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第八話 油断アンド大敵


  

 顔にかかった返り血を手で拭いつつ、あたしは肩で息をしていた……

 


「ハァ、ハァ……終わった、のか」


「奥に逃げ込んだ奴らがいるぞ、追うのか?」


「当然です」


 ミナの発言に、あたしの意識は当然、松明に映し出された洞窟最深部への入口へと向く。


 ……そうだ、まだ終わってない。

 

 あたしは、ダーチャが落した松明をひらって、そのまま突っ走って先陣を切り奥への通路へ……

 

「待て、フィス!!」

 

 通路、へ……!?

 

 

 ― 刹那

 

 

 あたしの目の前の地面が、上下さかさまになった。畜生、落とし穴だ!

 

『剣を下にッ!!』


 フィスから『指示』が飛ぶ。あたしは落下しつつも咄嗟に大剣を下に構え、落下時に地面へ突き立てた。

 

 ……危ねー……もう少し遅ければ、地面に仕掛けられた竹槍に顔面がグサリだったわよ。

 

 ……落とし穴の直径は1m、深さは4mほど。自力で這い上がれる状態ではない。

 

 全体重がかかっている大剣を持つ手の皮が擦りむけ、痛みが走る。

 

「フィス、大丈夫、フィス!!ダーチャ、ロープを!!」


 ミナの叫び。

 

 やがて、麻で編まれた頑丈なロープがあたしの前に垂れ下がってくる。

 

「す、済まない」

 

 あたしはそれを掴み、大剣を引き抜く。上ではロシュフコーとダーチャが力を合わせてあたしを引き上げるが……

 

「きゃあああああッ!!」


 またミナの叫び、今度はなんだ?

 

「畜生、ミナッ!!」


 ロープを引いていたロシュフコーの力が抜ける。優先順位はあっちが先か……

 

 地面にもう近くなっていたので、あたしはそのままロープを伝って自力で登る。

 

 そして、這い上がると……

 

 

「うぉおおおおおおおッ」



 死んだはずの食人鬼オーガが、ミナを人質に取るような形で、左手で腰を握り直立していた。


「じょ、冗談だろ……」 

 

 いや、それは先ほどの食人鬼オーガなのか……!?あたしが食らわせた致命傷や右腕が吹き飛んだあとから、蛸の足のような触手が何本も湧き出ている姿は嫌悪感しか感じない。

 

「ぐ、ぐぐぐ……」


 ミナを締め上げる力が強くなっていくと共に、

 

「ミナッ!化け物め……!!」


 怪物から伸びる蛸の足が3本、あたし達目掛けて伸びていく。この人質量保存の法則とかガン無視ですかそーですか!

 

『させるかッ!!これを使えッ』

 

 『フィス』があたしの脳内に動作のイメージを送り、あたしはそれをそのまま実行する。すなわち先ずは駆け出し、此方に向かってくる触手を低い姿勢から大剣を斬り上げ、切り払う。

 

「ミナッ!!」


 そして斬り上げた姿勢のままミナを掴む左腕を目掛けジャンプし、剣を反転させて、

 

「でりゃあッ!!アーダイン流奥義の2、破王連撃はおうれんげきッ!!」


 そのまま振り下ろし、断ち切るッ!!

 

 何者をも断ち切る鉄の奔流が奴の左腕が撥ねる、そのまま敵が取りこぼしたミナを、

 

「……大丈夫か?」


「お、お陰様で」


 空中でキャッチして着地。9.9、9.8、9.8、フィス選手単独トップに躍り出ました。

 

 

「おおごごごごごごご!!!」

 

 

 しかし、両腕を失った怪物は少しの間のたうつも、すぐに立ち直り、更に切り口から多数の触手を産み出していく。もーそろそろ死んでくれないとこっちの体力が持たないんですけど!!

 

「くそっ、キリがないッ!!」


 ミナと一緒に後退しながら地道に一本ずつ断ち切っていくあたし。だけど、触手の量が多すぎて、徐々に奴との距離が離れていく。このままじゃ体力を削られてジリ貧だ。ロシュフコーとダーチャも各々応戦しているが、湧き出てくる触手の量にみんな壁際まで迫られてる……まずい、このままじゃマジで全滅してしまうぞ……!!考えろ、考えろ……!!

 

 待てよ……確かギリシャ神話の逸話に、ヘラクレスの12の難行ってのがあって、その2番目に何度も首が再生する怪物、ヒュドラの退治……まぁRPGとかでもおなじみのモンスターだわね……において、最終的にヘラクレスはどうやってヒュドラを倒したかというと……

 

「……ミナ、俺が突出して奴の触手を付け根から断ち切る。その切り口目掛けてファイアの魔法が撃てないか!」


 首が再生しないようにその切り口に松明を押し当てて燃やしたのだ。昔の英雄って結構えげつないことするなぁ。


「え、でも……」


 よし、命名、ヒュドラ作戦。


 そうしてるうちに、

 

「うわー、こっちくんなこっちくんな、あ、あれ、あーれー!!」


 先ほどの戦いで足を怪我したダーチャがついに触手から逃げきれずに捕まってしまった。

 

「ダーチャッ!!」


 奴の触手は楽々とダーチャを持ち上げ、そのままくいっと眼前まで運ぶと、

 

「クワアアアアア」


 顔が端から端まで大きく割けて、牙だらけの口が開く。自分だけお食事タイムとか、じょーだんじゃないわッ!!

 

「野郎ッ!!」


 あたしはたまらず駆け出した。奴もダーチャを食うのに夢中で集中できていない、チャンスだッ。

 

 ダーチャを掴んでいる触手の根本は腹部の傷跡。あたしは迎撃してくる触手をかわしつつ、其処へ突撃する。もーやるっきゃない!!

 

「フィスッ!!」


 触手の一本が、あたしの肩を貫こうと直撃する。激痛……だけど、


「かまうな、呪文を詠唱しろッ!!」


 生前のあたしならともかく、フィスがその程度で止まるかッ!!触手が刺さったまま、あたしは剣を構え、

 

「ハッ!!」


 その根本を一機に切り裂いた。ダーチャを掴んでいた触手を含む、多数の触手がその力を失い、枯草が舞い落ちるように地面に落ちていく。

 

「ミナッ!!」


「ラ=ザイナ=ウルス、我が敵を燃やせ、ファイア!」


 瞬間、ミナの放った火球が切り口に直撃、燃え盛る。

 

 怪物は溜まらず、地底湖に逃げようとするが、

 

「逃がすかっ!!」


 その足を、あたしが追撃で断ち切り……

 

 

「オーッ!!オーッ!!」


 

 倒れこみ、のたうち回る。

 

「足の切り口にもッ!!」


「分かったわ。ラ=ザイナ=ウルス、我が敵を燃やせ、ファイア!」


 更に腕から伸びる触手を断ち切り、


「次も!」


「うん。ラ=ザイナ=ウルス、我が敵を燃やせ、ファイア!」

 

 この調子で次々と切り口を炎上させられた怪物は、

 

 

「アオオオオオオオッ」

 

 

 触手を再生できず、遂に全身が炎上し、ゆっくりと炭へと還っていった……

 

 

「いたたたた……くっそー、ミナの時は受け止めてくれたのにぃー、えこひーき!」


 触手を斬った時に落下して尻餅を付いたダーチャが頬を膨らませる。

 

「まあでも、生き残れたのだから良いではないか」


「そんなこと言って、ロシュフコーはてんで役立たずだったじゃない」


「そんなことはないぞ!大体……」


 言い争いを始める二人を、

 

「はいはい、まだ全部は終わっていないのだから、静かにしましょうね」


 お母さんのようになだめるミナ。

 

 そうだ、まだ全部は終わっていない。

 

「奥に、進もう」


 あたし達は、洞窟の最深部へと足を踏み入れていった。

 


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