴走も報告しないと。何が起こっているんだろう、この世界で』


 そう思って空を見上げると。


「あ、ヤバい。住人と目があった! 母さ~ん!!」


「…………」


「ミレアさん、どうしたんですか? 何か見えたのですか?」


 うん、いや。ナニアレ?


 空の亀裂から、大きな目玉というか、瞳が……え? こっち覗いてた? いや、本当に何あれ。


「もう、だから言ったでしょうが。お父さんの仕事で出た失敗作を、勝手に弄ったらダメでしょう。自分で何とかしなさいって言ったでしょう?」


「だから薬とか、獣達を使ったけれど、何か変な使い方されたし、獣も倒されたし~どうすりゃ良いの!」


「はぁ~もう。あなたが勝手に変な設定付け加えて、失敗作が軽く暴走しちゃったんだから。本当なら、もうお父さんに見て貰うしかないのよ」


「い、嫌だ! 親父にめちゃくちゃ怒られる!」


「それなら、何で勝手に触ったの。言ったでしょう、ちゃんとした処分方で処理しないと、こんな事になっちゃうのよ」


「せ、設定足しただけで人類が発生するなんて思わなかったんだよ。親父がやってるの、俺もやってみたかったし、親父よりも上手く作れるって思ったんだ」


 …………な~んだ、この会話。いや、本当に何で聞こえるんだ? 私は、どうなってーーあ、そっか。もしかして私、幻薬飲まされた?!


『リーシアさん、私幻薬飲まされたかも』


「飲んでないと思いますが……」


『あ、いや。なんかこう、揮発性が高くて、気体を吸い込んだだけでもとか』


「それも無いです。何を見たのですか? ミレアさん」


 それを言ったところで信じてくれないよ。もう目は引っ込んじゃったし、声も聞こえないよ。そうなると、やっぱり幻覚の一種か? ってなっちゃうよ。


『言っても信じられないよ』


 そう書いたけれど、リーシアさんは私の前にきて、身を少し屈めて目を見て言ってきた。


「私は、ミレアさんの言うことなら信じますよ。言って下さい」


 そんな目で見られたら言うしかないよ。信じるも信じないもリーシアさん次第だけれど、まぁいいか。そう言ってくれるなら。


 そして私は、ギルド本部に向かう道中で、リーシアさんにさっき見た事を話した。

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