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地獄の門

 それは、地獄の門であった。

 凝縮され、小さくはあったが、確かに地獄であった。亡者が蠢き、魑魅魍魎がひしめいている。地獄としては極小サイズ、しかしだからこそ、そんな狭い所に長年閉じ込められてきたそれらの怨みは強烈であり、淀んでいる。混ざり合ったように、個としての意識などほぼなくなっている。怨みそのものとも言える、魑魅魍魎。

 長く、永く封印されていた彼らはいつかここからはい出て、生きとし生けるもの全て…いや、死者にさえ自分達と同じかそれ以上の苦しみを味あわせてやりたい。多少の差異はあれど、大なり小なり似たようなことを思っている。そもそも彼らは、地獄に落とされた存在だ。その本質は、身勝手でひとりよがり。そして何より亡者とは、亡者ではない者を引き込み、仲間を増やそうとする性質がある。

 そんな彼らも、封印が解かれなければそのまま永久に幽閉されているはずであった。彼らがいくら怨みをつのらせようと、絶対に内側から破ることなど不可能。それほど、この門を閉ざす封印は強固であった。

 しかしついに封印は解かれてしまった。内側からではなく、外から。


 閉じ込められていた亡者達が、我先にと地獄から抜け出そうとする。濁流のごとくあふれでる、無数の亡者。

 ついに悲願の1つを果たした彼らは、しかしそれで満足することはもちろんない。

 むしろ彼らの本懐は、ここからだ。

 自分以外の全てを怨んでいると言っても過言ではない彼らは、本能の赴くままに目につくもの全てを引き込み、呪おうとする。

 そして彼らは見つけた。地獄から出てすぐ、門のさばに生きている者が一人。彼らにとって、その人間が自分達を閉じ込めていた封印を解いた、恩人言ってもいい存在であることなど、関係ない。

 それも若い女で、眠っていて逃げられることもない。格好の獲物。亡者達は誰一人、それを疑わなかった。


 一斉にとびかかる亡者達。しかし彼らが、その本懐を遂げることはなかった。

 なぎはらわれたのだ。

 “それ”は、いつのまにかそこにいた。

 おそらく、人の形をしている。背は、そこまで高くなく、成人女性の平均ぐらい。ボサボサの黒髪は、引きずる程長い。体はこれまた黒い襤褸に覆われてわかりづらいが、痩せこけ骨と皮だけのような状態。それだけでも異様な雰囲気を放つ存在だが、特に目を引くのはその顔だろう。

 びっしりと、札のような細長い紙が何枚も垂れ下がり、顔を覆い隠している。その紙には、奇妙な文字のような模様が描かれており、さらに不気味さを煽る。


 普通なら、こんな化け物のような姿のモノに近づく者はいないだろう。しかし亡者達は、理性など存在しない怨みだけで行動しているようなもの達だ。

 むしろさらに怨みをつのらせ、“それ”ごと呑み込もうとするが…またしてもなぎ払われるのみ。

 “それ”がしたことは、ただ腕を一振したのみ。たったそれだけで亡者達は、存在を消滅させられていく。抵抗など、無意味だとばかりに。

 しかしなぜ“それ”は、亡者達を滅するのか。そしてどうやって現れたのか。いや、“それ”は最初からずっとそこにいた。少女のそばにいたのだ。“それ”を一言で言い表すとするのなら、『門番』である。“それ”の主が巣くう領域そのものであり、門の役目も果たす少女。その少女を、有象無象から守ることが、“それ”の存在理由。

 故に、少女を害そうとするものに対して、容赦することはない。


 “それ”は、向かってくる亡者達を徹底的に消滅させていく。

 ここに来て亡者達は、ようやくある感情を思いだし始めた。最も原始的で強烈な、死してからは忘れていた感情。すなわち恐怖を。

 亡者達は、逃げようとした。しかしそれは、無意味だった。なぜなら四方を結界に囲まれていたから。邪悪な存在の逃亡を、決して許さぬその結界に阻まれ、亡者達は逃げることはかなわなかった。

 そして、1つ残らず“それ”に消されていった。“それ”は、一度でも少女に手を出した者を、決して許さないのだから。


 全ての亡者を片付けた後、“それ”はちらりと床に落ちている地獄の門──リンフォンに目を向ける。

 しかしすぐに興味を失ったのか、少女を見守ることに専念する。

 …手を出してこない者に手間をさく程、暇ではないのだから。


 実は、その地獄の中には未だとどまっている魑魅魍魎が残っていた。怨みの感情より、残っていた本能が訴えかける恐怖にしたがった結果だ。それが幸運なことであったのかは、本人達にもわからないだらうが。





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「ふわぁ~~。よく寝たぁ」


 けど、布団じゃなくてカーペットの上だから、ちょっと体が痛いかなあ。枕は二つ折りにした座布団だし。それにいくら春だからって、布団もかけずに寝たら下手したら風邪ひいてたかもしれないなあ。気を付けないと。

 というか私、昨日お風呂どころかシャワーも浴びず寝ちゃったんだなあ。今から浴びるかな。


「あ!リンフォン!」


 探せば、すぐ見つかった。目の前の小さなテーブルの上に、昨日のまま置いてあった。当たり前だけどね。

 ま、とにかく見たところ特に壊れたりもしてないようで良かったよ。

 昔から、たまに突然寝ちゃったりすることがあるんだけど、そういえば今までは回りがフォローしてくれてたんだよなぁ。

 これからは自分で気を付けるようにしないと。









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