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才の無い貴族と毒見少女の憂鬱  作者: そんたく
図書室のお悩み解決王子
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青い炎 Ⅲ

 それから俺は、部屋から外に出ることを禁じられた。俺だけではなく、この屋敷の要人であるアセリアも、ネヴィルも当然そうだろう。

 食事も自分の部屋に運ばれてとることになったのは、当然安全に配慮してのことだ。突然の殺人事件が起こったのだ。その配慮は確かに必要だと思う。


 俺が奇異の視線を集めてでも確認したかった事。それはビスが他殺であることを確定したかったというのもあるが、それ以上に毒殺の可能性を見出したかったのだ。


 毒殺というのは、明確な殺意の塊だ。喧嘩や突発的な事故にはない、実行するのに計画と準備が必要になる。誰かが誰かを殺すという意思がなければならない。そしてその意思が俺に向けられた場合、先ずはウィロットが犠牲になる可能性があるのだ……。


 それを理解しているのかは分からないが、今日もウィロットの毒見には迷いがなく、料理を味わう素振りもなく出されたものをあっという間に胃の腑へ片付けていった。

 本当は毒見などしなくていいと言いたいが、この状況ではさらに周りの人間も、なによりウィロットが「はい」と言わないだろう。


 しかし、何故その矛先がビスに向いていたのだろうか?

 今この屋敷の中で、最もターゲットにされる可能性があるのは俺であり、次いでオルバート子爵、そしてネヴィルとアセリアだと思われる。

 そういえば昨日、ビスが見せたあの何かを言いたげな雰囲気。あれはいったい何だったのだろうか?彼が亡くなったこととあの時のことが、無関係とは思えないのだが……。


 とりあえずしばらくは図書室に行くことも出来ないのだ。俺はウィロットに紙とペンとインクを用意してもらうと、学んだことや考えたこと……、そうだ、とりあえず魔法についての考察を纏めることにしよう。

 俺はまだ、魔法を使うことをあきらめたわけではないのだから。


 俺が机に向かって半刻ほど経った頃、ウィロットの様子が明らかに暇を持て余していた。

 最初は部屋の整理や掃除をしていたのだが、今はどうやら床板の枚数を数えているような気配だ。


「あの、ユケイ様。ユケイ様がいっぱい勉強をしているのは、魔法を使う方法を探しているんですか?」


 突然の質問に、心臓がドクンと大きく鼓動した。

 暇を持て余しついでに出てきた質問にしては、あまりにも返答に苦労する内容だ。


「うーん……、それだけじゃないんだけど。まあそれもやっぱりあるのかなぁ」

「そうなんですね……」


 いつの間にか彼女は、何かを深く考え込んでいたようだ。


「わたし、ユケイ様は魔法なんて使えなくてもいいと思います。魔法が使えないから王様になれないとかおかしいです。王様って、そんなに魔法を使うんですか?」

「うーん、王様自身はあんまり魔法を使ったりしないかな」

「わたし、ユケイ様が魔法を使えないって馬鹿にされたり、あの、その……、ユケイ様自身が魔法を使えないからって自分のことを低く見たり、それで……自分のことを大したことないって言ってみたり……、そういうのがとっても悲しいです」


 彼女は足元のただ一点を見つめ、その声は何か心の叫びを我慢しているかのような声だった。

 俺は自分自身、そんなに卑屈になっているつもりは無い。自分のことは正当に自己評価しているつもりだったのだが、彼女の俺に対する評価と俺の自己評価には大きく開きがあるようだ。


「そもそも俺は王様になりたいなんて思ってないんだ。魔法を使えるようになりたいって思ってはいるけど、それは誰かに評価されたくって思ってるわけじゃない。……そうだな、ウィロット、朝散歩した時に見た雪は何色に見える?」

「え?白です」

「そうだね。じゃあ、空に浮かぶ雲は?」

「……白です」

「うん。けど、俺が見ている白と、ウィロットが見ている白は同じ色じゃないかもしれない。かもしれないじゃなくって、魔法の源が常に見えているウィロットたちと俺では、物の見え方は全然違うはずなんだ」

「……よくわからないです」

「そうだよね。俺が魔法を使いたいのは、魔法ってきっと凄く綺麗で素敵なものなんじゃないかって思っているだけなんだ。ようするに、俺は本を読んで魔法とかいろいろ勉強しているのは、単にそれが楽しいからなんだ」

「勉強してるユケイ様は楽しそうに見えないです……。それに雪は白で、白は白です……」

「ふふふ、ほんとかな?じゃあ、雪は解けたら何になる?」

「え?えっと、みず……です。あ……」

「そうだね。水は白くないだろ?」

「はい」

「雪も雲も水でできている。だから、ここから見れば白く見えるけど、よーく近づいてみると、水と同じ色はないんだ。楽しいだろ?これが僕を勉強する理由だよ」

「……よくわからないです」


 そう答えながらも、彼女はにっこりと笑った。

 確かに勉強を楽しんでいたかと言われれば、そうではなかったかもしれない。すくなくとも彼女の目にはそう見えていなかったのだろう。けど、ニコニコしながら読み書きをするものでもないし……。


「あっ!ウィロット、君も読み書きを覚えなよ!」

「えっ!?わたしがですか?」

「うん。いろいろ便利だし、できた方がいろんなことができるようになる!」

「……そうですね。あの、その、じゃあ、ユケイ様が教えてくれるんでしたら……」


 ウィロットの言葉を遮って、不意に「ドンドン!」というドアを叩く音が響く。

 その不機嫌で尊大な音の響きに、扉を開けなくてもその向こうに待ち構えているのが誰なのか分かるようだった。


「どなたでしょうか?」


 ウィロットが外の様子を窺う。


「わたしです。……ネヴィルです」



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