表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才の無い貴族と毒見少女の憂鬱  作者: そんたく
図書室のお悩み解決王子
6/82

毒見少女の憂鬱 Ⅵ

 前世の知識を使えば液体からの砂糖の抽出はさほど難しいことではない。中学生で習うことだ。

 その方法とは、再結晶である。

 スープの中に塩が入っているとはいえ、その量は塩が液体に溶けきる限界量、つまり飽和量には程遠いだろう。それを砂糖が飽和する量に水を調節し、再結晶で砂糖を抽出する。そして、水分を蒸発させて何度も再結晶を繰り返せば、スープの中から砂糖の結晶だけを取り出すことができるのだ。

 ある程度液体が減ってくると、今度は塩も飽和に達し結晶化し始めることになる。そうなる前に液体を全て蒸発させ、砂糖と塩が混じった結晶を作る。今度はそれをエタノールの性質を使って分離させていく。純粋なエタノールには、塩も砂糖も溶けない。しかし、砂糖と塩が入った入れ物にエタノールを入れ、そこに少しずつ水を加えていくと、水が一定の濃度になった時に砂糖だけ溶けるようになるのだ。あとはその液体を取り出し蒸発させれば、そこには砂糖だけが残ることになる。

 エタノールは蒸留酒をさらに蒸留器にかけていくだけだから、簡単に作ることができるだろう。


「王子様、それはなにかそういう変わった魔法があるということでしょうか?」

「ははは、まあ確かに魔法みたいに見えるかもしれないね」

「魔法ではないのなら、なんというのでしょう?」

「うーん……、『科学』?いや、錬金術っていった方がわかりやすいかな」

「科学……」

「ああ。俺も初めてやることだからいろいろと実験しながらになるけど、きっと大丈夫だ。けど時間がかかるから、すぐにでも始めた方がいいかもしれない」

「はい……!」


 ウィロットの瞳から、再び大粒の涙が零れ落ちる。

 泣き虫な女の子だなと一瞬思うが、年齢を考えれば当然のことだろう。


「王子様、お手を取るのをお許し願えないでしょうか?」

「ええ、許します……」


 突然のことに意味が分からずにオロオロする俺の代わりに、アセリアがウィロットへ答えた。


「ありがとうございます。わたしやわたしの家族は王子様に命を救われました。許されるのであれば、わたしの命は一生王子様のために使います……」


 これは忠誠の誓いという奴だろうか。儀式自体は今まで何度か見たことがあるが、自分に忠誠を誓われるのは初めてのことだった。


「ウィロット、俺にはそんな忠誠を誓う価値なんてないよ……。魔法も使えない、魔法を見ることも出来ない、実際役立たずだから城から追い出されてここにいるんだ。俺は『重要な人間』じゃない。毒見だって本来俺には必要ないんだ」

「そんなことないです!王子様は王子様なのにみんなに優しくて、みんなのために一生懸命お勉強して力を貸して下さいます!王子様が王様になれば、きっとみんな幸せになれると思います!」

「ウィロット、ま、まだやることが終わってないだろ?そういう話はやることが全部終わってからにしよう。それに僕に忠誠を誓うっていっても、君はオルバート家に雇われている身だろ?」

「はい!でも、いつか必ずお金を溜めて自分を買い戻します!そして必ず王子様の元へ伺います!」


 彼女はそう言うと、にっこりと笑った。初めてあった時から暗くふさぎ込んだ表情しか見たことがなかった彼女の笑顔は、まるで雪解けを終えた春の太陽の様であった。


 その日昼食を食べた後、俺とアセリア、そしてウィロットはさっそく砂糖の抽出に取り掛かった。

 最初にスープに残っていた不純物を取り除き、溶け残っていた砂糖も一度全部溶かしきってしまってからろ過、沸騰で水の量の調整、再結晶を繰り返す。

 厨房の一角を借りてそれは行われ、奇妙なことをやっているという噂を聞きつけた人たちで一時期厨房はごった返すこととなってしまった。

 アセリアは最初俺が自分で厨房に入ることに対していい顔はしなかったが、一度再結晶の現場を見に来ると興味深そうに出来上がる砂糖の結晶を眺め、それ以降は何もいうことはなかった。ただ、ネヴィルだけは常に面白くなさそうな表情を浮かべ、ぶつくさと遠巻きに文句を言い続けている。

 そして作業開始から4日が経った頃、エタノール抽出も含めて全ての砂糖の抽出が終わった。


「王子様、これでどうでしょうか?」


 ウィロットが瓶に溜められた砂糖を俺に見せる。

 瓶の中にはごろごろとした氷砂糖のような砂糖の結晶や、細かい砂糖の粒が沢山入っている。不純物を除くために行ったろ過の工程などで多少スープを廃棄せざるを得なかったため、若干の目減りはしているものの大部分は取り出せているはずだ。


「うん、いいんじゃないかな。早くネヴィルに叩き返してやりな!」

「はい!ありがとうございます!」


 ウィロットが瓶を手に取ろうとすると、そこに丁度アセリアに連れられたネヴィルが現れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ