ジョッシュさんからジョルジュさんへ
ジョッシュさんの斬新すぎるご挨拶の余韻で、思考が止まったままの私……。
が、言った本人であるジョッシュさんは、まったく余韻をひきずることなく、きりっとした口調でジョルジュさんに言った。
「ジョルジュ様。今から打ち合わせですので、そろそろ出発しませんと」
「ああ、もう、そんな時間か……。そうだ、ジョッシュ。急だが、打ち合わせの後の今晩の夕食会、キャンセルできるだろうか?」
「……え? 一体、どうされたのですか、ジョルジュ様!? もしや、お身体の調子でもお悪いのですか!?」
ジョッシュさんは驚いたような声をあげた。
同時に、すごい勢いでジョルジュさんに近づき、なんの躊躇もなく、ジョルジュさんの額に手をあてた。
目もぐわっと見開かれ、なんだか、すごい迫力よね……。
ジョルジュさんのことを、ものすごく心配している様子が痛いほど伝わってくる。
が、無残にも、冷気を放つジョルジュさんにその手が叩き落とされた。
隣でククッと笑いだしたラルフ。
「ほら、ジョッシュって、過保護な乳母っぽいだろ?」
確かに……。
たくましく、精悍な美丈夫のジョッシュさんが、心配性な乳母にしか見えなくなってきた。
ジョルジュさんが氷のような視線をジョッシュさんにむける。
「やめろ、ジョッシュ。熱などない」
「それなら、何故、夕食会をキャンセルされたいのですか? 責任感の強いジョルジュ様が、急にキャンセルするなんて、今までなかったではないですか!? やはり、ジョルジュ様……どこかお悪いのでは? お優しいジョルジュ様ですから、私に心配をかけまいと隠しているのでは? そうであれば……」
「だから、ちがうと言っている。私の体調は万全だ」
思わず震えてしまうほど冷たい声をだすジョルジュさん。
が、ジョッシュさんはひるむことなく、心配そうな表情でジョルジュさんを見つめたままだ。
なんというか、ジョッシュさんの愛が重い……。
そして、ジョッシュさんからジョルジュさんへ、悲しいくらい一方通行の愛よね……。
でも、これが無償の愛なんだね、ジョッシュさん……。
ジョルジュさんがあきらめたように息をはくと、ジョッシュさんに言った。
「夕食会をキャンセルできるのであれば、リリアンヌ嬢と夕食をとりたい」
「……は? ジョルジュ様? 今、なんと、おっしゃいましたか!?」
「リリアンヌ嬢と一緒に夕食をとりたい、と言った」
「ええっ!? 今まで、ジョルジュ様が、自発的に、だれかと食事をしたいなどとおっしゃるのは初めてなのですがっ!?」
大声をあげるジョッシュさん。
心配そうな表情から一転、今は鬼気迫る表情だ……。
その顔を見ると、ジョルジュさんが私と食事がしたいと言い出したのは、どらやき仲間だからと、説明したくなった。
でも、そうなると、どらやきについて、一から説明しないといけないし……。
「落ち着きなさい、ジョッシュ。まあ、気持ちはわかるけどね……。私も、お兄様がこんなことを言いだすなんて、今日まで想像すらしていなかったわ……。もろもろ説明はあとにして、端的に言うと、リリーに会って、お兄様に人間の心がうまれてきたの。この短時間でね」
アイシャの言葉を聞いて、ジョッシュさんが、はじかれたように私を見た。
目が血走っている。
怖いですよ、ジョッシュさん……。




