開かれる門
まあいっか。
考えてもわからないし。
それに、はやくリンフォンを完成させたいんだよね。できれば今日中に。やっぱり引っ越し記念になにかを成し遂げるって、ちょっとかっこいいと思うんだよね。
リンフォンは、最初の正二十面体から、熊、鷹、最後は魚になる。
私は買ってからずっと暇を見つけてはリンフォンをいじって、熊と鷹は完成させた。つまり、残るは最後の魚だけ。
それも、後は背ヒレを出すだけというところまでできている。今は夕暮れ時。今からやれば、たぶん日付が変わるまでにはできるでしょ。
頑張るぞー!
…おかしい。
なかなかうまくヒレが出てくれない。
今は夜中の、11時半。もうすぐ日付が変わる。
あれから晩ごはんも食べず、お風呂にも入らずにやってるのに、ぜんぜんヒレが出てくれない。最後の最後で、まさかこんな難敵が現れるとは…。
「リンフォン、どうやら私は君をなめていたらしい。」
そんなことを言いながら、リンフォンを色んな角度から眺めてみる。触れるところは全部さわったはず。どこを押しても引いても捻っても、背鰭じゃなく変なところが出っ張ったりへこんだり…。どうしたらいいんだろ。
「でも、やっぱリンフォンすごいよなあ。」
私の手には、(背鰭以外は)かなり精巧な魚の置物がある。まあ元は正十二面体だから、多少おかしいところはあるけど。それでも、こういう魚の置物が売ってあってもおかしくないぐらい。熊や鷹もすごくかっこよかった。不思議と力強さが感じられて、今にも動き出しそうなぐらい。
この魚も、水槽で泳いでても違和感ないかも。ちょっと右側に体を捻ってる感じも、なんか可愛い。ただちょっと不満があるとすれば──
「──尾鰭は上が長い方が、私は好きなんだけどなあ。」
この魚の尾鰭は、二つに別れた先の、下側が長い。けれど私は上が長い方がなんとなく好きなのだ。なんとかできないかなあ。
そう思った私は、なんとなく尾鰭を捻ろうとしてみた。ただ、尾鰭の根元は回りそうにはない。たぶん無理だろう。そう思っていた。けれど…
カチッ
まるで鍵を開けたような音とともに、背鰭が出てきた。それだけじゃない。ちょっと身を捻った感じだった魚が、ピシッとまっすぐになった。
さっきまでのは元気に泳いでいるような躍動感を感じたけど、今はまな板の上で調理されるのを待っているかのような…。気のせいか。
とにかく、なんとか今日中に完成させることができた。最後が不意打ちみたいなものだったせいか、なんかちょっと釈然としないけど。
「あ、写真写真」
ちゃんと記念に撮っておかないとね~
それに、友華にも見せてあげたいし。熊と鷹の写真を見せた時は、喜んでくれたし。魚ができたら写真送るって言ってたから、ちゃんと約束は守らないとね。
何枚か撮って、メッセージもつけて…送信!
友華、喜んでくれるといいなあ。
魚になったリンフォンを手にとってみる。
「よくできてる。うふふ」
ヒレや鱗、顔の形。どこからどう見ても魚だね。
うーん。完成してうれしいけど、ちょっと寂しいなあ。これで終わりみたいだし。置物にして眺めるのも楽しいだろうけど、もっと遊びたかったなあ。
また正十二面体に戻して遊べばいいかもしれないけど、初めて遊ぶワクワクドキドキはもう味わえないんだよねぇ。
「ん?」
魚を眺めていたら、あることに気がついた。
それは、魚の胴の右側。そこの鱗だ。
なんか、開きそう。
ちょっと指をひっかけて引っ張ってみる。
やっぱり開きそう。たぶん、観音開きの門みたいになってる。
一度気づくと、開けずにはいられないのが私。
両手で持って、二本の親指を使って開けていく。
そして、完全に開ききった時。
激しい眠気におそわれた私は、我慢できず眠りについた。
──その日、門は開かれた──