プロローグ
「すいませーん。これ、何ですか?」
そう言って、私が店番のおじいさんに見せたのは、木で作られた正20面体。
高校卒業祝いの旅行ということで、何人かの友人と九州のとある県に旅行に来ていた。
その道中、物珍しさからなんとなくで入った骨董屋。
そこで私が見つけたのが、この不思議な正20面体。ただの置物というには、複雑な仕組みをしているように感じる。
「これはっ。これは…ああそうだ。嬢ちゃん、立体パズルって知ってるかい?これはそれの一種だよ。」
「これが?。へぇすごーい!」
立体パズルという物があるのは知っていた。けれど実際に見たのはこれが初めて。なんかすごく頭がいい人の趣味みたいなイメージがあって、そんなものを自分がいま持っていることに、少しテンションが上がる。…これを見たおじいさんの、驚いたような反応はすぐに忘れてしまった。
「ちょっと待ってなさい。今、説明書取ってくる。」
そう言っておじいさんは、裏に引っ込んでいった。
おじいさんを待っている間、手元の正20面体をしげしげと見つめる。…仕組みがまったくわからない。
複雑な形をした木が、複雑に絡み合ってるように見える。パズルというくらいだから、外れたり変形したりすると思うんだけど。
「未来ー。何見てんの?」
そんな私が気になったのか、一緒に旅行に来てた友人───新宮 友華が声をかけてきた。友華とは高校の入学式からの付き合いで、今では親友の間柄。
「見てこれ。立体パズルなんだって!」
「へえ…安いの?」
「さあ?」
二人でそんなことを話してると、他の友人達も「なになに~?」と寄ってきて、好き勝手話はじめる。「ルービックキューブみたいに回るんじゃない?」「いや、たぶんバラバラになるんだよ。」「オークションに出したら高値付きそう。」「りんご飴食べたい。」「なんで!?」
そうしてたら、苦笑いを浮かべたおじいさんが戻ってきた。手には黄ばんだ古そうな紙を持っている。
「これは『RINFONE』と言ってね。この説明書によると…手の中でこんなふうに──」
そのおじいさんの説明通りに手を動かしてみると、リンフォンのとある面が出っぱる。それをおじいさんの言う通りに動かしてみると、他の面が出っぱったり、へこんだり、回ったりする。
「何これおもしろーい!これいくらですか?」
「う、うーん。けっこう古いものなんだよねぇ、それ。よし、特別に1万でどうなるかな?」
私が値段を聞くと、なぜか冷や汗をかきながらおじいさんはそう言った。
「うーん。」
それを聞いて、私はちょっと悩んだ。正直に言って、払えないわけじゃない。この旅行のために単発のバイトをいくつかこなし、多少の余裕はある。だからといって、ためらいなくぽんと出せる額でもない。旅行もあと2日あるし。
それにこの春から私は大学生で、一人暮しも始める。両親は多少の仕送りはしてくれるらしいけど、最低限バイトしなさいと言ってくる。
つまりできるだけ貯金しておきたい。
そんな私に1万はけっこうな大金だ。
それでも、このリンフォンはかなり良い物だ。こういうのを掘り出し物って言うのかもしれない。それにどっかの誰かが、出会いは大事にしろとか言ってた気がするし。よし!
「k「ねえおじいさん。」…。」
『買います!』と言おうとしたら、友華がおじいさんに話しかけてた。どうしたんだろう?…はっ!まさか友華、リンフォンほしいの!?駄目だよ!これは私が買うんだから。いくら親友の友華と言えどこれだけは譲れな──
「それ、もう少し安くならない?」
その時、友華の目の奥がキラッと光ったのを、私は見逃さなかった。
「ありがとう~。友華!」
結局、おじいさんはリンフォンを私に半額の5000円で売ってくれた。持つべきものは値切り上手の親友だね!今度友華が値切りで困ったら私が値切ってあげるんだぁ。…え?むしろふっかけられそう?
(´・ω・`)
「ハイハイ。大事にしなよ?」
「もち!」