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才の無い貴族と毒見少女の憂鬱  作者: そんたく
図書室のお悩み解決王子
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青い炎 Ⅳ

 俺とウィロットは顔を見合わせる。明らかにいつものようなトゲトゲしさというか、敵対心が感じられない。いや、それを必死に抑えているといったところだろうか。

 現状の戒厳令を理由に訪問を断ってもいいが、ネヴィルに対してこちらが敵意を見せる必要は全くない。俺は視線でウィロットに指示を送ると、ネヴィルとその護衛らしき男を室内に招き入れた。


 俺がこの屋敷に来て1年以上、彼が俺の部屋を訪れたことなど俺の記憶には一度もない。そこには当然、彼の何らかの意思が含まれているのだろうが、それに加えてこの状況下だ。それを破るほどの事態が起きているということなのだろうか?

 微かに拳を握り、どことなく視線も落ち着きなく動いているように見える。その様は、言葉の切り出しをどうするべきなのか迷っているようにも見えた。

 とりあえず俺は話を進めるため、穏やかに話を切り出してみる。


「ネヴィル、どうしましたか?君が俺を訪ねて来るなんて……」

「……ユケイ様、あの、お伺いしたいことがあります。今朝の件はいろいろとお姉様から聞きました。ユケイ様は医学ですとか、あの、(まじな)いについても詳しいのでしょうか?」

「咒い?」


 咒いというのは、この世界に存在する魔法の中の一つで、主に魔女と呼ばれる者たちが使うとされている魔法だ。しかし咒いに関しては資料も極めて少なく、俺もそれ以上のことは全く知らない。

 医学に関しても、今日の一件はどちらかと言えば科学的な判断だ。知識が無いとは言わないが、分野が分野だけに決してあるとは言えないだろう。

 俺はそのままのことをネヴィルに伝えた。


「そうですか……」


 俺の返答を聞いたネヴィルは、重いため息を吐く。

 明らかに落胆した様子だ。

 先日までの彼の暴虐ぶりは、どこへ行ってしまったのだろうか。かといって、このまま彼を突き放してしまうのは違うと思う。


「……力になれるかどうか分からないが、話を聞かせてもらっても良いかい?」


 彼は何度か口を開きかけては言葉を飲み込む。彼の姿に見かねたのか、ウィロットがぶっきらぼうに声をかけた。


「ユケイ様はどなたにも優しいです。わたしみたいな農奴にも力をかしてくれたんですから」


 ネヴィルは一度口をギュッと結ぶが、しばらくの後にぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。


「あの……聞いて下さい……。実は父の体調が、ここ一ヶ月程で急に悪くなっているのです。冬ですから調子を崩すこともありますが、なんといいますか病というより力がどんどん抜けていっているような……」

「力が抜けている?」

「……はい。医者が見ても原因がわからず、特に当てはまる病も思い浮かばないと……」

「なるほど……。だから何か咒い……、いや、ネヴィルは(のろ)いのようなものじゃないかと思っているのかい?」

「はい。実は昨日、マーフがお父様の部屋で夜中に人魂を見たというのです。部屋の前を通りかかった時に中に青い光が見え、扉を開けるとお父様のすぐそばで青い炎が上がっていたと……。その炎はマーフが見つけると、逃げるようにスッと消えたといいます」


 朝ウィロットが聞いた人魂というのはこのことだろう。

 その時は話半分に聞いていたが、料理長であるしっかり者のマーフが見たというなら、面白半分で広まった噂ということではない気もする。


「青い人魂……、青い炎……」


 なんだろう。頭の中に微かに引っかかるものがある。今まで何度か目撃されたという人魂は、全てその部屋でのことなのだろうか?

 夜通しオルバート子爵の部屋に張り込み、実際にその炎を確認できれば、その正体を明らかにできるかもしれない。まあ、当然そんなことが許可されるわけがないだろう。


「……とりあえず、オルバート子爵の部屋を見せてもらってもいいかな?何もわからないかもしれないけど」

「ありがとう、ユケイ様!どうか、父を助けて下さい!」


 部屋を出ると外はもう日が落ちかけ、夜のとばりが段々と降りはじめる頃だった。子爵の部屋にはアセリアも同行することとなり、俺とアセリア、ネヴィル、そしてウィロットというメンバーで行くことになった。


「なんでお前が付いてくるんだよ」

「わたしはユケイ様の専属メイドですから、おそばを離れません」

「チッ……」


 ネヴィルはウィロットを相変わらず邪険にはするが、どうやら前ほどの攻撃性は無いように見える。

 アセリアができる限りネヴィルと過ごすように努力してくれているらしく、そのおかげで少し落ち着いたということだろうか。


「お父様、失礼します」


 アセリアが子爵の部屋をノックすると、そのまま部屋の中へと入る。入口の扉を閉めると、中からメイドが1人出迎えてくれた。

 子爵の部屋は、二階の一番奥まったところにあった。

 子爵はちょうど眠っており、メイドの話だと今眠りについたばかりだから起こさない方がいいということだ。


「少し暗いな……」


 俺がそうつぶやくと、ウィロットがさっと灯明を取り出し、魔法でそれに火をつけた。

 炎が風に揺らめき、影が大きく揺れる。


「今この部屋にはどれくらいの明かりがついているんだ?」

「そうですね、この部屋はかなりの光の魔法がかけられてますから、まだ昼間と大きく変わらないくらいです。ウィロットが持っている火の明かりが見えないくらいですね」

「それより、少し寒くないか?」


 ネヴィルの声を聞いたメイドが、慌てて一つだけ開いていた窓を閉めた。

 同時に炎の影も動きを止める。


「申し訳ありません、空気の入れ替えをしておりました……」

「いや、責めたつもりじゃない。それより今日の夜番はお前か?」

「はい、そうです」


 夜番というのは、夜通し部屋に待機し、夜の間のお世話をする役目の者を指す。

 であれば、彼女に聞けば人魂のことが何かわかるかもしれない。


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