事故物件
「今日の講義すっごく眠かった~」
「倫理?民俗学?」
「両方~。二人は?」
「倫理と心理学。」
「同じく!」
私と冴恵ちゃんは、同じ心理学専攻だからね!
「二人だけ専攻一緒なの羨ましいな~。いいな~。私も心理学にすれば良かったかなあ。」
茉穂ちゃんは、民俗学専攻。なんか、妖怪の謎を解き明かしたいんだって。変わってるなあ。
「妖怪の謎を解き明かすんじゃなかったの?」
「そうだけどさあ~。一人だけ仲間外れってなんか寂しいんだよ~。」
「じゃあどうする?専攻変える?明日までなら、ギリ間に合うけど。」
「んー、いや、頑張る!」
「「がんばれー」」
「二人とも棒読みじゃん!」
「だって他人事だし。」
冴恵ちゃん、ズバッと言うなあ。
「言ったな冴恵ちゃん!こうなったら…未来ちゃんをコネコネしてやる!」
「なんで私!?」
ほんとなんで?
ほっぺたをこねられるだけだからいいけど。
「ハイハイ、今度スイーツバイキングに付き合ってあげるから。」
「ほんと!?なら許そうではないか。」
「なにそれ私も行きたい。」
私も甘いものが食べたいのだよ。
入学式から、ニ週間。
茉穂ちゃん冴恵ちゃんとは、よく一緒にいるようになった。入学式の日にちょっと話しただけだけど、同じ学部内に他に知り合いがいないからか、なんとなく近くの席に座ったり、話しかけたり、てことが続いて、て感じ。
それに話しや趣味が意外と合って、居心地がいい。
特に茉穂ちゃんは、私と同じで怪談や都市伝説が好きなんだって。
それに茉穂ちゃんは、けっこう撫でるのが上手い。気持ちのいい撫で方を心得ている。さては、妹か弟がいるな!まっ、友華ほどじゃないけどね!
冴恵ちゃんは、あんまりしゃべらない感じ。あと、向かい合って話してても、なかなか目線が合わない。なんでだろね?嫌われてるって感じじゃないんだけど、無視されてるわけでもないし…。冴恵ちゃんからはなしかけてくることもあるし。ま、そのうち聞けばいっか!
とまあそんな感じで、だいたい私か茉穂ちゃんが何か話のネタを持ち出して、冴恵ちゃんが冷静に突っ込む、みたいな流れになることが多いかな。
だいたい今みたいに、講義の愚痴だったり、高校の話だったり、怪談のことだったり、色々。
それで今日は、茉穂ちゃんの講義の愚痴から始まったんだけど、いつの間にかスイーツの話になって、それから…ちょっと世知辛い方に話が進んだ。
「やっぱりバイトするしかないかな~。おこずかい少ないから、ちょっと遊んだり買い食いしたりすると、すぐなくなっちゃう~。」
「私も、そろそろバイト見つけないとなあ。」
「未来ちゃんは、アパートだっけ。たいへんだね~。やっぱり自炊とかするの?」
ちなみに二人は実家暮らし。電車で通ってるんだって。
「先週まではやってたんだけどね。だんだんめんどくさくなってきて…。一週間ぐらいレトルトかコンビニ弁当ばっかり食べてる。」
「体に悪いよ?」
「ウグッ、わ、わかってるんだけどね…。」
だってめんどくさいんだもん。
「それに、お財布的にもけっこう重いんじゃない?」
「まあ、ね。でも、仕送りもあるし、家賃も安いから。そんなにかな?」
「へー。安いっていくら?」
「1万8000円。」
「「え?」」
ムフフ。驚いてる驚いてる。やっぱりあのアパート、スッゴクお得だったんだなあ。
「えっと、今なんて言った?」
「だから、1万8000円」
「なんでそんな安いの!?もしかして、礼金が高いとか?それともものすごい狭くて古いボロアパート?」
「ううん。礼金もの敷金もゼロだし、数年前にリフォームしてるからすごくきれいだよ。3LDKだし。」
「「・・・」」
二人とも絶句、て言葉が似合う表情。いや、そんなに驚くことかな?あ、心理的瑕疵っていうのがあるってこと、知らないのからか!
そう納得して、その事を教えようとしたら、茉穂ちゃんがおずおずとした様子で口を開いた。
「未来ちゃん、もしかして、というかもしかしなくてもそれ、事故物件だよね?」
「え?違うよ?」
「「えっ?」」
いや、そんな信じられないことを聞いたみたいな顔されても…
「事故物件じゃなくて、なんかね。心理的瑕疵有り?だとかで安いんだって。夜中に物音や人の声が聞こえることがあるって、不動産屋さんは言ってたんだよね。だから私、お隣さんがうるさいとかなのかなあって思ってたんだけど。ぜんぜんそんなことなくって、ほんと得しちゃったなあ、て思ってるんだよねえ。」
ほんと、あのアパートすごくいいところだよねぇ。大学卒業してからも住みたいくらいだよ。
「いや、それ事故物件。」
「え?」
「だから、心理的瑕疵有って、事故物件のことだよ?」
「そうなの!?」
「そうなの。」
衝撃的事実!